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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
22/32

僕の話 23

 次の日、僕は桃色本を紙袋に包み鞄に仕込んで学校に登校した。出来れば早く雄索に返してしまいたかったけれど、朝や休み時間は人の目が多く、どうにも渡せなかった。


 そうこうしている間に体育の授業が終わり、昼休みとなる。


「今日のバスケ、発馬の動きおかしかったですよ。極端に接触を恐れてた気がします」


 対面に座り、いつものように豪勢な弁当箱を開きながら雄索が言った。


「そうかなあ。いつもと同じだと思うけれど」


「客観的に見れば一目瞭然ですよ」


 自らの観察眼を自慢したいのかふふんと鼻を鳴らした。


「でも雄索以外に誰にもそんなこと指摘されなかったぞ」 


「パスとディフェンスしかしない発馬に他の人は注目しませんからね」


 人が傷つくようなことをさらりと言う。しかし、事実なので仕方がない。


「他の人には分からないかもしれませんが、俺には分かりますよ」


「おお、気持ち悪いな」


 満面の笑みでそう言うので僕も思わず本音が漏れてしまった。


「失敬な。友達がせっかく応援してあげていたと言うのに」


「出来れば、黄色い声援が欲しいものだけれど」


「そんな声援を貰えるほどのプレイをするつもりなかったでしょうに」


「普通にやってただけだけどなあ」 


 正直な意見に対して僕はとぼけてみせた。


「あれが普通なら今までの発馬は偽物ですか」


「海尊も言っているだろう、いつも、普通を疑えって」


 知りませんけどもと雄索は言い、そして呆れたのかそれ以上追及してくることはなかった。


 ここぞとばかりに僕は机の横に掛けられた鞄から紙袋を取り出して雄索に渡す。


 無駄のない機敏な動きで彼はそれを受け取るとリュックサックに放り込んだ。この辺りは阿吽の呼吸の僕らのなせる技である。それから僕らは二人して周囲を確認した。クラスメイトの誰も僕らに目を向ける者はいなかった。各々食事を楽しんでいる。


「で、どうでした」


 雄索は下卑た笑みを浮かべて早速感想を聞いてくる。


「どうもこうも読んでいないのだから何の感想もない」


 僕は嘘をついた。


「せっかく本を貸したのに読まずに返すってあまりに礼儀を欠いた行為じゃありませんか」


 僕の答えに不満なのか口を尖らせてそう反論する。雄索の言うことも尤もであるがしかし、それは一般的な本の貸し借りの話であり桃色本には当てはまらないはずだ。


「礼儀なんて便宜の異名だ。左側通行と似たようなものだ」


 僕の言葉に雄索は顔をしかめた。


「また海尊の言葉ですか」


「いや、これは侏儒の言葉だ」


「侏儒って誰ですか」


「もっと正確に言うと『侏儒の言葉』を書いた芥川龍之介の言葉だ」


「それはもう芥川龍之介の言葉じゃないですか」


 話を逸らすことに成功した。顔に出さずに内心でしめしめとほくそ笑んだ。


「そんなことはどうでもいいんですよ。感想はどうなったんですか」


 雄索も馬鹿ではなく、話題が戻ってしまった。僕と芥川龍之介は揃って肩を落とした。

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