私の話 26
駅で彼女と別れた後、私は一人電車に揺られながら制服のポケットにしまいこんだものについて考えた。
昨日見たミステリーサークルのように一部の毛がなくなっていた彼の脛すねや私が隣にいるのに何か真剣に考えこむ様子。どうかしたのと聞いたけれど何も返してくれなかった。その様はもうどうかしてるだろうと言おうと思ったけれど、私は何も言わなかった。
そうして、私の中にある推測が生まれた。今日の窃盗と言えるか微妙なラインの盗みもその推測を確かなものにするためのものだ。
外の景色はビルが立ち並ぶ街の中央から住宅街、さらに田園風景と移うつっていく。その間に自身の推測が正しかった時とその後のことを思案した。
電車が終着駅に着いた時に私の中で出た答えは、事が大事になる前に私自身が引っ捕らえて受け渡すという荒々しいものだった。
過あやまちちを犯したものはそれ相応そうおうの罰を受けるのは世の常だ。
しかし、沙仲には悲しい思いをさせるかもしれない。それだけが気がかりだった。
彼女を出来るだけ悲しませない方法はないだろうか。私はまた考える。友達として出来る限りのことはしてあげたい。今日は考えてばかりだ。
私一人で捕まえて彼女に謝らせて、それから引き渡せばいいんじゃないか。
これが最善策だと思いついた私は小躍りしながらぽつぽつと家の明かりが照らす道を進んだ。
家に着くと門の前で立っていた祖父にでくわす。祖父は私を見つけると満面の笑みを浮かべた。
「やっと帰ってきたか。心配してたんだぞ」
「部活やっている日はいつもこのくらいになっているでしょ」
「可愛い孫を心配しないじじいがどこの世界にいようか。学校なんて行かないでずっと側におって欲しいくらいじゃ」
私は呆れてため息をつく。一緒に住んでいるのに毎回こんな調子だから困ったものである。そろそろ孫離れ出来無いものだろうか。過剰な愛情に溺れそうだ。
「おじいちゃん、冗談もほどほどにして。何か事情があるんでしょう」
いくら私を愛してくれていると言っても門の前に出て帰りを待つなんて何かあるに決まっている。
「冗談のつもりは全くないんだがの」祖父は呟く。
おじいちゃん、私は僅わずかに強い口調で祖父を窘たしなめた。
「今から緊急の会合じゃから、寄り合い所に行くとこだ。あの件でどう話し合いの場を設けるかについてじゃな」
微笑みながら言ってはいるがその目は真剣そのものだ。状況が緊迫してきているのだろう。
私も、と開きかけた口を祖父が遮さえぎる。
「小百合もワシの跡を継いでおるから参加してもいいんじゃがの。何分なにぶん相手があることじゃから、若いもんが出て行って舐められるわけにはいかんからの」
私は露骨にしゅんとしてみせた。祖父を騙くらかす孫の常套じょうとう手段である。悲しそうな私の願いを祖父が聞き入れないはずがない。
「そんな顔しないでおくれ。これも小百合のためを考えてじゃからの」
すまんのう、そう言って祖父は私の頭をぽんぽんと子供をあやすように優しく叩く。日頃の私ならもう一歩二歩食い下がっていただろう。しかし、私にも当てがあった。
それならば別の条件を提示するまでだ。私はその代わりと言わんばかりに別の頼みを言う。
「ならあの眼鏡貸してよ。ほら、昔見せてくれた、ものの化けの皮が剥がれて見えたやつ」
まだ私が小さかった頃、祖父が遊びで一度見せてくれた代物しろものだ。その時、眼鏡越しに見た祖父の鼻がぐーんと高くてよく笑ったものだ。
「あれは別に化けの皮を剥いでいるんじゃなくて、その者の本質を見せているだけだが」
まあよかろう、腕を組んで少し悩んだ様子だったけれど、最後には許してくれた。会合に出れない孫を不憫ふびんに思ってのことだろう。
「しかし、ワシが帰ってくるまでの間だけだぞ」
祖父が忠告する。私もそう長く借りるつもりはなかった。それから祖父は上着のポケットを漁って古ぼけた丸眼鏡を取り出す。昔見たままの姿のそれを私は懐かしく思った。
「貴重なものだから、くれぐれも壊さんでくれよ」
祖父から受け取った眼鏡を掛けて私は頷いた。眼鏡越しに見た祖父の鼻はあの頃と変わらずぐーんと伸びていて少し笑ってしまった。




