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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
29/32

僕の話 30

 教室後ろのドアから聞き覚えのある声がする。僕はそちらに視線を向ける。雄索もつられて同じ方向に視線を向けた。思った通りそこには美薗さんがいた。彼女は誰かに向けて手招きをしている。その手招きの先を見るとそこに沙仲がいた。


 美薗さんに気付いた沙仲はパタパタと教室後方のドアへ走る。二人で何か話し合った後、沙仲はまた自分の席に戻った。美薗さんはそんな沙仲を目で追って、その途中で僕と目が合う。


 あっ、と僕に気付いて彼女は僕らの席へやってきた。


「発馬君。二日振り」


 突然名前を呼ばれ、驚きはしたが悪い気はしない。二日ぶりだね、と僕も笑顔で返した。デレデレしていたせいか机の下で雄索に足を小突かれた。


「沙仲に何か用があったの」僕は彼女に問いかける。


「お昼休みに部活のミーティングがあるから呼びに来たの」


 ちらりと目線を外せば、沙仲がこちらをじっと見ていた。僕が美薗さんに粗相そそうをしないか心配しているのだろうか。心配無用だ、こんな所で失敗するような僕ではない。不安があるとすれば雄索の方だろう。


「でも、良かった。発馬君にも会いたかったのよね」


 美薗さんが僕を見つめる。相変わらず整った顔だ。普通の男ならコロッと恋に落ちてしまうだろう。


「僕に何か用があるの」


 三日前に一度話しただけの間柄だ。思い当たる節がなく、僕は聞き返した。


「もうちょっとで沙仲の誕生日だからどんなのが好きか相談に乗って欲しくて」


 彼女が顔を近づけて小声で言う。彼女の言う通り、五月初頭、沙仲の誕生日が目前に迫っていた。


「悩んでたら時間が無くなっちゃって」


 頬を掻きながら照れる彼女に僕は大きく頷いた。よしきた、任せてと柄にもなく大きなことを言ってしまう。


「それなら、連絡先とか交換しといた方が良いんじゃないですか」


 僕らの様子を静観していた雄索が話に入ってくる。雄索もたまには良いことを言うじゃないか。後で一言お礼でも言ってやろうと思っていると彼も机の中から携帯電話を取り出している。


 ほら早く、彼が僕らを急かす。不思議に思いながら僕らも揃って携帯電話を取り出した。


「じゃあ、まず発馬と美薗さんですね」


 雄索の言うがままに僕と美薗さんは連絡先を交換した。


「じゃあ、次は俺とですね」


 そのままの流れで雄索は自らの携帯電話を美薗さんに向ける。彼女も何を思ったのか、それとも何も考えていないのか、そのまま連絡先交換してしまった。


 うんうんと納得する様に雄索が頷き、僕と美薗さんは顔を見合わせて笑った。


 沙仲がパタパタと僕らの元にやってくる。


「準備できたの」美薗さんが彼女に言う。


 美薗さんの問いに沙仲はごにょごにょと口ごもった。どうしたのだろうか、いつもの沙仲らしくない。


「いや、まだ出来てないけど」


 振り絞って出てきた言葉はそれだけだった。


「じゃあ、どうしたの」美薗さんがまた優しく問いかける。


 沙仲は泳いだ目を美薗さん、僕、そして雄索に向けて何か思いついたように口を開いた。


「私もまだ岩水寺君と連絡先交換してないなと思って」


「それだけかよ」僕は思わず口に出してしまった。


「いや、これは大事なことですよ」雄索が沙仲をかばうように言う。


 さあ、交換しましょう、沙仲に向けて携帯電話を差し出す。突然のことに一切動じることなく常に前進する彼の姿勢は見習うべき所だ。


 二人の連絡先交換を見ながら沙仲がこれほど取り乱すのも珍しいなと不思議に思う。


 連絡先の交換を終えた沙仲は僕と美薗さんにそれぞれ目を向けた後、ほら行こうと美薗さんの手を引き自分の席まで引きずっていった。こちらに手を振る美薗さんに僕と雄索は揃って手を振り返した。


「なんで雄索まで連絡先を交換したんだ」


 沙仲と美薗さんが教室を出ていった後、僕は雄索を問いただした。


「なんでとは失礼な話じゃないですか。俺の機転のおかげで美薗さんと連絡先を交換できたというのに」


 雄索の意見は真実である。がしかし、真実が常に正しいとは限らない。


「それとこれとは話が別だろう」


「成功報酬ってことで手を打ちましょうよ。俺だって交換を強要したわけじゃないんですから、勝負はフェアにいきましょうと言いたいところですが」


 ですが、何だ。僕は常にフェアな精神をしているつもりだ。


「いつの間に名前で呼ばれるような間柄になったんですか」


 雄索が僕の方に身を乗り出して問い詰める。


「今日初めて呼ばれたんだ。むしろ、こっちが聞きたいくらいだ」


 何かしらの引き金があったはずですよ、思い出してください、雄索がそう言って僕を急かす。


 何か特別なことをしただろうか。先日の記憶を思い出しても彼女の前で醜態を晒しただけで、ロマンチックなことを言った覚えもした覚えもない。


 もしかしたら、僕は可能性の一つを提示する。


「彼女が僕の苗字を知らなかっただけかも」


 言葉にするとその可能性しかないように思えた。


「でも、羨ましいですよ」


 雄索はそう言うが、僕の意見に納得したのか先ほどの勢いは目に見えてなくなった。


 それにしても、と落ち着いてから雄索がさらに口を開いた。


「彼女、自分が可愛いことを知っているんでしょうね。あれはどうすれば相手に自分が可愛く見えるか熟知した振る舞いですよ」


 あの僅かな間に何を感じ取ったのか雄索はそんな感想を漏らした。


「まあ、デレデレしていただけの発馬には分からなかったでしょうが」


「嫉妬か」僕が聞く。


「嫉妬です」彼が答えた。

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