6-4.道中騒動
先週同様、今回も月曜に更新します。
もう少し文字数の調整上手くなりたいです。
2日経つと道を塞いでいた魔物が居なくなったことに町の人々も気が付き始めた。
何人かの男衆が山へ様子を見に行ったが影も形もなくなった魔物に首を傾げながらも、とりあえず安全は確保されたことを町中へ流布した。
ロゥたちは再開した乗合馬車に乗るべく、馬の厩舎にやってきていた。
「じゃあ、荷台に乗ってね」
馭者が馬の手綱を握り、ロゥたち3人に言った。
「お世話になりました」
「こちらこそ、またどこかでお会いしましょう」
メリッサとシトロンが別れの挨拶をしている。
その横ではロゥとアネモネがトロワとの別れを惜しんでいた。
「トロワお姉さん、気を付けてね」
「うん、ロゥくんもね。色々教えてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
「アネモネちゃん、ヘンディの怪我直してくれてありがとう」
「いいえ、お安い御用です。トロワさんもお元気で…………あの」
「なにかしら?」
「……その、どうしたら(胸が)大きくなりますか?」
「そうね、好き嫌いしないでたくさん食べれば(身長が)大きくなるわ」
アネモネは、ぱぁっと笑顔を咲かせた。
「はい、ありがとうございます!」
「もし、うちの領地に来たら訪ねてきて。もてなすわ」
トロワとシトロンはここら別行動だ。
翌日の乗合馬車を使ってトラジェスティン家の領地へ戻る。
ロゥとアネモネが荷台から顔を出し手を振り合う。
「またねー」
☆
町を出るとロゥたちが魔物を討伐した山岳を進む。
数日かけて山岳を越えると平原になり、騎士団南東支部がある『商業都市サウス』まで続く。
この道は商人や乗合馬車が頻繁に行きかうためギルドが定期的に魔物を駆除している。
そのため、商人や乗合馬車の馭者によっては護衛を付けない者もおり、ロゥたちが乗っている馬車も護衛はいなかった。
ただし、停留所などで他の乗合馬車や商人と合流し、大人数で移動することで身の安全を守っていた。
最後の停留場が見えてくると馬車の馭者が首を傾げた。
「なんか、いつもより数が多いなぁ」
まだこの時はこれから起きる騒動を誰も予想できなかった。
「やあ、今日は馬の数が多いね」
停留所に着くと馬車の馭者が先に到着していた同業の男に声をかけた。
「……ああ、旅の人が来ていてな」
停留所には多くの馬と荷台が並んでいる。
しかし、人の姿は馬に比べて少なかった。目の前の馬車の馭者以外には数人の若者がロゥたちの乗る馬車を囲むように点在している。
「どうした、顔色が優れないようだが?」
甲高い金属音が停留所に響いた。
乗員乗客が驚き、音の方に目を向けると馬車の周囲にいた若者たちだった。
彼らの仲間と思しき連中が馬車や荷台の陰から現れる。皆一様に腰に剣を差し、荒れた装いをしている。
「まさか……盗賊か」
持っていた手綱を馭者の男が手放す。
俯いていた同業の男は視線を合わせることなく頷く。
「はーい、正解正解!」
金属の棍棒を2本持ち、威嚇するようにぶつけている大男が愉快に笑う。
リーダー格だと思われるその男は身の丈が馬よりも高く、岩のような筋肉にはいくつもの傷跡が残っている。
何より顔を横断している刀傷が善良な人間とは程遠い世界に身を置く者だと表していた。
「動くな動くなァ!」
棍棒同士をぶつけ、ひと際大きく金属の擦れる音が響いた。
馬車の乗客は怯え、商人たちは顔を青くしている。
「よーし、これで全部揃ったんだな? いいぞいいぞ」
盗賊のリーダーは嬉しそうに汚い歯を剥き出しに笑う。
「お前らお待ちかねの時間だ! 始めろ始めろ!」
「っしゃあ!」「ほら、女子供は降りろ!」
盗賊の部下たちが馬車に近寄り物色を始める。
乗客たちは男女に分けられ、ロゥたち3人は馬車から降ろされ停留所の一角に集められた。
「いいねー、金になりそうだ」
「おいおい、自分たち用のも選ぼうぜ」
「頭領が選ぶ前に手付けると頭なくなんぞ」
下卑た視線で女性陣を見る。
嫌悪感を抱くが抵抗できるわけもなく、皆で身を寄せ合い不安を紛らわせることしかできなかった。
「おい、ガキ面白いもの頭につけてるな?」
一人の盗賊がロゥの耳に気が付いた。
獣人は珍しい。
人の集まる町には獣人が訪れることもあるが、全体的な割合としては決して多い方ではない。
「こっちに来い」
ロゥは1人立ち上がり盗賊の元へを歩み寄る。
乗客たちは悲壮な顔で彼の行く末に心痛めたが、当の本人は未だこの状況を正確に理解はしていなかった。
「なに、おじさん?」
ロゥが呼び出した盗賊に問いかけると、他の盗賊たちが噴き出した。
「おじさんだってよ」
「まだ二十歳なのにな!」
「うるせえぞ、お前ら! おい、聞けガキ。俺はな獣人が大嫌いなんだよ。おまけにガキも嫌いで、他の奴に笑われるのも嫌いだ。わかるか?」
「うん」
「じゃあ、お前がこれからどうなるか想像してみろ」
盗賊たちは面白そうに笑みを浮かべている。
その場にいた人間はロゥがこれからどうなるか想像するに難くなかった。
ロゥを除いて。
「どうなるの?」
怖がるどころか盗賊の言っている意味を理解できず首を傾げてしまうロゥ。
その様子に盗賊はこめかみに青筋を浮かべる。
「このガキ……!」
腰に差した剣を彼の鼻先に突き付ける。
思わず捕らわれている乗客たちが小さな悲鳴を漏らす。
「これでどうだ? ほら、命乞いしてみろよ」
「ああ、なるほど」
暢気に手をぽん、と叩いて納得した様子を見せる。
「おじさんたちは盗賊か!」
「…………あ?」
「てっきり本で読んだ『けんもん』の人かと思ってたよ」
「……………………殺す!」
盗賊の男は我慢の限界に達し、突き出していた剣を天高々に振り上げる。
「死ねコラぁ!!」
男が剣を振り下ろしてからロゥは動いた。
すでに男との距離は十分詰めていたため、ロゥは魔力で纏った腕をそのまま前に伸ばせばよいだけだった。
振り下ろされる刀身を砕き、勢いは微塵も弱まることなく拳が男の顔面にめり込んだ。
「なば!?」
短い悲鳴が聞こえ、男の体は地面を離れ遠く彼方の方へと飛んで行ってしまい最後まで聞くことができなかった。
乗客と盗賊は茫然自失となりその場に立ち尽くす。
「あ」「この」「ガキがァ!」
盗賊たちは剣を構えるがあまりにも遅すぎた。仲間の男が地面に落ちるまで唖然としている間にロゥは彼らに近づいている。
あっという間に盗賊3人が1発ずつ殴られただけで戦闘不能にまで陥った。
「ロゥ様。馬車の方には4人います」
「わかった」
メリッサの言葉に頷き、足を音を立てずに荷台や馬の陰を移動していった。
彼女は荷物を縛っていたロープを解き、倒れている盗賊3人を拘束しようとする。
「どなたか手を貸していただけませんか?」
数名の女性が立ち上がり、彼女に手を貸した。その内の1人、気の強そうな女性はロープで縛る際に盗賊たちの顔を踏みつけていた。
「ぎゃあああああ!」
ロゥが向かった方向から喉太い悲鳴が上がった。盗賊たちのリーダー格の声だ。
事態が収まったことを悟り、女性陣たちは悲鳴のあった方へ移動する。
「あ、メリッサお姉さん、ちょうど呼びに行こうとしてたんだ」
ロゥの足元には盗賊のリーダーが顔面を陥没した状態で昏倒していた。
鉄の棍棒は薪のように折られ、手下たちも体のどこか一か所が大きくはれ上がり気絶している。
「おわったよー」
無邪気な顔でロゥは手を振っていた。




