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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
16/32

僕の話 17

 雄索と別れた僕は一人駐輪場へ向かった。昨日の件もあり、今日は寄り道をするつもりはなかった。駐輪場に着くと一人の女生徒に目が行く。僕と同じくらいに背が高く、横顔からはっきり分かる高い鼻。異国の血が入っているようにくっきりとした顔。先日会った美薗さんが自転車を取り出そうとしていた。可愛いなと心の片隅で思ってしまい、すぐに頭を振った。僕は欲求不満じゃない。理性の忠実なるしもべである。


 いそいそと自転車群から自分の自転車を抜き出した。ちらりと横の様子を伺う。どうやら彼女の自転車は他の自転車と絡み合っているらしく、抜き出すのが難しそうだ。ここで「手伝いましょうか」などと声を掛けたらどうだろうかと想像する。自分には似合わないシチュエーションに苦笑した。しかし、他の自転車が倒れた場合はどうだろう。ドミノ倒しのように大量に自転車が倒れたらさすがに一人では対処できないだろう。周囲を見渡しても僕と彼女以外には人がいない。そうなった場合は僕が助けるしかないだろう。他の自転車を倒さないように自分の自転車を慎重に取り出す彼女の横で、倒れろ、倒れろと何度も心の中で繰り返す僕はひどく嫌な奴だろう。しかし、誰かに心の中を覗かれるわけでもない。僕は倒れろ、倒れろと祈った。


 ガシャガシャガシャン。大きな音を立てて自転車が倒れる。彼女の隣の自転車から連鎖的に駐輪場の端の自転車までドミノのように倒れた。


 恥ずかしくなったのか彼女は周囲を見渡し、僕と目が合う。僕自身が何かした訳ではないが罪悪感で心が押しつぶされそうになった。自分の自転車を置いて倒れた自転車を無言で起こし始める。この時の僕は彼女と接点が出来た嬉しさよりも贖罪しょくざいの気持ちが強かった。だからこそ何も言わず僕は淡々と自転車を起こした。


 二人無言で自転車を立て直す。


 最後の一台を起こし終えた僕は自分の自転車へ戻った。神は僕を許してくれただろうか。


「ありがとうございました」彼女が僕の元にやって来て言う。


「いえいえ」僕はそれだけしか返さなかった。


 あまり感謝されると僕の罪の意識が増すだけだ。逃げるように自転車を走らせた。

次: 2017/10/04

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