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最果ての森のハーフコボルト  作者: よよまる
狂戦士のヴァルサガ
22/79

4-2.いざ出発

 森で騎士団が拠点にしている場所を探すため、ロゥたち3人は遠出の支度を済ませた。

 家を出て、近くの川辺まで移動する。


「ここがこの前ロザリアお姉さんを見送った場所だよ」


 メリッサが訪ねてくる前に一度ロザリアが訪問している。

 その話を聞いたメリッサはロゥに彼女と最後に別れた場所を案内してもらった。


「川を渡った場所である程度の方向はわかりました」

「ほんと?」

「ええ、ロゥ様のお家に行く前にここら一帯の調査を行なっていましたから。大体の地形を把握していますので、人が拠点を置くのに適した地形も導き出すことが可能です」


 その言葉にアネモネは素直に驚く。


「すごい技術を持っていんですね」

「メイドの嗜みです」


 メリッサはいつものポーカーフェイスで謙遜するとポケットから手書きの地図を取り出す。


「川を渡り約1日ほど森の中を進みます。道と呼べるものではないので怪我のなきよう、お気をつけくださいませ」


 足が取られるような場所がないか確認するため、彼女は一番先に水へ入ろうとする。

 しかし、ロゥが魔力で生成した巨大な手で彼女の身動きを止めた。


「如何なさいましたか?」

「水に入らなくても向こう行けるよ」


 アネモネはその言葉を肯定するように頷いた。

 メリッサは首を傾げたがすぐに体験することになった。


「…………」


 アネモネの時とは違い、放心状態で反対側の川岸へと足をついている。その隣にはクレーターができ、ロゥの大ジャンプの痕跡が残っていた。


「メリッサさん大丈夫ですか?」

「……はい、どうにか」

「顔色悪いよ?」

「実は……少々高いところが苦手で」


 真っ青な顔でポーカーフェイスを取り繕っているが声が若干震えていた。

 そんな彼女の姿を見てロゥとアネモネは吹き出してしまう。


「メリッサお姉さん、弱点合ったんだね」

「すごく可愛いですね」


 メリッサの顔色が良くなるまで少し休憩し、森へと踏み込んだ。

 先頭はメリッサが歩き、鉈を用いて藪や枝を切り進路を作り出す。


「鉈なんてどこにあったの?」

「時間が余ったので無人になっていた家を掃除した際に見つけました。たしか三軒隣の家だったと思います」

「なんで時間が余ると無人の家を掃除するんですか?」

「メイドの嗜みですので」


 一番背の高いメリッサが道を切り開いていくのでロゥとアネモネは楽に進めた。

 代わりに音や匂いで周囲の警戒をロゥが行い、殿も務めている。アネモネは二人に何かあってもすぐに対応できるように真ん中を歩く。

 休憩を挟みながら進むがメリッサは汗一つかかずに涼しい顔をしながら森を進んでいる。


「ハァ……ハァ……」

「休憩する? アネモネ?」


 休憩を行っている理由はアネモネにあった。体力のない子供が不慣れな森を進むのはあまりにも過酷だ。

 勾配が多く、足場とも言えないような木の根を使い2メートルの高さまで登ったりと決して楽な道のりではなかった。

 それでも懸命に彼女は二人と共に歩んできた。


「ハァ……ハァ……ロゥくんは、ともかく……。なんでメリッサさんは……ハァ……平気なんですか……」


 アネモネは息も絶え絶えになり、転がっていた大き目の石に腰を下ろしていた。

 靴擦れやねん挫などになっても彼女の魔術で一瞬で完治するが、体力だけは回復することはなかった。


「メイドたるものいかなる状況に置かれても平然としているものなのです」

「さっき高いところ怖がってたよね」

「………………」


 ロゥの突っ込みにメリッサは無言になり、視線を逸らした。

 彼女の視線を向けた先にロゥが回り込むと、別の方向へ視線が移動する。

 ロゥは面白がってメリッサの視線の方へ回り込み、また彼女は首を回し彼を視界から遠ざける。

 それを何度か繰り返しているうちにアネモネの息は整った。


「メリッサさん、あとどれくらいですか?」

「もうすぐのはずです」


 メリッサの言う通り、休憩を終えてからすぐに森の景色が変化した。

 周りに生えている木々の背丈はどこまでも続き、天井の様に太陽の光を遮断する。足元に生い茂っていた草・葉がなくなり、湿った土が顔を見せている。

 だいぶ歩きやすくなったが薄暗さのせいであまり早くは進めない。


「夜みたいに暗いね」

「ここまで来ると、だいぶ雰囲気が違うんだね」


 アネモネとロゥは見たことのない森の一面に驚きを隠せないでいる。

 メリッサは荷物の中から松明を火打ち石を取り出した。


「準備いいですね」

「これも」

「メイドの嗜みだね!」


 先にロゥが言ってしまい、メリッサは口をパクパクして言葉を出せなかった。その光景にアネモネは思わず笑った。

 気を取り直し、メリッサはポケットから懐中時計を取り出した。


「時計だ。初めて見たよ」


 物珍しそうにメリッサの手に納まってる懐中時計を見つめる。

 ロゥに見えやすいように蓋を開き、文字盤を向けた。


「おー」


 感嘆するもロゥは時計の見方がわからないので一番せっせと動く秒針を目で追った。


「この短い針がてっぺんを指していますので正午ですね。夕暮れ時になったら野営の準備をしましょう」

「はーい」「わかりました」


 松明の光を頼りに暗い森を進んでいく。ぬかるみに足を取られつつも、ほぼ平らな道を歩くのは楽になり、アネモネも少し息が上がる程度で問題なかった。


「妙ですね」

「どうかしたのですか?」


 歩きながらメリッサが首を傾げ、すぐ後ろのアネモネが反応した。


「魔物が見当たりません。私がこの森に来たときはスカル・ホーネットやフォレスト・ハウンドをよく見かけたのですが」

「確かに、結構長い時間森を歩いているのに出てきませんね」

「他の動物は見かけますが、魔物だけ姿を現さないのは不思議です」

「私たちは楽だからいいんですけどね」


 その後も慎重に森を進む。何かあってもすぐに対応できるように周囲を警戒していたが杞憂に終わってしまう。

 夜の用だった森に太陽の光が差し込み、視界が明るくなった。

 久しぶりの太陽はオレンジ色に空を染め、夕暮れを知らせている。


「んー! ようやく出れたねー」


 ロゥは伸びをしながら夕焼けの光をまぶしそうに眺める。


「本日はこの辺で野営にしましょう」


 暗い森を抜けた先は程よくひらけた場所だったので本日はここで野営をすることに決めた。

 たき火を熾し、食事を済ませたころには夜になる。たき火以外の光源がなくなり、お互いの顔がギリギリ見える程度だ。


「私は火の番をしていますので、どうぞお休みください」

「メリッサお姉さんは寝ないの?」

「はい。私は多少眠らずとも平気です」

「むー、それだと不公平だよ」

「私はメイドですので」


 メリッサはそこは譲らなかった。

 少しの問答の後、先にロゥが折れる。


「じゃあ、明日は僕が見張るからね。交代ね」

「わかりました」


 はじめのうちは翌日も野営になった場合はメリッサがまた番をすると主張していたがロゥの説得で交代制にすることで決着がついた。


「今夜はお休みになってください」


 夜も更けってロゥが瞼をこするようになり、眠りにつくことにした。


「うん、おやすみー」


 半分目が閉じ、耳が垂れたロゥは体を横にするとすぐに寝息を立ててしまう。


「おやすみなさい」


 アネモネも彼の隣に寄り添うように横になり、メリッサに夜のあいさつをして眠りについた。

 メリッサは天使の様に可愛い寝顔を見つめながら、夜を過ごした。

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