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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
20/32

僕の話 21

「今日の夢はどうでしたか。金髪の美女がまた登場しましたか」


 次の日の放課後、特にすることもない僕と雄索は教室に残り雑談をしていた。前の席に座る雄索が言う。彼の膝の上にはリュックサックが置かれていた。


 そう言えばそんなことも話したなと思い出す。昨日の出来事なのに遠くに思えた。


「今日は何の夢も見てないな」


 そうですか、と残念そうに言う。僕の夢と何か関係あるのだろうか。


「発馬は高校で出来た初めての友達ですからね。心配事があるなら少しでも力になりたいと思っているんですよ」


 雄索の言葉は沈んだ気分の僕に響く。しかし、目下の心配事である異常な回復力を打ち明けるわけにもいかない。


「ありがとう。その言葉だけで凄く嬉しいよ」本心で僕は言った。


「そうですよね。人それぞれ嗜好とかありますからね、押しつけがましいのは良くないですよね」


 要領を得ない雄索の返答に僕は頭を傾げる。雄索の目線は膝上に置いたリュックサックに注がれていた。彼の目線を追って僕もそのリュックサック、その少し開いた中身に目を向けた。


 教科書の間に派手な色合いの雑誌が一冊挟まっている。その背表紙に書かれた文字はとても学校内で読み上げることは出来ない卑猥なものだった。はっと昨日の雑談が脳裏に蘇る。雄索は僕の欲求不満を心配していたのか。


 これほど余計なお世話なことはない。人から提供してもらうほど僕は性に飢えていないつもりである。それにそういうものは自ら見つけるのが楽しみの一つだろうに。


 だが、しかし。


 その桃色本をちらっと僕に見せて雄索はリュックの口を閉じようとする。


「雄索は僕のことを心配してくれたんだろう。友達のそんな気持ちを無下に扱うのは海尊の言葉に反するしな」


 雄索の手首を掴んで僕は言う。


「ちなみに海尊はどんなことを言ったんですか」


「それは、あれだよ」


 僕は言い淀む。有害図書を借りる時の言葉など存在するはずもなかった。


「人の好意を無下にするなとかそんな感じだよ」


「それ絶対海尊の言葉じゃないですよね」


「海尊以外でも良い言葉は取り込むんだよ僕は。柔軟だから」


 ね、だからさ、それを貸してくれよ。僕は小さな声で頼む。


「まあ、俺も貸すつもりで持ってきましたからね。やぶさかではありませんよ」


 雄索は机から紙袋を引っ張り出し、リュックサックの中で器用に本を包む。こんなにも細やかな気配りができる男子をなぜ女子は放っておくのか甚だ疑問である。


 雄索が紙袋をリュックサックから取り出し僕に手渡し、僕が自分の鞄にしまうまで一秒も掛からなかっただろう。教室に残る生徒が少ないとはいえ、公共の場で晒す時間は短い方が良いに決まっている。


「読み終わった後はぜひ感想戦をしましょう」


 嬉々として述べる雄索に僕は疑問を提示せずにはいられない。


「感想戦ってあの将棋とかで対局後にやってるあれか」


「それです」


 桃色本の感想戦とは一体何だろうか。疑問は一層深まるばかりである。


「将棋のように、お互いがより高みに登るためにやりましょう」


 感想戦をやることで高みに登れるとは思えない。むしろ品性が地に落ちそうな気がした。


「その狂気に近いイベントを本気でやろうと思っているのか」


「まさか」


 本気でやるとでも、先ほどとは打って変わって僕を非難するような目で見る。


「そんなジェンダー軽視なことするわけないでしょう。こういうことは各々が心に秘めておくのがマナーですよ」

 雄索の言葉は落ち葉より軽かった。


「一人でやってろ」


 僕は捨て台詞を吐いて鞄を持つ。


「一人でやるのは発馬の方がじゃないですか」


 そんな野次に耳を貸さず雄索を一人教室に残して立ち去った。

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