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ライトノベル・パラドックス  作者: 灰色群青
文才のない文文章の文才のない日常
3/10

ネタはいつでもすぐそこに

「締切、1週間後だからね、絶対守ってよ!ってねえ、聞いてるの!?」

「分かってるよ、毎回うるさいなぁ。小姑みたいだな」



何の締切かそんなことは分かってる。新聞に載せる短編小説の事だ。ラノベはあくまで趣味で書いている訳だけど、これは一応部活の名目で書いている。

真理は新聞部の部長で僕に執拗に原稿の催促をしている真っ最中。

ちなみに僕は新聞部じゃなくて文芸部で催促現場は放課後の文芸部の部室だ。



なんで新聞部に協力しているかと言うとだ。ふと脳裏に淡い青春がよみがえる。



そうあれは一年前、当時の新聞部の部長がネタがなくて困っていた時に、友介が真理に僕の事を紹介して短編小説を書くことになったのがきっかけだった。

それからは何だかんだ理由をつけて3か月に一回くらいのペースで短編小説を新聞にのっけている。



あの時の真理は本当にあざとかった。女の子に免疫のなかった(今でもない)僕は上目遣いでもじもじしながら

かざり君、小説書いてるんでしょ?私今新聞部で困ってて、良ければ力貸してくれないかな~なんて。ダメ...かな?」なんて真理が言うもんだからついうっかり

「今書きます!すぐ書きます!好きです!」と即答したのが地獄の始まり。

僕はいいように使われる新聞部の奴隷と化した瞬間だ。

もー、僕のうっかり屋さん!



それが今はこうだ。

「なっ!あき君が毎回毎回締め切りギリギリに提出するのが悪いんでしょう。大体小姑って何なのよ。そこは編集長でしょ、何よ小姑って。うるさいおばさんみたいじゃん、あれ?もしかして遠回しにおばさんって言ってるわけ?ねえあき君?ねえ?」

催促の仕方がほとんど借金の取り立てじゃん。しかもねえって連呼するなよ、怖すぎるから。ヤンデレな取り立てとかたち悪すぎる。



昔は催促も

かざり君頑張って?かざり君ならできるよ!」

とか言って書き終わるまで待っててくれたりしたのに。

後で聞いたら本人曰く、「手ぶらで新聞部に帰ったら殺されるから」原稿を待っていたらしい。

くそっ!女なんて信じないぞ!半年くらい僕の事好きなんじゃないかと思っちゃっただろうが!ラブコメだったら絶対ヒロインのはずだったのに!この場合の主人公絶対僕じゃないけど......。



「いや、そこまでは言ってないだろ。僕は真理がうるさいって言いたかっただけで寝不足気味の顔で迫ってきたからおばさんに見えるなんてことは一言も言ってない」

「ううぅ今言った!可愛い後輩も寝不足になりながら原稿書いてるんだよ!?新聞部部長として催促しないわけにはいかないでしょう」

ポニーテールの長い髪を左右に揺らし、両拳を握り締めほっぺを膨らませて怒ってくる。

訂正。やっぱり今も可愛い。仕草が。

顔は...ゾンビの特殊メイクしたの?

「私の顔くま出来てる?大丈夫?」

「熊本県のゆるキャラくらいには出来てる」

「......いやそれ目の下っていうか全身黒じゃん、ガングロじゃん!っていうか話し逸らさないの!もう、私が寝不足なのはあき君のせいなんだからね」

ものすごい剣幕で睨んでくる真理が怖いので僕も威嚇しておくことにした。

GALLLLLLLL。ギャルルじゃないよガルルだよ?



唐突に昨日高台で会った女の子を思い出す。僕は彼女の事を知っている。

同じクラスの言ノ葉言葉ことのはことは、いつも一人で返事と挨拶以外に喋っているところを見たことがない。昨日の言葉が僕の心に楔を打ったみたいにずっと残って離さない。

『私にも見えるかな』と言った言ノ葉さんの真意を無性に知りたくなった。

僕には見えていて言ノ葉さんには見えていないものの正体を。



「話変わって悪いんだけど、真理って言ノ葉さんの事知ってる?」

「ほんと突然変わるわね。言ノ葉さんって......同じクラスの?」

「あんな珍しい苗字の人そうそういないだろ」

「だよねー。っていうかなんで言ノ葉さん?もしかしてあき君...」

「違うから。そういうんじゃなくて、昨日たまたま会ってちょっと気になっただけ。同じクラスなのに誰かとしゃべってる所とか見たことない気がして」

「ふーん。まあいいや」

真理は怪訝そうな顔をする。

「私は去年も一緒だったんだけど、特に親しくしてる人とかは見たことないかな。私も挨拶くらいしかしたことない、かな。一応前のクラスの友達とかにも聞いてみるよ。あんまり成果は期待できないかもだけど」

言ノ葉さんとはまだ2週間くらいしか同じクラスじゃないけど、友達がいるようなタイプじゃないことは分かる。真理も新聞部で忙しいだろうし、あまり期待はできそうにないな。



社交辞令的に

「頼んだ」

真理はこくりと頷いてなんだか少しだけ頬が緩んだ。

「じゃ、締め切りに間に合うように原稿頑張ってねー。新聞部一同楽しみに待ってまーす」

くるりと半回転して扉の前まで来たところで、何かを思い出したかのように足が止まる。

「あ、そうだ。逃げようとしたら書き終わるまで監禁しちゃうぞ、てへ☆」

怖い、怖いから。てへ☆じゃないよ全然。言ってることと可愛さが反比例してるぞ。



真理が出ていったところでさてさて。短編小説はいったい何を書こうか?

正直全く決まっていない。今まで書いたのは四つだから今回は五つ目だ。

なるべく季節ものを取り入れていきたいなぁ。そういえば夏休み前はホラー系を書いたんだっけか。春先に怖い小説なんて縁起が悪い、明るい物語にしたいところだ。



考えが詰まった時はネタ探しをするのが手っ取り早い。校内で少しネタを探すか。

け、決して現実逃避するわけじゃないからね!いや、ほんと違うから!



僕のクラス2-4組。僕は文芸部部室からゾンビが襲ってこないかと背後に注意しながらそろそろ歩く。廊下から窓の外をのぞくと校庭で暑苦しい脳みそ筋肉集団が臭い汗を吐き出しながら必死に駆けずり回っている。校庭は運動部が独占していて、僕のような貧弱軟弱脆弱「3J」揃った人間には近寄りがたい結界ができている。一昔前の僕なら結界を解く呪文やらポーズをとっていたかもしれない。もう卒業したよ!!!ほんとだよ!?



うずく右腕を自制しながら運動部に蔑視の視線を送ってやる。なにせ運動部は文化部というものの存在を間違いなく見下している。



奴らは文化部=引きこもりのレッテルを貼って馬鹿にする種族だ。僕から見れば運動部なんて『マゾヒスト』以外に他ならない。何を好き好んで自分の体を痛めつけているのか意味が分からない。ほら今だって陸上部が「苦しい、苦しい」って言いながらはぁはぁしてる。何、変態なの?違うか。違うな。走って疲れただけだわ。



教室につくとクラスにはまだ数人残っていた。通称ギャル子とゆかいな仲間たち。

僕の机のバッグを取りに行くふりをして少し様子をうかがう。

ギャル子は金髪で制服のスカートを短くし、携帯には謎の生物一号二号ストラップを引っ提げ、ヤヴァイという言葉を連呼する。そんな習性を持つ彼女らの会話は普通の人間には到底理解できない。



「ねえ、まじこれやヴぁくない?」

「静、まじぱないわー。神がかってるわー」

「っしょ。あとこれもやヴぁくない?」

「分かるわーそれ。マジ卍」



......マジヤヴァイ。

お前ら超能力者か!テレパシーでも使ってんのか!何語だよ!最後のはどこに共感したんだよ!



いや、ここは文芸部員として彼らの言語を文章化してみようと思う。案外小説のネタになるかもしれない。......いや、ないとは思うが一応。



まずは言語の正しい認識から始めなければならない。小説家はきちんと単語の意味を知っておく必要がある。誤字脱字しようものなら、「この作者マジ卍」とかネットで叩かれるからな。だからマジ卍ってなんだよ。



『やばい―不都合である。危険である。のめり込みそうである。(広辞苑参照)』

ちなみに、やばという言葉は江戸時代には既に存在している。だからきっと

「火事だー、火消しはまだかー」

「早く壊さないと燃え移っちまう」

「やばいやばい」

と使っていたことだろう。



ちなみにそれより更に昔まで遡ると、「いとをかし」という単語が存在する。



だから最初はこうだ。

「これ、実に(げに)いとをかし?」



OH......。時代を遡りすぎた。......日本人って実は昔から馬鹿なんじゃないか?



二行目の解読に移ろう。これは簡単だ。

「静、まじぱないわー。神がかってるわー」

半端じゃない。神の如き業。



ちなみに業をカルマと呼んだ君!!中二病は早めに卒業したほうがいいよ!



三行目の解読も簡単だ。

「っしょ。あとこれもやヴぁくない?」

でしょう。以下略。



やっと最後の行にたどり着いた。

「分かるわーそれ。マジ卍」

......わっかんねーよ!マジ神社?旧ソ連?最後だけ超難解すぎんだろ!



これである程度解読できたな。よし、文章をつなげてみよう。

「これ、実に(げに)いとおかし」

「静、半端じゃない、Oh my God!!」

「でしょう。以下略」

「共感なりー。マジ卍なりー」



......。小説を書くときは現代文で書きましょう。



実際には古文の教科書を見せてげらげら笑っているところから推測するに落書きでもしてたんだろうな。



随分と無駄な時間を過ごした気がする。だからこいつらをネタに使わせてもらうことにしよう。タイトルは「ヤバ子とヤバ男のヤバい話」ジャンルは「ミステリー」だ。



......僕はミステリーは一度も書いたことがない。よし、ミステリー小説を読みに行くか。

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