9-1.はじめてのパーティ
今回はロゥくんも出ます。
ロゥが冒険者になって半年が経った。
彼は地道に薬草採りから職人の手伝いまで様々な初級依頼を着実にこなし、つい先日討伐依頼が解禁になった。
本来であれば成長するまでは受付の人間に止められるが、ロゥはどんな雑務レベルの仕事も真面目に取り組み、依頼主からの評価が総じて高かったためにギルド側が条件付きで許可を出したのだ。
その条件とは、討伐依頼は半年以内に討伐依頼を成功した冒険者と一緒に依頼を行う、というものだった。
このように条件付きで依頼を受けることは珍しくない。
例えば、同じ年代のトーマたちのパーティはギルドに登録したパーティメンバーが全員参加していれば討伐依頼を受けられる。
「では、ロゥの討伐許可を祝してかんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
そのトーマたちのパーティメンバーと共にコップをぶつけ合うロゥの姿がギルド併設の酒場にあった。
冒険者の活動初日に出会い、ゴブリン・バーサーカーの襲撃やカレンとの修行など、トーマパーティとは何かと接点が多く、交流を続けていた。
トーマたちはロゥが討伐依頼を許可されたと聞いて祝いの席を設けたのだった。
「みんな、ありがとう」
ロゥは嬉しそうにコップに注がれたジュースを飲み、料理を頬張る。
周りの人間たちは冒険者ばかりで、ロゥたちの事を昔の自分を見るように懐かしそうな視線を送っている。
「じゃあ、さっそく一緒に依頼受けようぜ!」
パーティのリーダーで剣士のトーマがここぞとばかりに提案した。
「うん、いいよー。でも、何するの? ゴブリンの討伐?」
「ゴブリンはいいや……」
半年前にゴブリン・バーサーカーと出会った時の思い出がトーマの脳裏に現れる。
新米冒険者が簡単な依頼を受けて運悪く強敵に出会って死ぬ、という話は極々稀にある。
不幸中の幸いで逃げ延びれたとしても心に恐怖が染み込み、冒険者としての活動を早々にやめてしまう者もいる。
「もしかしてトラウマになった?」
「違うって! ここ半年は俺たちゴブリン狩り続けて飽きたんだよ。それにロゥはゴブリン程度じゃ、対して薬草採りと難易度変わらないだろ」
トーマたちはロゥとゴブリン・バーサーカーの死闘を目にしている。
木の幹や枝を足場にした立体的な攻防戦は新米冒険者からしたら異次元の戦闘だった。
彼らはその戦いに衝撃を受け、冒険者としての活動よりも己の鍛錬を優先するようになった。
それもひとえにロゥと肩を並べられるような優秀な冒険者になりたいと思ったからだ。
せっかくロゥと一緒に冒険をできる機会に恵まれたのに新米冒険者のお手軽討伐依頼のゴブリンを狩る程度では不完全燃焼で終わるのがトーマパーティの誰もが予想できた。
「でも、ここら辺ってあまり討伐依頼ないよね?」
「ふふふ、俺はここ最近ギルドに入り浸っては新しいものから塩漬けのものまで様々な依頼書を見ていたんだ。その中に俺たちに持ってこいの依頼があった!」
懐から件の依頼書を取り出し、テーブルの真ん中にたたきつけた。
「『イリュージョン・シープ』の討伐?」
ロゥが聞きなれない魔物の名前に首を傾げた。
「珍しい魔物……だよね?」
「イリュージョン・シープは警戒心が強く、滅多に人前に現れる事がない上に、見つけられても強力な幻影を使ってすぐに逃げ出してしまうんだ」
冷静な判断力と豊富な知識でパーティのブレイン的位置付けの弓兵のリュークが補足してくれる。
「ベテランの冒険者からしたら労力の割に報酬がわりに合わないって話だけど、それはベテランからしたらだ。報酬を見てみろ」
「金貨1枚か。確かに僕らには丁度良い依頼だね」
「どういうこと?」
リュークは納得したようにうなずいた。だがカレンはまだ理解できずに首を傾げていた。
金貨1枚という報酬は高いか、少ないかで言えば高い。ただし、個人で見た場合だ。
パーティで考えた場合は低い部類になってしまう。
理由として、パーティの構成人数は基本的に5人。5人でただ単純に金貨1枚を分割すると一人当たり銀貨20枚。金貨1枚=銀貨100枚だ。
1日の平均日当は銀貨1枚なので20日分の稼ぎとなるが、そこから準備や冒険の最中で消耗した物など雑費を引くと銀貨10~15枚が利益となる。
依頼がどれほどの期間を使い、どのくらいの労力になるかを考えなければたとえ利益が銀貨20枚だったとしても赤字となってしまう。
「普通の冒険者だったら利益と労力を鑑みて他に割のいい依頼を選ぶだろうけど、僕らはまだ新米だからあまりリスクを上げすぎるのも良くない。
でも、今回の依頼は目的地に行って、対象の魔物を討伐してする、という一般的な冒険と同じ工程を行うけど、討伐対象は危険度が低いイリュージョン・シープだから練習にはもってこいでしょ?
それに、この依頼は危険度が低いのにパーティで挑んでも多少利益が見込めるんだ」
「あー、確かにゴブリン以外の魔物の討伐は結構リスキーだよね。だからって畑を荒らすイノシシとか駆除しても銅貨20枚とかそこらだし」
リュークの説明で納得でき、カレンも腕を組んで頷いた。
「そう! 利益も見込めて、特殊な魔物の討伐っていう経験も積める! 一石二鳥の依頼なわけ! なあ、ロゥもやるだろ?」
「『幻覚によって馬が驚いて御者が馬車から落ちて怪我をしたり、置いてあった荷物が荒らされたりして困っています』か。うん、困っている人がいるならやるよ」
「よーし、じゃあ、決まりだな!」
一人黙々と食事を食べているオルテシアがここでようやく話に混ざるため、挙手する。
「どうした? オルテシア」
「イリュージョン・シープのいる場所は?」
「サウスから東へ行ったところにある湖周辺だと」
サウスは周囲を平原に囲まれ多くの街道が伸びている。
その中で西に進む街道を行くと湖が存在し、旅人や商人の休憩地点として小さな宿などが建っている。
距離にしてサウスから約1日の場所だ。
「移動で往復2日、討伐はどのくらいを見込んでおく?」
「理想は1日だけど、最長でどのくらいまで粘るかを決めた方がよくない?」
「湖の宿がいくらか知らないと1日の出費が出せない」
「ちょっと、せめて男女別々の部屋じゃないと嫌だからね」
「……誰もお前に興味ねぇよ」
「トーマなんか言った?」
「言ってないし」
賑やかにこれからの冒険に向けて話を掘り下げていく。
初めてのパーティに参加して冒険と言うこともあり、ロゥはどんな意見を述べればわからなかったが、1人では味わえない大所帯独特の賑やかさを楽しんでいる。
「そうだ。宿とかは知っている人に聞くとして、ロゥくんの装備見ときましょ」
カレンが思い出したようにロゥの顔を見た。
当の本人であるロゥは首を傾げる。
「なんで?」
「だって、ロゥくん初めての討伐系依頼で遠出だよ? 町でお手伝いしていた時の道具とは結構違う物も多いし」
「なるほどー」
ロゥは得心して、足元に置いていたバッグを取り出す。
いつも依頼を受けに行くときに持っていくバックには今日も必需品を納めてあった。
「えーっと、お財布と地図と軽食と薬と短剣ね」
「町で依頼をするには、これくらいだよね」
「むしろ、ちゃんとした装備だね。結構みんな町中だと適当になっちゃうものなんだけど」
「他に何かいるものとかある?」
「泊まりだから肌着はいる」
「まだ何泊くらいになるかわからないから細かいことは言えないけど、食料はもっと必要だと思うよ」
「水筒もいるな」
「野営用にマッチとか火打石が欲しい」
「この短剣めっちゃ良いヤツじゃん。ほとんど使われた形跡ないけど」
トーマたちからの話に相槌を打ちながら、指折りで必要な物を数えていく。
「買う物は食料と水筒かな。肌着とマッチは余分に家にあったと思う」
「よーし、ならこの後買い物に行こうぜ。ロゥだけじゃないくて、俺たちも消耗したやつの補充とかするし」
こうしてパーティでの冒険が順調に進んでいくのであった。
30日、31日も投稿するのでよろしくお願いします。




