私の話 28
ベットに寝転びこれからのことを考える。祖父にこのことを話せば余計な間もなく即座に捕らえて引き渡しにかかるだろう。しかし、それでは沙仲があまりに不憫ではないか。十年以上連れ添った幼馴染が突然姿を消すのだ。それならば、私が彼の牙を折って、彼女に謝罪させてから祖父に引き渡せばいいじゃないか。沙仲にも祖父にも良い所を見せる事ができて一石二鳥だ。
うんうんと自分の考えに納得していると、夕飯が出来たと母が私を呼ぶ声がした。時計を見るといつの間にかかなりの時間が経過していた。
今日の夕飯も美味しいといいな、私は上機嫌で立ち上がった。
他人の陰毛を切ったハサミを今後使えるはずもなく、私はハサミをゴミ箱に放り込み部屋を後にした。
居間に行くと既に食卓には夕飯が並んでいた。ご飯、味噌汁はいつも通り、先ほど見たきんぴらごぼうに加え、山女魚の塩焼き、それに朝の残りのポテトサラダが並んでいた。
山女魚は私の大好物だ。近くの川で捕れることもあり、幼少の頃から食べているが飽きることがない。祖父も母も好きだからきっと私が山女魚好きになるのは生まれる前から決まっていたのだろう。
急須に茶葉を入れる母をよそに私は席に着いた。母が対面の席に着くまで待って、いただきますと私は箸を動かした。
山女魚の体に箸をさっくりと刺す。引き締まった白い身が姿を現し、私はそれをゆっくりと口に運んだ。
「お爺ちゃんは少し遅くなりそうだって」母が言う。
「帰る時に玄関で会ったよ。緊急の会合だって」
山女魚を十分に味わってから、私は答えた。
「さっきの話の続きだけど。さゆが高校でモテてるって話、お母さんにも教えてよ」
母とこういう話をするのも照れくさいなと思ったけれど、満面の笑みの母を邪険にするのも気分が悪く、何度か告白のようなことをされたと語った。
あらあら、母は嬉しそうにあらあらの相槌を打って私の話を聞いた。私と母の間に温度差を感じた。
その事実以外に語ることがなく、私は話の腰を折って話題を変える。
「明日の夕飯はどうするの」私が母に問う。
「何が食べたい」
いやに優しく母が問い返してくる。先ほどの話が相当嬉しかったのだろうか。
「今日は魚だったから明日はお肉がいいな」
私は自らの欲望を正直に吐露した。山女魚も好きだが肉も好きだ。もしこの二つが組み合わさった食べ物があるならばそれは極上の味がするだろう。想像しただけで口の中に唾液が溜まる。
「そうね、じゃあそうしましょうか」母が言った。
そろそろ寝ようかと廊下を歩いていた時、玄関から物音がした。おそらく祖父が帰って来たのだろう。私はパタパタ走って玄関へ向かった。
「おかえりなさい」
上がり框に座り靴を脱ぐ祖父の背中に言う。
「ただいま」
こちらを振り返ってそう言う、祖父の顔は笑っていたけれど、いつものようなはきはきとした元気はない。話し合いが上手くまとまらなかったのだろうか。
祖父の上着を預かりながら、私は平静を装いつつ問いかける。
「それで今日の会合はどうなったの」
ちらりとこちらを見て、それからすっと立ち上がる。私も祖父の隣に立って、並んで廊下を歩く。
「今はこちらの意見を尊重してくれているが、あちらが動くのも時間の問題だろう」
私の前では滅多に見せない真面目な祖父がそこにはいた。それだけ状況が緊迫しているのだろう。
「それで犯人は見つかったの」
「いや、まだ見つかっていない」
柔らかい明りに照らされた廊下は歩くたびにきこきこと音を立てて軋む。
ほら、もう遅いからさなは寝なさい、私の部屋の前で祖父が言う。子供のような扱われ方は不服だったけれど、大人しく従って部屋に戻った。大きい存在である祖父よりも自分の方が解決に近い所にいることに喜びを感じた。もちろん、祖父の前でそんな態度は見せなかった。
明日からの土日で色々な準備して決行はそれ以降としよう。しかし、祖父のことや相手が逃げる可能性を考えると出来るだけ早いほうがいいだろう。毛布に包まり、うとうとしながら私はそんなことを思った。




