(10)
スリ被害が大量に出たということで、モール内は大パニックに。
私達を含め、みな冷静さを失っていた。
何てこった……開館から間もないうちに大事件が起きてしまった。
「チッ…こんな事しやがんのはどこのどいつだ!! 」
「まだ遠くには行ってねぇはずだ、探せ!! 」
「怪しいと思ったら、片っ端からひっ捕らえろ!! 」
慌てふためいた様子で、犯人を見つけ出そうとする数名の男性客。
……やみくもに探したって見つかりっこない。こういう時に頼りになるのは警察だ。任せておけば、
「リョウちん!一緒に犯人探し手伝おう!! 」
お前もかい。
……まぁ詩音に期待はしてない、リョウはお願いだから一緒に警察をーー
「ああ! こんなの酷すぎる、オレらも行くぞ!! 」
お前もかい。
……何なの? もしかして私って普通じゃないの? 異端なの? こういった時って、とりあえず当たって砕けろ方式で行くもんなの? 頼むから、誰でもいいから私の味方について下さい。
「どれくらい酷いかっていうと…姉ちゃんの部屋で『吸盤になって生涯壁に張り付いてたい』って寝言聞いた時と同じくらいひでぇ気分だよ!! 」
くだらない事と比べん…え!? 私そんな事言ってたの!? めちゃんこ恥ずかしいんですけど!?
…てか、なに人の部屋に勝手に侵入して寝言聞いてんだよ訴えるぞ。
これは事が済んだ後、詳しく話を聞く必要がありそうだ。
…そんなこと言ってる場合じゃなかった。
誰がどう見ても穏やかじゃない状況だ。これ以上被害が増えてはマズイ。早いとこ犯人を確保し、財布を取り返さなければ。
気がついた時には、詩音とリョウは犯人探しにれっつごーしようとしていた。
「あ……ちょ、ちょっと待った! 」
またはぐれでもしたら大変どころじゃない。
私は慌てて、2人の後を追って走り出した。
☆★☆★☆★☆
「さて…探すはいいけど、犯人がどこなのか分からん」
行動開始からからわずか20秒。
早くも八方塞がりといった様子になっている。
言わんこっちゃない。手がかりもなしに探そうとするから。
「オレらも、怪しい奴を片っ端から捕まえてやる! 」
だからそれじゃ見つからないんだって。誰かが捕まえてくれるのを待った方が、ずっと楽だ。
そもそも怪しい人なんて、そう簡単に見つかるわけーーー
「いたぞ、アイツだ!! 」
「見つけたぞ!! 覚悟しろコソ泥!! 」
ーーーマジか。そう簡単に見つかるもんなのか。
声のした方を見ると、そこにはJASPAの制服を着た従業員が数人。
声の行き先はーーーあれ? こっち側…?
「あのオレンジ髪の小娘が! ウチの弁当を片っ端から指でツンツンしてたんだよ!! 」
「壁に変な落書きされたザマス、ウチの口紅で!! 」
「ウチではな、売り物のメガホンとボールで、勝手にジャグリングなんてされたんだぞ!! 」
あーあ……いつものですか。
営業妨害ってか、ここまでくると普通に犯罪レベルなんですが。一度こいつも犯人と一緒に連行してもらおうか。
…ってかまたジャグリングか。今すぐ学校辞めて、ジャグラーにでもなったらどうだ。
そんな事を考えていると、
「もう逃がさねぇ、とっ捕まえろ!! 」
「許さないザマス!! キエェェェェェェェ!!! 」
「たっぷり問い詰めてやるからなぁぁぁ!! 」
従業員達が怒声とともに、一斉に詩音に襲いかかる。本当にキエェェェとか言う人いるんだな。
当の犯罪者もどきは、それはそれは楽しそうに、
「あっ! 鬼ごっこするの!? よーっし、まっけないぞーーー!! 」
鬼ごっこをおっ始めてしまった。まぁ間違ってはないんだろうけど。
詩音とそれを追う従業員、さらに唆された一部の客は、あっという間に見えなくなった。あれだけの人数でも、体力バカの詩音は、そう簡単には捕まらないだろう。
悪いけど、私達は全スルーで行かせていただきます。
「…今のうちに、リョウ。手分けして探そ」
「お、おう……姉ちゃんがどれだけ酷ぇ思いしてるか、よく分かったよ」
「同情しなくていいから。見つけたらチャットで連絡して」
「りょ、了解! 」
私とリョウは、二手に分かれて犯人探しを再開した。
…あの群衆に出くわさないよう、細心の注意を払いながら。




