(11)
スリ犯を見つけてつき出すために、リョウは1階を、私は2階を手分けして捜索していた。
フードコートから右回りで、パニック状態の人を掻き分けながら、注意深く探しているが、一向に見つかる気配がない。
ポケットに入っていたスマホのバイブレーションが鳴る。
『犯人いた? 』
チャットの通知が来ていた。リョウからだ。この文面だと、あちらもまだ見つかってないんだろう。
『いない。一階はいた? 』
『今探してる』
やっぱりか。
しかし、隠れてるにしても全くそれらしい気配がなかった。
もしかすると、かなり凄腕のスリ犯なのか?
だとしたら余計に面倒な事態なんじゃないか?
いよいよ警察に任せた方が安全な気がしてきた……。
元はと言えば、私が詩音に付き合ってなければ、こんな事にはならず、平和な時間が過ごせていたんだ。
あの時、誘いを断っておけば…あの時、自動ドアから引っ剥がさずに、無視して帰っていれば…。
たかが付き添い、されど付き添い。さまざまな後悔が脳内をよぎる。
…しかし、起きてしまったものはしょうがない。これから避ければいいだけの話。
仕方ない、今は犯人を探そう。
そしたら、大人しく警察に通報しよう。これ以上変に目立つのはゴメンだ。
時刻は、いつの間にか7時を優に過ぎていた。外はまだ明るく、西の空が夕陽でオレンジに染まっている。
ぼんやりと、窓ガラスの外を眺めていると、
『姉ちゃん! やべぇ、見つかった!! 』
突如バイブと共に、リョウからのメッセージが。その言葉に、一瞬だけ内心でガッツポーズする。
しかし、どうにも引っかかる文だ。
『見つかったって犯人? どこにいたの? 』
見た人物が犯人なら、"見つけた"と、そう返ってくるはずだ。
そう思い返事してみたところ、返ってきた返事は…
『いや、それが…』
何とも嫌な予感を覚える短文。ちょっと待て、もしや……。
『詩音とそれを追う群衆、正面から出ちまったんだよぉぉぉぉ!! 』
……やっぱりか。
あいつらにだけは見つかるなど、あれほど念を押しておいたのに。しかも正面って。
まぁ危害を加えられることはないだろうが、個人的に面倒な思いをする事になるので、なるべく接触は避けたいのだ。
呆れながらも、スマホに目をやっていると、
『姉ちゃん、オレはもうムリだ……後は頼んぐぁぁぁぁぁ』
……なんて大袈裟な。
悲鳴まで律儀に書く暇があったら、その前に逃げたらどうなんだ。
私は、リョウの渾身のメッセージを既読スルーし、スマホをポケットにしまった。
☆★☆★☆★☆
……やはり見つからない。
さっきまで探してた場所を再度探してみたが、やはり影もカタチもない。
他の客はというと、疲れてしまったのか、呑気にアイスなどを買って休憩している。
「いやー、やっぱ新発売のスイカソフトは最高だな! 」
「邪道め! 王道のバニラが一番だろーが! 」
「コラコラ、醜い争いはやめたまえ。宇治抹茶アイス教に入れば、皆救われるぞ」
……いいのこれ? さっきまでの怒りはどこ行ったんだ。
最近の若者は、こうも簡単に感情をリセットできるものなのか? ちょっと羨ましいけど。ってかスイカソフトなんてあるのか。今度来た時にゆっくり堪能させてもらうとしよう。
気がつけば、私は誰もいない階段まで歩いてきていた。ある意味の連続事件に巻き込まれているため、既に体力も限界まできていた。
階段を下り、乱れた胸元のリボンを結び直す。
「…ちょっと休も」
思えば、よくこんな運動用でもない通学用の靴で、ここまで動けたものだ。
独り言と共に、段差のところにドサっと座り込む。
その時だった。
「………あれ? 」
……なんとなくだが人の気配を感じる。それも、ただの買い物客のそれとは違う。
おそるおそる、一段ずつ階段を踏みしめる。
ーーー降りた先に、そいつはいた。
プロレスで使われるようなマスクに、全身黒タイツ。
何より、サンタクロースのように背中にかけた、物が沢山入ってそうな袋。
さらに、コソコソと周囲を気にするような挙動。
そいつがーーースリの犯人だということは、誰が見ても一目瞭然だった。




