僕の話 5
そんな無意味な会話をしているうちにいつの間にか昼休みは終わりに近づいた。雄索との生産性のない会話ほど時間の流れが早い気もする。僕らは揃って弁当を口にかきこんだ。
「ちゃんと全部食べたの?」
沙仲はわざわざ僕の席に来てそう聞いてくる。僕が空の弁当箱を見せてやると、満足気に頷いた。
「私がおば様から預かったんだから、残すなんてこと許さないわ。それにしても人参までちゃんと食べたなんて偉いわね。おば様がいつも残すって嘆いたのに」
「子供じゃないんだから、嫌いなものを残すようなことはしないよ」
僕は雄索に目配せをした。人参を代わりに食ったことを言うんじゃないぞと。雄索は、力強く頷いてから元気よく言う。
「人参なら俺が代わりに食いましたよ」
沙仲が鋭い眼光を飛ばす。視線だけで人を殺せるのではないだろうか。
「またあんたは好き嫌いして、馬だって喜んで食べるというのに」
「今の馬を下に見た発言は問題だぞ。今すぐにでも全国の牧場から激怒した馬たちがこちらに向かってくるぞ」
「それこそ人参が大量に必要になるわね」
「人参パーティーですね」
どうやら雄策は沙仲の味方らしい。次の句が紡げなくてぐぅとくぐもった声しか出せなかった。
「おば様には私から報告しとくわね」
勝者の笑みを浮かべて沙仲は自分の席に戻っていく。
「食えないやつだ」
強がって言ってみたけれど思った以上に恥ずかしい。
「どんな時代でも、美女は生まれ続ける。これこそ、この世界の救いですね」
沙仲の後ろ姿を見て彼が言った。
次: 2017/09/21