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ライトノベル・パラドックス  作者: 灰色群青
言ノ葉言葉の言葉の力
9/10

致し方ない、と僕は口ずさむ

「お断りします、断じて」


「ええぇ、理由くらい聞いてくれてもいいじゃん」


「どうせろくな話じゃないでしょう」


「いや、それがさ。そういう訳でもないみたいなんだよ」

友介は至って真剣なようだった。茶化すでもなく、先輩の擁護をしてくる友介に何か違和感めいたものを感じつつも仕方なしに話を聞くことにした。



「これ見て」

そういうと立花先輩はため息交じりにカバンの中から一通の封筒を僕に差し出した。

長方形の真っ白い封筒には「立花果歩さんへ」と書かれている。

裏を見ると差出人の名前はなく、代わりに赤い指紋の後が残されている。要するに拇印というやつだ。



これは果たして一体何なのか、先輩の口ぶりからするに誰かからのラブレターなんだろうけれど、それにしても拇印なんて。普通のラブレターとは訳が違うようだ。



「これがどうしたんですか?」

中を見るのが恐ろしいことのような気がして。封筒の外見だけを見てその先を先輩に説明してもらおうと思ったの、だが。



「中見ないんですか?」

まさかの言ノ葉さんが今一番言われたくない言葉を発した。封筒を見ても察することができない辺り、言ノ葉さんはこういうのにきっと疎いんだろう。

僕は渋々、そして恐る恐る封筒を開封し、愕然とした。




拝啓 立花果歩様


僕が手紙を送り始めて、この手紙でもう四十通目です。

一体いつになったら僕の気持ちに応えていただけるんでしょうか。

僕は毎日、登校する前にゴミ出しをすることも、昼休みに決まってイチゴオレを飲んでいることも、下校時に何かに怯えながら帰ることも、その後犬の散歩に行くこともすべて知っています。

こんなにもあなたの事を見ているのに、一体どうしてあんな奴と仲良くしているんでしょうか。僕は不思議で不思議でなりません。

どうして、あんな奴と、なんでなんでなんでなんでなんでなんで

早く僕のものになってくれないとおかしくなりそうだ


君の事を一番愛している人より




やっぱろくな話じゃねぇ。


「......警察行きましょう.」

「待って、お願いだから、待って」


立花先輩は震える手で僕の袖を掴んだ。さっきまでの先輩の姿は当になく、ここには怯える一人の少女の姿しかない。男の僕ですら背中に悪寒が走って今にも吐きそうなくらいなのに。一体何を待つっていうんだ。



「待つ必要なんてないでしょう、これは明らかにストーカです。僕の手に負えるものじゃありません。少なくとも先生には相談するべきでしょう」


「文章、相談はしたんだよ。でも差出人が書いてないし、実害も出てない。だから注意はして見てみる、とだけ言われたんだよ」


「実害は出てるだろ、どう考えたって。どう見ても参ってるようにしか......見えない」

さっきまでの様子からは参ってる様子は見えないけれど。


「というか、これを僕に見せて一体どうさせたいんだ?意図が理解できないんだけど」


「解決しろ」


「だから無理だ」


「だったら果歩先輩に告白しろ」


「もっと無理だ!」


「大体解決って言われてもなぁ。それは要するに立花先輩が望む結末通りに解決しろって事だろ?しかも先輩に告白することがどうして解決に繋がるんだ」


「ほら、私が告白されてオーケーすれば、諦めてくれるんじゃないかなぁ、なんて」


「......安易すぎませんかね、それは。逆上してくるかもしれませんし、そもそも告白されるなら友介のほうが適任じゃないですか」


「それが俺じゃ無理なんだよね。いやほんとに残念なことに」


「なんでだよ。イケメンに告白されてオーケーするのが自然だろうが、すごい癪だけど」


「ここ見ろよ」

友介はあんな奴と書かれたところを指差し、そしてその指を自分のほうに向けた。


「あんな奴ってお前の事なのか......」


「相談に乗ってたらさー、そう思われちゃったみたいで。俺ってホント罪なやつだよな」

こいつ案外楽しんでやがるな。この文面で怖気もせずよくもまあこんなに楽しめるもんだ。友介のメンタルの方がよっぽど狂気じみてる気がする。



「それで、これを送ってきた奴に心当たりはあるんですか?」


「隣のクラスの赤坂君、だと思う」


「なんでそう思うんですか?」


「なんとなく?」


「理由になってないんですけど......」


「いやーほら、去年おんなじクラスでからかったりしてたんだけど、夏休みくらいからかな。家の前にいたりしてさ、それから怖くなってあんまり近づかなくなったんだけど。そのくらいから手紙が下駄箱とか家の郵便受けとか机の中とかに入ってる事があって」


「......自業自得っていうんじゃないんですかね、それは」


「だからさ、私も少し悪いって思ってるんだよ。だから内々に解決したいなーなんて」

それで、待ってなんて言葉が出てきたのか。


文章ふみあき、そこでだ。俺は考えたんだよ、言ノ葉さんの力を借りてどうにかできないかってね」


「私、ですか?」


「そう、文章ふみあきがストーリーを考えてそれに沿うように言ノ葉さんに誘導していってもらえば万事解決できるんじゃないかって思う訳なんだよ」


「言ノ葉さん断って良いんだよ、こいつの思惑に乗る必要なんてない」

言ノ葉さんは少し考えた後呟くように


「役に立つなら、やり、ます」

そこは断ってくれよ、言ノ葉さん......。


「大体だ。お前なんか嫌いだって立花先輩が言えばいいだけの話なんじゃないんですか?」


「私は、彼の事を傷つけたくなくて。だから傷つけないでうまく解決できるように何とかならないかな。というか何とかしてかざりん」


こんな気色の悪いストーカーを庇うなんてどうかしてるとは思ったものの、何か事情があるのかもしれない。それに、正直言ノ葉さんの言霊がどの程度のものなのか、どんな制約があるのか試してみたくもなった。だから僕は仕方なく引き受けることにした。


「分かりました。ただ、あくまで僕の出来る範囲でやるだけなので、過度な期待はしないで下さい」

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