反省文の反省は逆説的に反省していない...わけではないよね。
私は本日寝坊をし遅刻及び授業中に睡眠をいたしました。
遅刻及び居眠りをした理由は執筆活動に明け暮れていたからに他なりません。
謝罪はしません。
なぜなら、本当に悪いと思っている人間はそもそも遅刻などしないので私のように反省文を書く必要がないのです。
そもそも反省文というのは非常に矛盾しており、反省をしている人間は誠実なので反省文を書きますが、反省していない人間は反省文を書いたからと言って反省をするわけではないのです。
仮に反省文を出したとしても、態度で示せなどという言葉を投げかけられるだけであり、まるで反省文を書く意味など無いかのような発言を反省文を書かせた本人が述べてくるからに他なりません。
よって反省文は無意味であると共に、存在そのものが矛盾しているという結論に至りました。
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「おい、文。なんだこれは」
担任の明石みゆきは眉間にしわを寄せ、小さい額には青筋を立てて僕の反省文を読んでいる。
「御冗談を、反省文ですが何か」
「......。」
「一回死んでみるか?」
目を瞑って再び開けた時には殺意がこもっていて目も吊り上がっている。目を瞑っていれば細長の顔立ちに凛々しく彫の深い目元が程よいコントラストを演じすごく美人なのにもったいない。
「殺人予告!?」
「はあ。誰が、反省文について考察しろと言った。ここまでくると呆れを通り越して殺意が湧いてくるな。君のそのやる気のないような目を見ていると余計だ」
「やる気はありますよ、やればできる子ですから」
そうそう、今はちょっとスイッチが行方不明になってるところ。机に突っ伏したときに偶然やる気スイッチ入っちゃっただけだから、睡眠の。
「......馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったものだな」
「いやーそんなことないですよ、僕だって馬鹿なことくらい考えたりしますよ」
馬鹿と言われているのだろうとは思うが、万が一ということもある。自分の事を馬鹿だといって嫌味だなどと思われるのは心外だ。
「自分の事を天才だと思ってるのか、君は。まったく本当にどうしようもない馬鹿だな」
ですね。そもそも天才は天才と自覚していないのが厄介だ。
「普通の人間は適当に反省文を書いて提出して終わるんだ。なんで君はわざわざ怒らせるようなことをするんだ」
明石先生は僕のプライドよりも薄っぺらーい紙切れを机に置き、両肘をついてボールペン片手に拳を額に当てている。前傾姿勢になった胸元は重力には逆らわず細いくびれと対照的でたわわに実っている。
直視するわけにもいかず、胸を中心戦に目を左右に反復横跳びさせながら必死に言い訳を考える。
「ふ、筆がのっちゃいまして」
「あぁ?」
べきっとボールペンが嫌な音を立てた。それと同時に明石先生の口角と目尻が吊り上がる。
「せ、先生ともっと話したいなぁと、お、思いまして......」
「そうかそうか、遠慮するな。生徒指導室で私の気が済むまで話をしてやるぞ。安心しろ、密室だからあんなことやこんなことが沢山できるぞ」
グーパンチを掌で抑えるそれは完全に抹殺する予定だろ。はたから聞いたら生徒と教師の怪しい関係に聞こえるけど、生徒指導室行ったら絶対悪徳刑事の取り調べはじまっちゃうよ。これは生徒指導室行ったら死ぬな、前者なら物理的に後者なら社会的に。
「ひっ、書き直します」
「......はぁ、まあこの『反省文を書いても態度で示せと言われる』というところは理解ができないわけではないがな。形式上だと言っておきながら心がこもってないとか言われたりな。思い出しただけで腹が立ってきたあのハゲ」
明石先生は咳ばらいをし、姿勢を正し座りなおす。誰だよそのハゲ、気になるだろ。
「すまない、気にするな。ああ、それと書き直す必要はない」
「へ?良いんですか?」
てっきり反省文の書き直しと反省文の反省文を書かされるかと思っていたのに。
意外な返答にあっけにとられ思わず変な声が出てしまった。
「所詮は形式上のものだ。こんなものは社会人になって始末書を書くための練習だ。文は書こうと思えばいくらでも量産できるだろうからな、あまり意味はないだろう」
なんだ〇クか?ザ〇なのか?それともグ〇か?〇フなのか?
「はぁ、褒められてるのか貶されてるのか分からないんですが」
「これでも一応褒めているつもりだが。文章を書くのは得意だろう?たまに掲載されている短編小説もなかなか面白くて気に入っているんだ。現代文の教師としても一目置いているのだよ」
「いいか?教師としては授業中に居眠りされるのは非常に心外だ。私だって毎日面白い授業をと考えて授業しているのだからな、つまらないと否定されている気分になる。だが私個人としてはだ。そこまで熱中して執筆しているものだ、きっと私の期待に応えてくれる作品になっているであろうと少なからず楽しみでもある、というのが正直な本音だな」
なんだか本音を言われて少し気恥しいのと申し訳なさが込み上げてきた。自分の顔が少し熱を帯びるのを感じた。
「無駄にハードルを上げないでください、余計睡眠時間が取れなくなっちゃうんですけど」
「居眠りは私の授業以外にしろよ」
おい。さっきと言ってること違うだろ。まるで他の人の授業なら寝ても許されるみたいじゃないか。
「それでだ、文。私の気持ちを踏みにじったお詫びに君の文才を私のために少し役立ててはくれないか?拒否権はないがな」
そもそも文才があるかどうかに疑問が残るが、拒否権はないようなので渋々ついていくことにした。
「ああ、それと。文芸部に久々に新入部員だ、喜べ」
「これ以上幽霊部員が増えなきゃいいですけど」
友介も真理も一応文芸部員だ。存続できないからという理由で入部届だけ出してもらったまさに幽霊部員なのだが。実質まともに文芸部員としてやっているのは僕だけだ。
「安心しろ、兼部ではない。それに」
にたっと不敵な笑みを浮かべて明石先生はこちらをみて頷き勝手に何かに納得している。きもちわる!
「女子だ」
......あんた急にどうした。時代間違えてるぞ。
一応作家らしく僕は最後にこう綴ろう。
『故に僕はラブコメなんて信じないし、どちらかといえば暴力反対ラブ・アンド・ピース主義だ』