(9)
何とか騒ぎを収めた後、私たちはフードコートから少し離れたソファーに腰掛けて休んでいた。
息が荒く、顔が熱くなってるのが分かる。もう軽くグロッキー状態になりそうなんですが。
しばらくここで休ませて。それかもう早いとこ帰らせて。
「マナちん……だいじょぶ? お疲れ? 」
汗だくでうなだれる私を気遣い、詩音が心配そうに私に寄り添う。
手ぶらに小さなリュック……こりゃまだ買い物済ませてないな。もう普通のつぼでいいんじゃないか。
私はゆっくりと顔を上げ、
「あはは…大丈夫大丈夫…」
と、詩音の方を向いて作り笑顔を作る。
すかさず、私の隣で座っていたリョウが、詩音を指差し物申す。
「お前…よく恥ずかしげもなく人前で騒ぎ起こせるよな! 頭どうなってんだ! 」
言ってることには同意するが、敬語を使え。腐っても一応先輩だぞ。
「詩音とか言ったな! 何だよソフトクリームでジャグリングって! 食べ物を粗末にしてんじゃねー! 」
怒るポイント違うし、あれサンプルだから。
しかしリョウが色々言ってくれることで、私のツッコミが楽になった。ありがたい。
「何であんな事できんだよ!? どうやってやった!? 教えてくれ!! 」
さらっと弟子入りしようとすんな。
リョウの問いに対して、詩音は、
「んーーーーー、何となく! 」
元気いっぱいにそう答えた。うん、詩音らしい見事な答えになってない答えだ。
「面白かったら何でもしていいわけじゃねーだろ! 」
リョウも、指をビシッと指し直して言った。何だかんだこの2人仲良くなってる気がしない?
「リョウちんも一緒にやろーよー! 」
「やらねーよ! リョウちんって呼ぶな!! 」
言い争いがヒートアップ。
やっぱり仲良くなってる。うちの弟に悪影響を及ぼさないか、心から心配になる。
まぁ面白そうだし、休憩しつつしばらく見学してようかな。
私は小説でも読もうと、スクバをいじり始める。
筆箱に教科書、ノート、小説本、クリアファイル、弁当箱……慣れた感触が伝わる中、私は"あるもの"だけが無いことに気づき、違和感を覚えた。
「……財布が……ない…! 」
「「えっ? 」」
私の呟きに、何故か取っ組み合いにまで発展していた2人が、動きを止めて反応する。
…そう、財布がどこにも無いのだ。
慌てて周囲を見渡すが、無い。立ち上がり、フードコートの方を探してみても、無い。
まずいな、どこかに落としてきたかもしれない…。
「財布が無いって……あれっ!? オレも無い!! 」
リョウも持っているビニール袋を探すが、入っていなかったらしい。ってか何てとこに入れてたんだ。お前は全体的にもっとお金を大切にしろ。
……まぁ、今の私に説得力は皆無だろうけど。
「あれ! 詩音もない! これじゃ魔法のつぼが買えない!! 」
詩音もリュックを探って言う。やっぱり買ってなかったのか。
「おかしいぞ…3人一気に財布がなくなるなんて…! 」
リョウの言う通り、確かにおかしい。
管理能力の低いバカ2人はともかく、私は確かに、スクバのチャックを閉めていた。穴が空いてでもない限り、財布が無くなるわけがない。となると……
「まさか……盗まれた!? 」
リョウがしてやられた、というふうに狼狽する。決めつけるのは早いが、まぁそう考えるのが自然だろう。
「あれ…俺の財布がねーぞ!? 」
「…あ! 私のも無い!! これじゃ買い物が出来ないわ! 」
「まさか盗まれた!? クソッ……誰だ!! 犯人出てこい!! 」
他の買い物客が口々にザワつき、悲鳴や怒声をあげる。
どうやら私たち以外にも、スリの被害者がいるらしい。
…というより、この辺り全員が被害に遭っている、そんな感じだ。
……神様、どれだけ私を苦労に陥れれば気が済むのですか……?




