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最果ての森のハーフコボルト  作者: よよまる
冒険者のロゥ
38/79

6-2.vsドラゴン・マンイーター

今回、1つの話を分割したのでちょっと短いかも。

代わりに月曜日にも更新します!

 ロゥたちが滞在している町は大陸の南に位置している。

 町から南下すれば未開拓の森が広がり、東へ向かうと山岳地帯があり、その向こうには騎士団南東支部がある『商業都市サウス』へたどり着く。

 魔物が出現するのは山岳地帯の一番最初の山だった。一歩足を踏み外せば急な斜面を転げ落ち救助はおろか即死する危険性のある山道にドラゴン・マンイーターは現れた。

 ドラゴン・マンイーターは人間より一回りも大きな魔物だ。トカゲに近い形状からドラゴンの亜種と言われてはいるが、正式なドラゴン種としては扱われていない。

 だが、ドラゴンと名がつくだけあり凶暴性は有名だ。

 肉食で特に人間を好んで襲い食すことからマンイーターの名前が付けられた。

 鋭くびっしりと並んだのこぎり状の牙は噛まれれば人の手足を易々と千切り、山場の不安定な地面をものともしない四足歩行で逃げる獲物を追いつめる。


「いますねぇ」


 シトロンは魔物から遠く離れた山の麓で人差し指と親指で輪を作り、覗いていた。


「メリッサさんの聞き込み通り、数にして5でしょうか。群を成していますね」

「ドラゴン・マンイーターは本来2匹で行動します。雌雄の番、繁殖後は母子で行動し雄は離れます」

「にも関わらず群を成しているということは……」

「司令塔となる魔物が別にいるのでしょう」

「それはおそらくユニークでしょうねぇ」


 ユニークとは、魔物の中でも突然変異した個体である。

 通常の体躯よりも大きい、という特徴から、本来とは全く異なる性質を発現するものまで千差万別の変異を見せる。


「ドラゴン・マンイーターのユニークならいいんですけどねぇ」

「そのドラゴンなんちゃらって魔物のユニークじゃないとどうなるの?」


 ロゥがシトロンへ質問する。


「魔物を統率するユニークには大まかに2つのパターンがあり、一つはその個体が変異しボスとなる場合です。

 で、もう1つがその種族よりも上位の魔物が群を支配しているパターンがあるんですよ」

「上位の魔物? ドラゴンなんちゃらの上位だとドラゴン?」

「そうなりますねぇ。できれば寄生型なら本体は弱いので嬉しいのですが」


 魔物が群を作る場合、同系統の魔物同士で集まる習性がある。

 あまりにも生態が離れていると繁殖ができないためだ。

 例外としては、寄生型の魔物がおり、別の個体を操作したり、卵を産み付けたりすることがある。


「作戦はどうするんですか?」


 アネモネがメリッサへ質問する。

 事前調査や本日の作戦を考えるのはメリッサの役割だった。


「1匹ずつ確実に倒しましょう。その際、これを使います」


 彼女がポケットから取り出したのはひもで結ばれた赤い紙筒の集まりだった。


「なにこれ?」

「爆竹だよロゥくん」

「ばくちく?」

「火をつけると紙筒の中にある火薬が弾けてバチバチ音を鳴らすの。うちの村だと魔物よけとして大人が持ってた」

「他にもお祭りや催しがあった時に盛り上げるために鳴らしたりします。今回はドラゴン・マンイーターの特性を利用するのに使います」


 ドラゴン・マンイーターは音に敏感で獲物が地面を歩く音を察し狩りをするのだ。

 爆竹は大きな音を断続的に立てるのでドラゴン・マンイーターの攪乱には最適の道具であった。


「私とトロワさんが別々の方向に爆竹を投げ、攪乱している隙にロゥ様とシトロンさんが魔物を倒します。

 お2人のどちらかがドラゴン・マンイーターを拘束し、弱点である目と目の間を攻撃してください。

 アネモネ様は私とトロワさんの側で待機し、負傷者が出たら治癒をお願いします」

「わかった!」

「わかりました」

「が、がんばります」

「(もしかして、また私いらない可能性がある?)わかりました」


 ロゥ、シトロン、トロワ、アネモネは彼女の指示に頷き、行動を開始する。

 サポート班のメリッサ、トロワ、アネモネは岩場を移動する。


「来ました」


 地面に伝わる微音を察知し2匹のドラゴン・マンイーターが彼女たちの方へ動き出す。

 いくら足音を抑え気味に歩いたとはいえ、魔物の索敵能力からは逃れられない。

 だが、これも想定内である。


「では、トロワさん。私にタイミングを合わせてください」

「はい」


 2匹のドラゴン・マンイーターをギリギリまで引きつけ、マッチを擦り素早く爆竹へ点火。

 彼女たちはそれぞれ別方向へ爆竹を投げ、走り出す。


「すぐに逃げましょう」


 獲物の逃走を許すわけもなく、ドラゴン・マンイーターたちは四肢に力を入れて駆けだした。

 同時に爆竹が盛大な音を立て爆ぜた。

 立て続けに鳴り響く爆竹の破裂音を敏感な聴力で捉え、ドラゴン・マンイーターはその足を止めた。

 地面の些細な音を拾えるほどの聴力が災いして標的の足音と爆竹の破裂音が混濁してしまうのだ。


「今です!」


 メリッサの合図ですぐ側で待機していたロゥとシトロンが前進する。

 ロゥが黒い魔力を纏い、巨大化した腕を上から下へと振り下ろし、獲物の頭部を粉砕した。


「やった」

「お見事ですねぇ。では、私も!」


 下半身による踏み込み、捻りによって威力を上げる腰、伝道した力の流れを集約する背中、それら全てを一点に集中した腕から放たれた剛拳は低級の魔物を容易く貫いた。


「こちらも仕留めました」


 シトロンは『黒帯くろおび』と呼ばれる金属繊維を編み込んだ帯をコートの下に身にまとっている。

 魔力を込めることによって黒帯は自在に伸縮、変形し、剣にも盾にも姿を変え、筋肉の流れに沿う形で身に纏うことで人間の超えた身体能力を発揮することができる。

 奇襲は成功したが、他のドラゴン・マンイーターが異常を察し集団で彼らの方へ迫る。


「それ!」


 ロゥは腕の大きさを膨張させ、地面を叩き空中へ舞い上がる。

 予定する着地地点はドラゴン・マンイーターたちのど真ん中。


「『ショックスタンプ』!」


 着地時に足へ魔力を込めると爆発のような衝撃が起きた。

 その衝撃は地面を陥没させ、ドラゴン・マンイーターたちは宙を舞い、1匹が群から離れ、地面を転がったところをシトロンが素早く近づいた。


「じゃああああ!」


 ドラゴン・マンイーターは口を開きながら頭を揺らし威嚇する。

 下手に近づけばノコギリのような歯によって全身の肉を削げ落とされるだろう。

 しかし、シトロンは平然と近づき、ドラゴン・マンイーターに真っ向から対峙した。


「おっと」


 人間を飲み込めそうな大きな口が閉じかけた時、上顎と下顎を片手でそれぞれ掴み阻止する。

 ドラゴン・マンイーターの発達した顎の筋力は閉じる力に特化し、大男が何人いようが開くことがないはずだが、シトロンは易々と下顎を引きちぎった。


「じゃ!? ああああ!?」


 閉じれなくなった口から悲鳴をあげ、ジタバタと悶えるがシトロンが掴んだ上顎を離さない。

 ちぎれた下顎を投げ捨て、空いた手で手刀を作り狙いを定める。


「おしまいです」


 シトロンの手がドラゴン・マンイーターの胴体を貫き、大きな痙攣の後に次第に動かなくなるのを確認し地面へと放り投げた。


「よっ、ほっ、それ」


 ロゥは2匹のドラゴン・マンイーターから繰り出される噛み付き攻撃を身軽に避けつつ岩場を移動する。


「じゃあああ」「じゃ! じゃ!」


 息のあったコンビネーションで休みなく攻撃するが、ロゥはすでにドラゴン・マンイーターたちの攻撃のリズムに慣れ回避が苦になっていない。

 片方が噛み付き、それを避け、もう片方がすかさず噛み付く。

 早く鋭い、恐ろしい攻撃だが単調だった、ロゥは足元に転がっていた手頃な岩を拾い片方のドラゴン・マンイーターの口へ投げた。


「じゃ!?」


 一息では噛み砕けない大きさの岩が口に入り、それまで刻んでいたリズムが崩れる。

 ロゥの狙い通り隙が生まれ、魔力で巨大化した腕でドラゴン・マンイーターの頭部に鷲掴みにする。


「んぐぐうぐう!?」「ぎゅるるるる!?」


 抵抗するも虚しく、ロゥが手に力を込めて2匹のドラゴン・マンイーターは同時に生命を停止した。


「終わったよー」

「雑魚は終わりましたねぇ。きっとボスが近くにいると思うので油断しないでください」

「うん、わかった……お?」

「来ましたか」


 隠そうともしない敵意を感じ取り、ロゥとシトロンは身構えた。

 砂埃が舞い上がり、向かい風に乗って1体の魔物が空を滑空する。


「ドラゴン!」

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