5-3.メイドのお仕事とがーるずとーく
◇◆◇お知らせ◇◆◇
7月中にサブタイトルとあらすじの部分を変更します。詳細は活動報告をご参照ください。
※今までの話は本文は変更しません。
メリッサは拠点で炊事・掃除などの雑務を行なっている。
ロゥが狩りへ行き、ヴァルサガ達騎士は警邏へ赴いている本日も彼女は拠点の食を任せられ、遂行するべくエプロンを身につけた。
深緑色の裾の長いワンピースに白いエプロン姿は騎士達の間ではすでに日常に組み込まれていた。
「保存食を作ります」
メリッサはポップに対し普段通り起伏のない口調で言った。
彼女の前には小麦、塩、バターなどパンの材料があり、そのほかには大き目の瓶と果物、肉など様々な食材が置かれている。
「森での生活で安定して糧を得ることは大変なことです。そのため、何かあってもいいように保存食を作ります」
「はい、微力ながらお手伝いさせていただきます」
ポップは粛々と頷き了承した。
「作業を分担しましょう。私はパンと果物の瓶詰を作ります。ポップさんは干し肉を作ってください」
「あの、よろしいですか?」
ポップが手を上げ、メリッサは首肯する。
「分担の割合がメリッサさんに大きく偏っている気がするのですが」
「問題ありません」
表情を一切変えずに言われポップは狼狽える。
理由を説明してほしかったが、メリッサの無表情に対し少々距離を感じそれを言えないでいた。
しかし、作業が始まるとポップの理解した。
「は、早い……」
メリッサが目にも止まらない速さで作業をしていた。
大量の瓶の中に果物と保存用の調味料を溶かしたシロップを収めていく。瓶の大きさはバラバラであり、計りを使わずに正確な割合で材料を入れていた。
その傍らのテーブルには小麦粉がすでに団子状になって発酵待ちとなっていた。ポップはいつの間に小麦をこねたのかわからなかった。
「私も負けれられないわ」
ポップは自分の作業へと意識を向ける。
彼女の前にあるのは騎士が巡回中に見つけ、捕まえてきたウサギだ。食卓に乗せられるほどの肉が1羽から取れないため、保存食にすることになった。
血抜きは捕まえたその場で行われているのですぐに調理へ取り掛かれた。ポップは皮を剥ぎ肉を適度な大きさに切り分ける。
「まず塩とペッパー系の香辛料を良く刷り込む。保存食なので濃い目の味付けにしましょう」
肉を揉むように塩と香辛料を馴染ませていく。
肉を揉み解し、握力がなくなってきた頃にようやくすべての塩塗りが完了した。
「1日ほど寝かせて水分を抜いて味を染み込ませる、っと」
森に自生する笹に似た細長い葉を使い、肉を包み安置する。この葉は水に強く、肉からあふれ出る水分を吸収せずに弾くので食料を包むのに適していた。
今日の分は日陰に安置し、メリッサが昨日仕込んでおいた分を代わりに取り出す。
「次は、メリッサさんが昨日仕込んだものの処理ね」
同じようにメリッサが加工したものだ。獲物が小さいため、それほど量は多くない。
「塩と香辛料を水で洗い流す」
表面に残った塩と調味料がなくなる程度に肉を水でゆすぐ。
「本当は燻製にすると味も香りも良くなるのだけど。物資も少ないのでこのまま干しましょう」
物資搬入用の木箱を並べ、その上に先ほど肉を包むのに使用した葉っぱを敷き、肉を並べていく。
直射日光が当たる場所は避け、日陰になっている場所を選んだ。森には背の高い木や大きな葉を茂らせた植物が多いため、場所には困らない。
「これで終わりね」
額の汗を拭い、塩と香辛料の臭いが付いてしまった手を入念に洗い戻ってくるとメリッサがテーブルにお茶の準備をしていた。
彼女の作業はすでに終わり、後片付けまで済ましている。
「ご一緒にいかがでしょうか」
メリッサは用意したカップを差し出す。
作業に集中して休憩を入れるのも忘れ、喉がからからになったポップには断ることはできなかった。
「頂きますわ」
メイド2人がお茶を嗜む姿は絵になった。
それが例え、森の中であろうとも、ティーカップの代わりに無骨なブリキのマグカップを使っていても。
「メイドの特権ですね」
「ええ、そうですね」
台所を任さられるメイドがよくするおやつタイムだ。
保存用のパンを作る過程で余った生地でクッキーを焼いており、それがまた労働後のお茶に良く合った。
「助かりました。保存食を作る時は作業の前後で入念に手を洗わなければなりませんので、別の方にお願いできてよかったです。洗濯物や他の食事に臭いが移っては困りますし」
「メリッサさんはすごいんですね。あっという間にお仕事を終わらせてしまって」
ポップの言葉に対し、メリッサは表情を変えない。いつも通り淡々した口調で首を横に振る。
その顔は無表情にもかかわらず、どこか自嘲気味なものだった。
「いえ、私なんかはまだまだです。多くの方に迷惑をかけて、このような方法でしか償いができないのです」
メリッサの言葉にポップは彼女にも事情があるのを悟る。
伊達や酔狂でこの最果ての森にメイドがいるわけではないのだ。そして自分も彼女と同じように『事情』を持ちこの場にいた。
無意識に力が入り、手に持つカップを固く握っていた。
「時にポップさん」
「はい、なんでしょうか」
後ろ向きな話では面白味のかけらもないことはメリッサも重々承知だった。話を変えるついでに少し気になっていたことを聞いてみることにした。
「ヘンディさんとは恋仲なのですか?」
「ぶっー!?」
口に含んでいたお茶を盛大に吹き出したポップ。珍しくメリッサは目を丸くし、せき込む彼女の背を摩る。
「すみません、聞いてはいけなかったでしょうか?」
「けほっ……けほっ……、いえ、その、大丈夫です。驚いただけですので」
口の端に付いた涎かお茶かわからない液体を拭い、座りなおす。わずかに乱れたままの髪が動揺が残っているのを物語る。
「私とヘンディはただの使用人と私兵に過ぎません。それ以上でもそれ以下でもないのです」
「そうでしたか。大変仲の良い様子でしたので勘違いをしてしまいました。申し訳ありません」
「いえ、いいんですよ。でも、どうしてそのようなことを?」
平静を装いつつ、ポップは話題を変え浮足立つ心境を落ち着かせようとした。
「はい、私は処女なのですが」
「ぶほっ……!?」
再びお茶が逆流し、今度は鼻からも飛び出し呼吸困難に陥る。
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫です……驚いただけです」
メリッサの突然のカミングアウトについに動揺を隠せなくなった。
「あの、それが先ほどの質問とどういう関係なのでしょうか」
「はい、この年まで男性と交際したこともなく、そのような出会いもそもそもありませんでした。
もしポップさんがヘンディさんと恋仲でしたら、恋愛というものがどのようなものなのかを教えていただきたかったのです」
ポップは意外に思う。常に無表情で仕事を完璧以上にこなす彼女はそう言ったものに興味があるように思えなかったのだ。
人並みに恋愛についての興味を持っていることに距離を感じていたメリッサが急に身近に感じられ、安心する。
「失礼ながら恋愛に興味なさそうに見えましたので意外ですね」
「興味はありません」
「え?」
「もう少ししたらアネモネ様から相談されそうですので、予め調べておこうかと思いまして」
今はまだアネモネは自分が胸に抱いている感情が何なのかは自覚できないとメリッサは思っている。
彼女はまだ幼い。体が成長するにつれ、同時に心も育まれる。そうなった時、メリッサは彼女に対しどのようなアドバイスをすれば最適なのかわからなかった。
「えーっと、つまり自分のために聞いたわけではない、と?」
「はい、メイドたるもの主人の要望に応え、良き方向へ導く手助けをするのが職務ですので。想定される事態に備えておこうかと思いました」
「………………………………」
ほんの少しメリッサに親近感を覚えたが、再び彼女との距離を感じたポップだった。
そういえば、前回の投稿文で10万文字突破してました。
これからも頑張ります。




