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海尊曰く  作者: 高坂喬一郎
第1部
13/32

僕の話 14

 はっと目が覚めた。周囲を見るとそこはいつもと変わらない僕の部屋だ。


「朝ごはんできたって言ってるでしょ」


 部屋の外で大きな声がする。


「早く食べないと洗い物が済ませられないじゃない」


 あの夢は何だったんだろうか。ぶるりと身震いして考える。夢は無意識の願望を示していると聞いたことがある。だとしたら僕は、無意識に死を求めているのだろうか。死を望むほど追い詰められてもいないし、落ち込んでもいない。それ以外に死を願うとしたら何があるだろうか。


「何この布団の濡れ方」


 いつの間にか姉が部屋に入ってきた。そして僕のベットを見て驚嘆きょうたんする。


「あんたまさか高校生にもなっておねしょしたの」


「まさか」と僕は笑った。


「なら布団のこの濡れ具合どう説明するの」


 起き上がって見ると確かに布団はびっしょりと濡れていた。


「高校生にもなってまだおねしょする弟なんて私嫌よ」


 軽蔑するような表情をしたかったのだろうが、口角が少し上がっているのが分かる。内心ではこの状況を面白がっているのだろう。姉の本質は加虐性にある。


「上半身までびっしょり濡れてるじゃないか。漏らしたんだったら下半身だけが濡れるはずだろう」


「おねしょがバレないように上半身にもしたんじゃないの」


 そんなことしたら阿呆の極地じゃないか。とても正気の沙汰とは思えない。


「恥の上塗りじゃないか」


「この場合尿の上塗りね」


 上手いことを言ったつもりなのか自慢気な顔を覗かせる。


「一人でこれだけ漏らせるとしたら人の枠を超えてるよ。大腸が全部 膀胱ぼうこうじゃないと出来ない量だ」


「私の弟が膀胱の化物だったか、もしくは漏らした後に水を汲んできてこぼしたとか。完璧な犯行、私でなきゃ見逃しちゃうね」


 間違った推理を勝ち誇ったような顔で披露ひろうする。


「見逃すというより見当違い何だけど」


「誰が何と言おうと、犯人は発馬はつま、あなたよ」ずばっと僕を指さして言う。


「誰も何も言わないよ」


 姉の残念な推理力に肩を落とした。


「高校生になった弟がおねしょをしたと本気で信じているの」


「誠に遺憾いかんながらね」


 これ以上何を言っても無駄だろう。僕は姉の説得を諦めた。


「とりあえず、お父さんとお母さんには報告しとくから」


「ちょっと待って」


Peeピーマンも早くそれ片付けて、ご飯食べに降りてきなよ」


 姉は手をヒラヒラさせながら悠々と部屋を後にする。


「そのピーはもしかしておしっこのピーか」


 その問いかけに返事はない。もう一度びっしょり濡れた布団へ視線を落とす。


「これどうするんだ」


 今、心から死を望んだ。

次 2017/09/30

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