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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
30/32

僕の話 31

 その日家に帰る途中、少し寄り道をした。学校と家の丁度中間ほどの位置に大きな駅がある。僕は近くの駐輪場に自転車を停め、駅構内に入っていく。在来線だけでなく新幹線の停車駅にもなっているために構内は多くの人で込み合っていた。僕の目的は駅そのものにはなく、併設された本屋にあった。市内最大級のその本屋は品揃えは豊富であり、専門書から小説、漫画、絵本など多種多様に取り揃えていた。


 なぜ僕がわざわざ大きな本屋に来たかと言えば、それは愛読している漫画を買うためである。その漫画は家近くの小さな本屋では取り扱っておらず、友達との会話の中でも一度も話題に上がったことがない。こんなにも面白いのになぜ話題にならないのかと苛立たしく思う一方、売れて人気になって欲しくない、僕だけの秘密であって欲しい気持ちもあった。


 参考書コーナーを横切り、小説コーナーにも目もくれず、一目散に漫画コーナーに向かった。新刊であるにも関わらず、棚の上の方に収まっていた最後の一冊を見つけ、誰かに取られる前にと急いでレジに持って行った。本屋を後にした僕は、きっとほくほく顔だっただろう。


 しかし、ここから家までは自転車で走ってもまだ掛かる。もし家に姉がいたらジャイアンよろしく漫画を取り上げられてしまうかもしれない。


 読んでから帰ろうかな。僕がそう結論を出すのに時間は掛からなかった。


 駅を出て、カラオケ店や居酒屋がひしめく大通りを外れると途端に人通りがなくなる。市内最大の繁華街と言っても規模は地方都市相応である。


 真新しい二軒のマンション間に小さな公園を見つけた。まだ建てたばかりで人が入っていないのか、公園に人影はない。手頃なベンチを見つけて僕は腰を下ろした。


 先ほど買った漫画を鞄から取り出し、包装を破る。散らばった包装を鞄に押し込み、漫画が読みやすい体勢に入り、僕は漫画の世界に没頭した。





 読み始めてから三十分ほど経っただろうか。話も後半に差し掛かり、盛り上がり前で一息つくように漫画から目を外した。ふと顔を上げると公園前、道路を挟んだ向こう側に大きな白い犬がいた。


 雑居ビルの合間から漏れる夕陽が犬のいる場所だけを照らし、白い毛が光り一層綺麗に映った。誰かの飼い犬が逃げ出したのだろうか。この距離では首輪の有無を確認できない。


 道路を我が物顔でのっしのっしと歩いていたその犬が止まってこちらに顔を向けた。体の割にしゅっとしたように見える顔は犬界ではきっとイケメンに分類されるだろう。


 僕はポケットから携帯電話を取り出すと、カメラを起動して犬に向けた。画面に犬を捉え、写真を取ろうとボタンを押した。


「ワンッ」犬が大きく吠えた。


 突然の吠え声に画面から目を離すと、それを狙っていたかのように犬は走り去ってしまった。携帯電話の画面には殺風景なビルの壁だけが映っていた。


 カメラ機能を閉じた画面を見ると誰かからメッセージが届いていた。確認してみれば、それは美薗さんからのものだった。沙仲の誕生日プレゼントの件だろうか。


 メッセージの内容は、沙仲の誕生日プレゼント選びを一緒に手伝って欲しいというものだった。今から時間ありますか、と文が締められている。月曜日は部活が休みなのかとそんな当たり前のことを僕は忘れていた。


 画面を見て顔がほころんでしまうのも仕方のない話だろう。これで一歩リードかなと雄索に対して申し訳なく思った。


 なんてことはまるでなく僕は即座に大丈夫ですと返した。順調に山を登っている自分の姿が想像できた。


 数分後、美薗さんから返事が返ってくる。指定した場所に来て欲しいようで住所が添付されていた。その住所をインターネット上の地図で確認すると、駅から少し離れた場所だった。


 近くに雑貨店でもあるのだろうか。地図を拡大して見てみたけれどそれらしき店を見つけることはできない。


 今駅近くにいるので少し遅れます、そう書いたメッセージを送ってから僕は自転車を取りに駐輪場へ向かった。

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