5-幕間.次のお仕事
短いので月曜更新になりました。
今週の土曜にも更新します。
「まさかヘンディが負けるなんてね」
ポップは手に持った鏡に視線を落としている。
鏡には今しがたヘンディとの戦闘に決着がついたところが映っていた。
「あの獣人の子、要注意ね。次はあの子の存在も考慮して人選しないといけないわ」
「いいえ、その必要はありませんよ」
後ろからの声に振り振り返ると2人のメイドが立っている。
長身の女性と小柄な少女のコンビだった。
「あら、こんな森の中にメイドがいるなんて、と私が言えたものではないけれど」
長身のメイドはポップに対しお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。カエデと申します。こちらはティー。ほら、ご挨拶なさい」
長身のメイドに促され、クッキーを食べていた小柄な少女は無愛想に会釈する。
「博士からの遣いかしら?」
「はい。博士がポップさんのお力が必要だとおっしゃっていましたのでお迎えにあがりました」
「こんな森でよく私の居場所がわかったわね。どっちかの能力かしら?」
「この子の能力、みたいなものです」
カエデは視線を隣にいるティーへ向ける。
一方、ティーは2人の会話に関心がないのか再びクッキーをかじるのに夢中になっていた。
「それは頼もしい後輩ができたわね。さて、次のご命令は何かしら?」
「詳細は博士から聞いていただくのがいいでしょうけど……」
ポップがカエデの視線を追うと自分の手にする鏡に至った。
そこに映し出されたのは獣人の少年だ。
「あら、まさかこの子が?」
驚くポップに対し、カエデは微笑みながら首肯する。
「どうぞこちらへ、博士の元へご案内いたしますわ」
流れる動作で体を翻し、長いスカートがふわりと舞う。ティーは彼女の後を追い、ポップも足を動かした。
3人は木々が作った小さな隙間、3人が立ち並ぶに十分な広さの空間で立ち止まる。
「ティー、お願い」
「ん」
ティーはポケットの中から小瓶を取り出す。
小柄な彼女の手の中にすっぽり収まるほど小さな瓶の栓を抜き、瓶を傾けると中から液体がこぼれ出る。
「んぐ」
真っ赤な液体を口に含み、胃の中へと流し込む。
「『アイスピック』」
ティーの短い詠唱により現れたのは巨大な氷塊、氷は地面へ落ちるとその形状を維持できなくなり水へと姿を戻した。
3人の前には大きな水溜りが出来上がっていた。
カエデは一歩前に出ると水溜りに手を浸し魔力を流す。
「『ゲート』」
彼女の魔力が水に溶け込み、淡い光を放つ。
幻想的な光を放ち、憂いを帯びた幻影のように水面に映る太陽は月のように漂う。
「さあ、どうぞ。屋敷へ繋がっております」
「ふふ、これはこれは優秀な後輩ができて嬉しいわ」
迷うことなくポップは淡く光る水面へ足を踏み込んだ。
3人の姿が完全に沈みきると水が放つ光は失われ、森に静寂が訪れた。
☆
「博士、ご無沙汰しておりますわ」
ポップはスカートの端を摘み、上品な挨拶をした。
対するのは車いすに座った老人、メイドたちが博士と呼ぶメリッサの元雇い主であり、ポップが真に仕える人物だった。
「ご苦労。お前を呼び出したのは最優先でやってもらいたいことがあるからだ」
「森にいる獣人の子供ですか?」
「ああ、聞いておったか」
ポップの後ろ、部屋の入口で控えている2人のメイドの片割れ、カエデが博士の視線に気づき微笑んだ。
「直接的な戦闘は非効率であった。現在、最も戦闘向きな2人をあてがうも一人は行方知れず、一人は吸収された」
「あら、寝返ったの?」
カエデに視線を送ると彼女は2人の側へ近づき事情を説明する。
「はい、騎士団の拠点にいたメイドがそれにあたります」
ポップはくすり、と得心がいった様子で笑う。
「メリッサね。少し話したけど戦闘向きな性格はしてないわね。本当にメイドとして働いていた方が天職に見えたわ」
「以前は博士の御側仕えをしていた程なのですが私も残念でありません」
「ふふ、あなた笑っているわよ」
指摘されてカエデは自分が嬉しそうに笑っていることに気がついた。
「どうやら人は変わっても、私がいた時と似たようなものなのですね」
「ああ、お前の同期よりも良い能力を発芽させたものが多くいる。お前はメイドたちをまとめ、計画に備えろ」
「承知いたしましたわ」
再びスカートの端を持ち、優雅にお辞儀する。後ろに控えていたカエデも倣って頭を下げた。




