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ライトノベル・パラドックス  作者: 灰色群青
言ノ葉言葉の言葉の力
7/10

解答不能の推理ゲーム

「じゃあまず一つ目の質問は俺から行くぞ」


『今、恋愛対象として好きな人もしくは気になっている人がいる』

「......いいえ」


「......ねえ、それってあんたが質問したいだけじゃないの?もしかしてその質問のためにこの推理ゲームを......」


真理はじと目で友介を訝しむ。


「い、いや違うって!違う違う!好きな子がいる部活に入るっていうのはラブコメ的にも定石だろ!?俺はその可能性を潰しただけ!これマジだから!」

必死に弁解する様は図星のように見えるぞ友介。



「......ふーん、まあいいわ。じゃあ次私の質問ね」


『本もしくは小説が好き』

「はい」



なるほど。なら次の質問は自ずとこうだ。


「次は僕か」


『小説が書きたい、書いてみたい』


「......どちらでもない、です」



うーん、これは困った。正直これで終わると思っていた。友介の言うたった三回の質問で終わると思ったのだ。



だって文芸部に小説が好きで入ったのに小説が書きたいわけではない、なんてなんだか矛盾している。読みたいだけなら図書館へ行けばいい話だし、ぶっちゃけて言えば書くだけなら勝手に書けばいいのだ。



つまり他の目的がある、ということだ。

ただ、一つ気になるのは返事がいいえではなく『どちらでもない』ことだ。

場合によっては小説を書きたい、と取っても差し支えないということだろう。



そんなことを考えているとまた友介が質問を再開する。

「なるほどなるほど、これは思っていたより難解かもしれない」

友介はどうせ、小説を書きたくて入部したと思ってたんだろう。



『文芸部を選んだのには明確な目的がある』

「はい」



何を当たり前のことを聞いているんだと思ったけれど意外と大事な質問だということに気付くのにそう時間はかからなかった。

なにせ先生に言われて仕方なく入るという選択肢も存在する訳で、ちなみに僕もその一人だ。



帰宅部というのは大学に入る時に大きなマイナスとなる。というかそもそもそんな部活はない。どうせならどこか適当に部活に入っておけば大学の面接ではいくらでもなんとでも言い訳はできるし、内申にもそこそこいい影響をもたらす。



そういうこともあって学校の先生というのはどこにも所属していない生徒には積極的に部活を進めることはよくあることだ。言ノ葉さんはクラスの様子からして、友達やら部活やら趣味やら、いってしまえば「普通の青春」といったものとは無縁な人間だろう。



だったら。



僕は質問の答えを聞いてこれを聞かずにはいられない。



『文芸部でなければならなかった理由がある』

「はい」



僕の目をしっかりと見つめる言ノ葉さんからは何か明確な意思のようなものを感じた。何かを訴えかけている、何かを伝えたがっている目だ。推理ゲームの答えを外したところで罰ゲームだったりはないけれど、僕は確信した。



―絶対に僕が当てなければならない。



そうでなければ彼女に失望されてしまう気がして。それがなぜか恐ろしいことのような気がしてならなかった。



「うーん、なーんか頭こんがらがってきちゃったよ私」

真理は完全に頭から湯気が出そうな勢いだ。背もたれに寄りかかって思いっきり姿勢を崩す。



「ねね、言ノ葉さんってさお茶派?」

「いえ」

「あ、じゃあコーヒー派だ!」

「はい、まあ。ブラックは苦手ですが」

「りょーかい!んじゃ私自販機で飲み物買ってくるねー」



こいつ逃げる気だな。あまりにさりげなさすぎて気付かなかっただろ。

逃がさんとばかりに友介が真理を問いただす。



「おい、真理それは質問なのか?」

「......ダメ?」



友介に攻められ、僕に助けを求めてくる。僕ならダメとは言わないと踏んでの事だろう。なんと計算高い女なんだ!きっと将来結婚相手求めに六本木の社長パーティーとかに行くんだろうなこいつは。


上目遣いに前傾姿勢で胸元強調してくるあたり、ビッチ臭いし僕はそんな色仕掛けには屈しない。


「......僕にお茶買ってきてくれ」

「友介はー?いる?」

「俺はいいや、サンキュー」


無理でした。


「逃げたな」

「完全に逃げたな」


残された僕らは同じタイミングで同じ言葉を吐き捨てた。



友介は仕切りなおすように両手を打ち合わせる。

「じゃ、次で最後の質問にするか」


『ずばり手紙を書くための文章能力が欲しいから』

「いいえ」


質問というか答え合わせに近い質問だった。ここまでの推理でその結論にたどり着くのは妥当なんじゃなかろうか。友介が言わなければ僕が質問していたところだ。



「これ絶対正解だと思ったんだけどなあ、残念」



友介はまるで残念がっているように見えない。こいつはそういうやつだ。ゲームとかお遊びとかそういうのが大好きなのだ。



中学時代は運動部系、具体的にはサッカーとテニスをやっていた友介だったが、高校に入って急に文化系のしかもオタクの多い漫研なんかに入って自分もすっかりオタクになってしまっている。

普通の人間は一度運動部に入ったら大抵はそのまま高校でも運動部だ。自分が才能を生かせる場所を探し、ちやほやされたい他人より優位に立ちたいと思うのは当然の事だろう。



しかし、才能溢れる来栖友介という人間に限ってはその限りではないらしい。

僕も流石に漫研に入ると聞いたときは耳を疑い、その理由を聞いてみたことがある。

友介曰く「俺にとって結果はあんまり意味を持たない。その過程こそが楽しいんだ」と。

なかなか凡人の僕には理解しがたい迷言だ。


「ほら文章、最後の質問だぞ。これで当てられたら俺相当お前の事尊敬するね」


この才能溢れるイケメン君に尊敬されるのは悪くない。むしろいい。



僕は一応最後の確認をしておく。

「別に質問の後に答えでもいいんだろ?」

「まあそうだね。最後の質問の答えから最終的な答えを導き出せればいい。正直俺にはそれでも当てられる気はしないけどね」



僕は最後どんな質問をすれば答えにたどり着くのかをちっぽけな頭をフル回転させて考えてみる。



今までの質問をもう一度振り返ってみる。

「本や小説は好き」でも「小説を積極的に書きたいわけではない」

「文芸部ではなかった理由があり」且つ「文芸部でなければならなかった理由がある」

それは内申ではない全く別の理由。



夕焼けの空、そこに佇む儚い少女。

言ノ葉さんと初めて会った時を思い出す。厳密にいえばクラスで会ってはいるけれど、彼女と接点を持ったといえばあの場所でだろう。



彼女はあの景色を「綺麗」といった。

そんな彼女の目は決して感動しているようには見えなかった。むしろ悲しんでいるように見えた。



綺麗なことが当たり前だと、そんな風に見えた。

彼女はクラスでも浮いている言ってもいい程、他人とは話さない。それは一人が好きだとか、そういう次元を超えて話すことを忌み嫌っているかのようだ。



―もしかして。



いや、でも。そんなはずは。ありえない。まさかフィクションの世界じゃあるまいし。

頭ではどう考えてもおかしいと否定の羅列が巡っている。

それでも否定しきれない僕の心が確かにある。



最後の質問を僕はやっと思いつく。



『言葉は好き?』

「いいえ」



言ノ葉さんは少し目を瞑ってからゆっくりと首を横に振った。

時計の針も心臓の鼓動もしっかりと聞こえるほどに時はゆっくりと進んだ気がした。



「???」



言ノ葉さんとは真逆に明らか友介は戸惑っている。

僕の意味不明な質問に考える人のポーズでそのまま石像になりそうな勢いだ。



「文章、それってどういう意味だ?その質問の意図が全く分からないんだけど」

「とりあえず、答え合わせからしてもいいか?」

「あ、ああ」

歯切れ悪く友介は返事をする。まるで納得のいかないといった顔だ。



言ノ葉さんに僕は小説やライトノベルの設定にありそうな結論を述べる。

「間違ってたら本当にごめんね。言ノ葉さんが入部した理由は、心を探すためじゃないかな」


「......はい」


ゆっくりと、ひたすらにゆっくりと時間は流れた。


何となくあの日彼女の言いたかったことが分かった気がした。

―私にも見えるかな。


がんじがらめに言葉に支配されてしまった彼女の切実な願い。


―事実は小説より奇なりとはよくもまあ言ったもんだ。


言ノ葉さんは少しだけ嬉しそうに、微笑んで衝撃の事実を口にした。


『言霊って、信じますか?』

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