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ーーー探索開始から20分。
一階にはどこにもおらず、2階の『星河書店』『洋服Blood』『携帯修理 サワキ』と順に探したが、全てハズレ。現在は、2階のフードコートに向かっている。
「姉ちゃん…オレゲーセン行ってていい? 」
後ろについてくるリョウが、スマホをいじりながら不平を言う。いい加減ゲームから離れなさい。
「姉ちゃんが無理やり連れてきたんじゃんか」
それに関しては図星なので、何も言い返さない。
「黒のキャップに、白のロゴTシャツにジャージ、黄色のリュック、オレンジ色ショートの癖っ毛…」
リョウは私から聞いた、詩音の見た目を確認するように呟く。
「こんな見た目の人、この買い物客の中にいくらでもいると思うんだけどなぁ…」
「それプラス、小学生レベルの言動をしてる奴が、私の探し人ね」
すかさず追加する。って言うか、恐らく決め手はそこだろう。自動ドアで興奮して騒ぐなんて、あいつぐらいだろうし。
リョウは首を傾げながら、再びスマホに向き直る。
……ちょっと人が増えてきたかな?
ふと思った私は、スクバから自分のスマホを取り出し、時刻を確認した。
時刻は午後5時57分。少し人探しをしてるだけで、こんなにも時間は過ぎ去っていくのか。
これはますます早く見つけないと、最悪帰れないなんて事もあり得る。
私たちは、少し歩行ペースを上げた。
そうこうしてるうちに、フードコート前に到着した。
ラーメン屋に鉄板料理、ハンバーガー店、アイスクリーム屋と、これまた全国の有名チェーン店が並んでおり、至る店で行列が出来ている。
「あっ、フードコート着いたよ」
「着いたね」
2人の声には、精神的疲労と怠みが含まれていた。
フードコートに足を踏み入れた、その時ーーー
ーーーーダダダダダダダダッ!べちゃっ!
ーーーー見覚えのある少女が、こちらに向かって猛ダッシュ…そして転倒。両手には何か持っている。何かもう嫌な予感しかしない。
「イェーーーイ!! ……あっ、マナちん! 詩音ね、ちょうど面白いこと見つけたんだ! 見てて見てて! 」
案の定、黒キャップを外し、オレンジの天パが大爆発していた、詩音である。
起き上がった詩音は、嬉々として言い放つ。
とにかく、無事に見つかってよかっ…じゃなくて! 手に持ってるのは……ソフトクリーム?
詩音が両手に握るそれは、バニラと抹茶のソフトクリームだった。
その姿を、『サーティーンアイス』の制服を着た女性店員が、泣きそうな表情で追いかけている。高校生のバイトだろうか。
「お客様困ります! そちらは商品ではございません!お、お客様!! 」
…………あっ、なるほど。
よーく見ると、詩音が持ってるのは本物ではなく、ソフトクリームの食品サンプルだ。簡単に言うと、寄り道に『サーティーンアイス』に寄って、飾ってあるサンプルを奪って逃げたってわけか。
……商品盗らなかっただけマシだと思うが、普通に営業妨害で訴えられるレベルだよねコレ。
その本人はと言うと、そのままジャグリングとかやりたい放題やっちゃってるし、店員さんは遂にしゃがみ込んで泣いちゃったし、フードコートの人々がほぼ全員ザワつき出したし…。
なんていうか…うん、本当に申し訳ありませんでした。
「……姉ちゃん、姉ちゃんが探してた人って…この人? 」
ドン引きするリョウを余所に、私は店員さん、賑わうギャラリーに向かって、頭がもげるんじゃないかって程に、謝り倒していた。




