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最果ての森のハーフコボルト  作者: よよまる
研究者のラインバッハ
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10-7.vs巨大トレント②

「うわあああ!?」


 冒険者の悲鳴が戦場に生まれる。

 しかし、馬が駆ける音、人々の叫び声、魔術が爆ぜる音、重なったそれらは冒険者の声を容易に内包してしまう。


「危ない!」


 ただ1人、獣人の優れた聴力で悲鳴を聞き取り、幼い冒険者が駆け付けた。

 落馬して身動きの取れなくなった冒険者を庇うように立ち、迫り来る人間大ほどもある巨大な種子を魔力で覆った腕で粉砕する。


「大丈夫?」

「あ、ああ……」


 命の危機、間一髪の生還。腰が抜けてしまった冒険者の男は思考の停止と体の脱力で言葉をうまく話せなかった。

 辛うじて無事であることは獣人の少年には伝わったようで、彼は笑った。


「よかった。あ、この人を乗せてあげて」


 少年は通りかかった馬車の荷台へ男を押し込み、自分の持ち場へ戻ろうと背を見せる。


「な、名前は?」


 冒険者のとこは荷台から身を乗り出しながら少年に名を訪ねた。自分を救った小さな冒険者の名前を。


「ロゥだよ」

「ロゥ……か、ありがとな」

「うん」


 男の謝辞に笑顔を見せると少年は腕に魔力を纏い地面を殴った。

 周囲に地面を伝って衝撃が伝わると、あっという間に少年の姿は遥か先まで跳躍していたのだった。



「ただいま~」


 ロゥは戦場を跳び周りながら、ある冒険者の馬へと向かった。


「おお、どこ行ってたんだ?」


 馬を操る男がロゥの姿を確認すると、馬の速度を落とし、後部にロゥが着地した。


「馬から落ちちゃった人がいたから助けてきた」

「びっくりしたぜ。急にいなくなるんだからな」


 馬を操る冒険者の男はジョージ。

 ロゥと交友関係にある同世代の冒険者トーマの父親で今回の作戦におけるロゥのパートナーだ。


「あのままだと危なかったから近くを通った馬車に放り込んできた」

「……あまり他人を助けすぎるなよ。それでお前が命を落としてしまったら元も子もないんだから」

「でも、助けられそうなら助けた方がいいでしょ?」

「…………そうだな」


 そう信じて疑わない少年の視線にジョージは複雑な表情で言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。


「(こりゃあ、危なっかしいな。なまじ能力も高いし、そこらの冒険者じゃ指導役は荷が重いだろう……いかん、今はそれを考える時じゃねぇ。まずはこの局面を乗り越えなければ)」


 脳内の思考を切替え、ジョージは馬の速度を上げた。


「ジョージおじさん、右」


 ロゥの声に反応し、目を動かし右を確認すると巨大種子が見えた。

 馬の進路を左に取りながらジョージは後ろに掴まるロゥへ声をかけた。


「頼んだ!」

「『エア・スマッシュ』!」


 砕かれた種子の破片がジョージとロゥに降りかかり、ジョージは髪に絡まった破片を頭を振るいながら払い落とした。

 巨大トレントへ視線を向けると、幹からは時々火が昇ったり人影のようなものが周囲に散見できる。


「もう黒金の連中はトレントにたどり着いたみたいだな」


 風にかき消されないように声を張る。


「ロゥくん、さっきのよりも強力な技ってあるのか?」

「うん。ちょっとタメが必要だけど」

「なら、大丈夫だ。あれだけデカいと足元への攻撃はほぼないだろう。わざわざ遠方にいる敵を追い払うように巨大種子を投げてきているのがその証拠だ」


 巨大すぎる体を持つために威力が高く射程の長い攻撃を持ってはいるが足元の敵を排除するような攻撃はしてこないだろう、と言うのが連合軍の考えだった。

 一塊で移動したのでは、格好の的にされ、連合軍故に拙い連携しか叶わない。

 それならば、連合軍は冒険者、黒金騎士団、トラジェスティン家私兵団の3つに分かれることにしたのだ。


「黒金は個々の実力が高い少数精鋭、トラジェスティン家の私兵団も連携は並の兵士や騎士よりも一日の長があるだろう。俺たち冒険者も自分らのやり方ってもので、やれるってところ見せてやろう!」


 集った冒険者たちは、各位の能力を鑑みて生存するのに必要な攻撃力・防御力・状況把握能力がバランス良くなる編成を考えた。

 例えば、ジョージはベテランとしての経験を活かした状況判断と馬を使って移動役を兼務し、圧倒的な攻撃力を保有しているが経験の少ないロゥと組むことで攻守のバランスを取り2人でコンビを組むことになった。

 しかし、全員がジョージ・ロゥ組のようにバランスが良い組み合わせができるわけではない。

 どうしても集まった冒険者の職種は偏ってしまう。今回のような突発的に発生した有事などは特に。

 その場合、荷台付きの馬車を使った編成だ。

 ロゥが先ほど助けた男が放り投げられた馬車は、そうした者たちが乗っていた。


「あ、トーマたちだ」


 ロゥの視界に1つの馬車が入る。

 荷台には、トーマ、リューク、カレン、オルテシアが見え、他の大人の冒険者に交じっていた。


「前方から来ます!」


 双眼鏡を構えたトーマが叫ぶ。


「前方に迎撃魔術用意!」


 馬車ではジョージのパーティーメンバーである魔術師の女性、ハネットが指揮を取っていた。

 同じくジョージのパーティメンバーであり、ハネットの双子の弟であるカイネ、ロゥの友人であるオルテシア、それ以外にも魔術を使える冒険者が不安定な馬車で立ち上がり各自で詠唱を始める。


「勇敢なる者を祝福せよ! 『マギカ・ハーネス』!」


 僧侶であるカイネが補助魔術により冒険者たちの能力を向上させ、


「『アース・スパイク』!」

「『アクア・スパイラル』!」

「『フレア・フォール』!」


 各自の得意とする系統魔術によって頭上の巨大種子が迎撃される。

 無理に足並みをそろえる必要はない、それが冒険者のスタンスであった。

 白銀騎士団やトラジェスティン家私兵団のように息の合った連携というものは一朝一夕で出来るようなものではない。

 ならば適材適所と場面に応じて働く人材を切り替えていく、と言うのが冒険者流のやり方ということでまとまった。


「あいつらも頑張ってんな。俺らも一足先にトレントまで行くぞロゥくん!」

「はーい!」


 トレントの攻撃圏を抜けると先ほどまでの激しさが嘘のように攻撃が止んだ。

 頭上を通り過ぎる巨大種子はこちらを見向きもせず、遠方の激戦地へと流星のように降り注がれている。

 トレントに近づくにつれ、その巨大な容姿が目の当たりになる。


「おっきいね」


 ロゥが限界まで首を上に向けながら、トレントの頂点を見ようとするが大きすぎるために叶わない。

 トレントは商業都市として栄えたサウス最大の建造物、騎士団南東支部と同等の大きさであり、その高さは約200メートル。幹の太さはそこいらの樹木の何倍も太い。


「トレントなんてせいぜい3メートルから5メートルくらいが平均だが、これはもう規格外だな」


 トレントが通ってきたであろう場所は土が掘り返され左右に積みあがっている。

 高木の幹ほどもある、これまた規格外のトレントの根が忙しく動き回り、ゆっくりであるがトレントは前進している。


「あの根っこには巻き込まれるなよ。たぶん形が残らない」

「うへぇ……」


 2人は末路を想像しただけで顔を顰める。それほど根は大きく、動くさまは重量感が出ていたのだ。


「あ、枝に花がついてる。あそこから種が出てるっぽいよ」


 ロゥが指さす方向にジョージも視線を向けると、枝葉に交じり白い花弁が咲いていた。ゆりの花のように中央の種子を覆う形で、花弁が閉じると全体が膨れ上がり、種子が発射される。

 人間大の種子を作り、発射させる花弁となると大きさが相当なものである。


「やっぱり、足元への攻撃手段はなさそうだな。

 ロゥくん、君はトレントへの攻撃を開始してくれ。俺は他の奴の援護や他に魔物が出たりしたら対処にあたる」


 ロゥに自分の拳を突き出し、口角を上げて最大限の激励を与える。


「その黒い腕で町を守ってくれ!」


 ロゥも拳を差しだし、2人の冒険者は互いの武運を祈る。


「うん!」


 ロゥはまだ走る馬から飛び降り、魔力を纏った腕で地面を殴り衝撃を緩和、さらにもう1度地面を叩き、トレントへ向かい前進した。


「行ってきまーす!」

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