表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
19/36

(2)


「フハハハハ‼︎ どきたまえ凡人ども‼︎ 」


 高らかに叫ぶ一人の男子に、一斉に釘付けになる生徒たち。

 その視線の先には、背が高くすらっとした、青髪で黒縁眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな男子生徒が、ドヤ顔で腕組みしながら立っていた。


「ハッ…この2年B組、永井(ながい) 綜次郎(そうじろう)様が、今回も堂々の1位のようだな……」


 芝居掛かったように、群衆をかき分けて歩み進める永井。そして、"永井 綜次郎"と書いてある場所を、無言でズバッと指差す。

 その先を見てみると……なんと満点。

 永井の言う通り、2位と20点以上も差をつけて、堂々一位に君臨していた。


 えらく鼻に付くけど…素直に凄い。


 永井を見つめる生徒たちは、ただ呆然として彼を見つめるのみ。

 冬架が、私を見てそっと呟く。


「永井君……凄いなぁ、中間に引き続き期末も満点で1位なんだ」


 その言葉に、嫌味は全く感じられなかった。

 凄いね冬架さん。そこまで人を素直に褒められるなんて、あなたやっぱいい人ですわ。


 あの永井 綜次郎という男は、成績優秀、スポーツ万能、品行方正、さらに次期生徒会長候補という、とんでもないハイスペック男子だ。

 当然、この高校には首席合格。聞いた話だと、有名腕利き医師の一人息子で、将来も約束されているんだとか。

 何から何まで普通な私とはまるで大違い。私とは縁の無い男だろう。

 しかし……そんなハイスペック男子にも、一つだけ、致命的すぎる弱点がある。


「注目せよ愚民どもォ‼︎ くれぐれも、この僕に楯突こうなど思わないことだ。いずれ僕は世界に名を残す名医師となる! サインを貰うなら今のうちだぞ! フハハハハハハ‼︎ 」


 いつの間に登ったのか、掲示板の上に仁王立ちしながら宣言する永井の姿が。


 ……そう、性格が最悪すぎるのだ。


 あのスペック故の自信なのだろうが、あそこまで行くとただの残念な人。

 なぜあの性格の悪さで、人望があり、周りからの評価が高いのか謎でしかない。

 彼を分かりやすく説明すると、頭が良くて良識もあるが、表裏がありまくる詩音みたいな感じだ。

 ……人に不快な思いをさせるという点では、むしろ同類なんだろうか?


「まぁ、性格に難はあるけど…ね」


「あはは……まぁ…ね」


 顔を見合わせて苦笑いをする私たち。すると、


「………」


 掲示板の上に立ったまま、無言でこちらを凝視するする永井が見えた。


「‼︎ ……ど、どけクソ雑魚ども‼︎ 」


 直後、いきなり下にいる生徒たちに怒鳴りつける。

 彼らが慌ててスペースを空けると、永井はアクロバティックに掲示板から飛び降りて、しゅたっと着地を決めた。

 ……だんだん罵倒の言葉が雑になってる気がする。


「えっ……? こ、こっちに来る? 」


 冬架が戸惑いの声をあげる。

 こちら側を真っ直ぐ見つめ、悠然と歩み寄ってくる永井に、私はちょっとした畏怖の念さえ感じた。

 てかやめて。来ないで。この醜悪男と仲間とか思われたくないんですけど。


 永井は私と冬架の前で、ピタリと足を止めた。

 ギャラリーの視線は勿論、私に浴びせられている。

 うわぁ…何かまた変な注目浴びちゃってるし……もう帰っていいかな?


「やぁ水園。君と話すのはしばらく振りだね」


 たった今初めて話したんですけどね。


「……何か? 手短に済ませてくれると助かります」


 最低限の応答だけはしておく。こういう奴の場合、無視が後々一番厄介なのだ。詩音のような単細胞とは違う。

 先に断っておくが、私は彼と一切面識はない。

 特に因縁をつけられることをした覚えなど無いし、一体何の用があるんだ……?


 冬架は、困惑した様子で私と永井を交互に見回し、どうすれば良いか分からない、といった様子であたふたしている。

 永井はしばらく両目を瞑っていたが、やがてゆっくりとその目を開く。


「さて、単刀直入に言わせてもらうが……」


 低い声が響き、私は息を飲む。

 あたりには、蝉のじりじりとした鳴き声だけが響き渡っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ