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最果ての森のハーフコボルト  作者: よよまる
研究者のラインバッハ
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10-2.休息所

 サウスとコハンを繋げる街道。

 その街道にはいくつか休憩を取るための場所がある。

 元々、湖の町コハンも旅人が休息するための小さな宿場だったが、街道の発展と共に大きくなり町へと姿を変えたのだ。

 サウスからコハンまでは馬で1日と比較的近い場所にあるため、間にある休息所はたいして大きいものではなかったが、今は人が溢れそうな状態となっていた。

 それは巨大トレントが街道を塞ぎ、サウスへ行こうとしていた者たちが行き場をなくした結果、近くの休息所へと避難したからだった。


「ちょろっと話を聞いて来たけど、馬車を潰されたり、怪我をした人もいるらしいぜ」


 つい先ほど、這々(ほうほう)の体で逃げ延びたトーマたち一行も休息所に避難して来た。


「この様子だと町からも人が出れてないだろうね」


 パーティの参謀役のリュークは眉間に皴を寄せていた。


「みんな、昨日まで居なかったって言ってるから、昨日の夜から今日の日の出までに現れたようだね」

「ユニークかしら?」

「きっと人為的なもの」


 リューク、カレン、オルテシアが巨大トレントに関して意見を交える。


「誰かが何かしらの方法であそこにトレントを連れてきたってこと?」


 カレンの問いかけにオルテシアがコクリと首肯する。


「トレントは移動はできるけど早くない」

「だから人の手であの場所に、か。動機がイマイチわからないね」

「まぁ、そんな事わかっても私たちがサウスに帰れないのは変わりないんだけどね。これからどうするか決めましょうよ。ねえ、トーマ……トーマ?」


 3人はトーマがいなくなっていることに気が付き、あたりを見渡した。

 休息所は人でごった返していたが、トーマは乗ってきた馬車の荷台に立ち巨大トレントの方を双眼鏡で観察してため、すぐに3人は見つけられた。


「トーマ、何してんの?」


 カレンが話しかけるがトーマは双眼鏡から目を逸らさない。


「なんか、トレントが動いてるから見てみたら町の方から人が来たっぽいぞ」


 トーマの双眼鏡に映るのは、数人が馬に乗って巨大トレントからの猛攻を避けている姿だった。

 彼らは腰に剣や背に弓を備えており、トーマは自ずと同業者であることを察した。


「冒険者だ! 冒険者が町からこっちに来てるぞ」


 その言葉にカレンたち以外の休息所に集まっていた者たちが反応した。

 各々がまだ豆粒くらいの大きさでしか見えない冒険者たちの方に視線を向ける。


「攻撃が止んだみたいだ」

「あのトレントの射程から出れたんだな、よかった」


 トーマのように双眼鏡を覗き込んでいた者たちが口々に周りへの説明も兼ねて語った。


「もう少ししたら彼らがここを通るだろう。馬を止められるように少し場所を空けよう」


 1人の商人が提案し、他の者も協力してスペースを作り始めた。

 トーマたちが乗ってきた馬車も移動させようとしたが、未だ双眼鏡を覗いているトーマがいたので動かせないでいる。


「トーマ、降りないと危ないぞ」

「え、ああ、すまねぇ」


 リュークが声をかけ、ようやく気が付いたのかトーマは馬車から降りた。

 様子がおかしな友人にリュークが首を傾げる。


「どうしたんだ、トーマ?」

「いや、たぶん、あの冒険者……親父だわ」

「えっ、ジョージさん!?」


 15分ほどで冒険者たちが休息所にたどり着いた。


「アンタ、町から来たのかい?」


 旅人が先頭を走っていた中年の冒険者に声をかける。

 冒険者たちは馬を止め、休息所にいる人々を見渡すと事情を察し、全員に聞こえる声量で話し始める。


「そうだ。俺たちはギルド経由で騎士団に依頼されたんだ。今、町でも大騒ぎさ」

「討伐はいつ頃されるんだ?」

「現状は目途が立っていない」


 冒険者の男の言葉に休息所はどよめく。


「騎士団はどうしてるんだ? まさか傍観してるわけじゃないだろう!」

「実は、あの巨大トレントと同じのが他にも2体現れた」


 どよめきは鎮まる事なく波及し、強まる一方だった。

 皆が不安と不満を吐き出し始めると、冒険者の男が何か言おうとするも人々の声にかき消される。

 収集がつかなくなりかけた時だった。

 ドゴン、と地面が大きく揺れた。巨大トレントから射出される飛来物が地面に激突するよりも大きな音と衝撃に休息所の人々は戦慄する。


「みんな、おじさんが困ってるよ」


 右手を黒い魔力で覆い、大木のようにした獣人の少年が静まり返った人々に告げる。

 彼の傍らの地面は陥没しており、そこから先ほどの音が生まれたのだと説明されずとも皆が理解する。


「ごほん、騎士団は方々に救援を依頼した。外からの援軍が来るまでは町の中にいる騎士や冒険者は防衛に専念するそうだ」

「俺たちはどうすればいい?」

「救援と一緒に援助の要請も行う。町の外へ出て戻れない人たちに食事や宿を提供してもらう、というものだ」


 話を聞き、人々は不安を漏らすが先ほどのようにどよめきは起きなかった。


「今後、正式に伝令が出回ると思う。みんなは一度近くの町や親族の元へ避難してくれ」


 冒険者の男は最後にそう締めくくった。

 休息所の人々はこれからの事を話し合ったり、移動の準備に専念したり、と各々の判断で行動し始めた。


「さっきはありがとう。助かったよ」


 馬から降りた冒険者の男が獣人の少年、ロゥの下へ歩み寄り礼を言った。


「どういたしまして。でも、僕はトーマにお願いされただけだから」

「トーマ、だって?」


 ロゥが視線を男から外すと、男もその視線の先を追った。


「家にいないと思ったらこんなところにいたのか!」


 男がトーマの姿を確認すると表情が晴れる。


「親父、無茶してんじゃねぇよ。もう年なんだからさ」

「馬鹿野郎、まだまだ現役だっつーの!」


 思わぬ場所で顔を合わせた親子は笑みを浮かべ、父親はロゥの方を見る。


「って、ことは君がロゥくんだろ? トーマから話は聞いてるよ」

「初めまして、トーマのお父さん」

「俺はジョージ、サウスで20年冒険者をやってるんだ。よろしくな」

「よろしくー」


 ロゥは差し出された手を握り返す。

 ジョージは挨拶を済ませるとトーマの後ろにいた彼のパーティメンバーにも声をかける。


「久しぶりだな、リュークにカレンにオルテシア」

「お久しぶりです」「どーも」「ども」


 顔見知りだったようでお互いに軽めの挨拶を済ます。


「こっちは俺のパーティだ」

「盾役のオルガだ」

「魔術師のハネットよ」

「僧侶のカイネだよ」


 ジョージの後ろで控えていた彼のメンバーがそれぞれ名乗る。

 オルガは体躯の良い偉丈夫で前進を分厚いプレートで覆い、背には盾を装備している。

 ハネットは魔術師らしく黒いローブ、カイネは僧侶らしく白いローブを纏い2人とも杖を携えている。2人の顔はそっくりであり血がつながっているのが分かる。


「ねぇ、坊や私の方が姉に見えるでしょ?」

「いやいや、僕の方が兄に見えるでしょ?」


 ハネットとカイネはロゥにそっくりの顔を並べて尋ねる。


「お姉さんかなぁ?」


 ロゥは首を傾げながらハネットを指さした。


「ほら、見なさい。私の方がお姉さんに見えるってよ?」

「うぐぐ、これで3勝5敗かぁ……引き分けに持ち越したかったのに」


 勝ち誇るハネットと悔しがるカイネ。

 ジョージは呆れたように補足する。


「またやってるのか。悪いな、こいつら双子だから正解はないぞ」

「いやいや、ジョージさん。これは僕たちにとっては重大な問題なんですよ」

「そうよ。沽券にかかわるわ!」

「あーはいはい。それじゃ、これからの事話すから集合な。トーマのパーティもこっちに来てくれ」


 ジョージが手を叩き、それを合図に騒いでいる仲間たちは表情を引き締めた。

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