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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
8/32

僕の話 9

「また変なことで長々語り合ってるわね」


 そう言われて振り返ると沙仲がいた。沙仲の隣には見たことない女生徒がいたる。チラリと目を向けて可愛いなと思う。しかし、じろじろ見つめるのも失礼に当たると思い直し、流し目で見てから沙仲に視線を戻した。僕はいつでも紳士なのだ。


「変なこととは心外だ。知的探求心を失えば、人ではないというのに」


「海尊はいいから」


 沙仲は慣れた調子で受け流す。


「そもそも前提が間違ってるのよ。本来、浦島太郎の最後は玉手箱を開けた太郎が鶴になって、亀に変身した乙姫と末永く幸せに暮らしましたって終わり方よ」


 そう自信満々に講釈こうしゃくを垂れる。なるほど一応ハッピーエンドになっているわけだ。しかし、玉手箱のくだりが丸々なくてもハッピーエンドになる気もする。


「なんで鶴に変身する必要があったんだ。人間のままの方が良くないか」


「鶴は千年、亀は万年って言うじゃない。二人でそれくらい長く一緒に暮らしたいってことよ」


 一瞬納得しかけるが、結論を出すにはまだ早い。


「それなら二人共亀で良いじゃないか。なぜ浦島太郎は鶴なんだ」


「そんなところまで知らないわよ」


 僕が追求しすぎたせいか、沙仲は少し頬を膨らませる。追いつめられると出る彼女の悪い癖だ。


「千年以上語り継がれてるにしては物語として詰めが甘いじゃないか」


「乙姫の年齢が九千歳だったんじゃないですか。だから残り千年二人で生きて二人で死ねるように浦島太郎を鶴にしたんですよ」


 雄索は沙仲を援護するように言う。ふふんと鼻を高くする沙仲が鼻につく。


「それよ。岩水寺君が正解よ」


 イエイと沙仲と雄策がハイタッチした。まだだ、まだ負けたわけじゃない。


「でも、浦島太郎の気持ちも聞かず寿命を千年にするなんて乙姫も傲慢ごうまんじゃないか」


 僕の反論に沙仲はふんっと鼻を鳴らした。


「女心なんてそんなものよ」


 うんうんと隣で雄策も頷く。お前は女じゃないだろうに。しかし、女心と言われてしまうとそれが分からない僕には反論の仕様がなかった。


「女心と秋の空って言うしね」


 沙仲の隣にいた彼女が言う。


「そう、それが言いたかったの」さすがは小百合さゆりと沙仲が嬉しそうに言った。


 それちょっと使い方違わないかと思ったが、僕は紳士的にぐっとこらえた。決して彼女が可愛かったために悪い印象を持たれたくなかったからではなく。


「じゃあ、私先に部活行ってるね」


 彼女は僕らを一瞥いちべつしてから、沙仲にそう言う。あっ、僕の隣で雄索が声を漏らす。沙仲には聞こえなかったみたいだ。しかし、そこから先の言葉が続かなかったらしい。


「どう、小百合は可愛いでしょ」


 なぜか沙仲が勝ちほこった顔をする。友達の可愛さが自分のステータスにでもなるのだろうか。僕は隣の雄索を見る。丁度こちらを見た雄索と目が合った。それから二人して落ち込んだ。


「でも男の子にはあんまり優しくないのよね。そこがクールビューティーでいいんだけど」


 そらから、滔々《とうとう》と沙仲が彼女について語り始める。


 いわく、苗字が美薗みそのである。


 曰く、僕らの隣のクラスである。


 曰く、沙仲と同じ女子バスケットボール部に所属している。


 曰く、運動神経も抜群に良く、一年生の中で頭一つ抜けている。


 曰く、既に何度か男子生徒から告白をされている。


 曰く、でも全部お断りしている。


 彼女について話す沙仲の姿が、自分の娘を自慢するおばさんと重なった。雄索も彼女についての情報を引き出すのに必死なのか、沙仲の話に心地よい相槌あいづちを挟んだ。

次 2017/09/25

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