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最果ての森のハーフコボルト  作者: よよまる
狂戦士のヴァルサガ
21/79

4-1.これからのことを話しましょう

「「魔術が使えない?」」


 ロゥとアネモネの言葉が重なった。

 その2人の体面に座るメリッサは無表情のまま頷いた。


「はい。おそらく、私の中に組み込まれていた回路が壊れてしまったのでしょう」


 彼女の説明に魔術の知識がない2人は首を傾げることになったが、アネモネだけはどうにかニュアンスを汲み取れた。


「えーっと、つまり魔術を使う才能がなくなったってことでしょうか?」

「大まかには合っています。

 私は博士の実験を受けたことで魔術を使用できるようになりました。

 本来、魔術は内容を理解した上で訓練を重ねて習得するものですが、私はその工程を省略しています。

 先日、限界まで魔力を放出したことにより実験で得た能力が失われたと思います」


 その言葉にロゥは申し訳なさそうに耳を垂れる。


「ごめんなさい」


 メリッサから魔力を奪い取ったのはロゥだった。

 彼女を助けるためとは言え、彼女が魔術を使用できなくなったことに罪悪感を覚えてしまった。

 しかし、メリッサは薄っすらと笑顔を向ける。


「どうか謝らないでください。ロゥ様のおかげで私は命を救われました」


 励ましの言葉を受けてもロゥの表情は浮かない。メリッサは立ち上がり、彼の元へと歩み寄る。

 耳が垂れて元気を失っている彼の頭を抱きしめ、自分の心臓に耳を当てさせた。


「ああ!」


 アネモネがその光景を目にし、思わず声を漏らした。

 ロゥは驚いてメリッサになされるがままになっている。


「聞こえますか。私の音が」

「……うん」

「ロゥ様が救ってくださったおかげで私はまだ生きています。どうかお礼を言わせてください」


 母の様に頭を撫で、抱擁する。

 彼女の温もりと心臓の音に包まれ、ロゥはどこか安心する。


「ありがとうございます」

「うん。どういたしまして」


 笑顔になりロゥはメリッサを抱きしめる。

 しかし、アネモネはそれを面白くなさそうに頬杖をついて眺めていた。


「あの、そろそろ話しに戻りませんか?」


 3日が経ちメリッサはようやく起き上がれた。そして、諸々の事情を聞くために3人で席に着いている。


「えーっと、今までの経緯をまとめると、メリッサさんは博士という人に拾われて、色々な実験を繰り返してきた。その一環でこの森に調査しにやってきて私たち、までは合ってますか?」

「はい、その通りです」


 アネモネはこれまでにメリッサから聞いた情報を簡潔に述べ、メリッサはその内容に齟齬がないことに頷いた。


「じゃあ、ロゥくんと私の命を狙った理由を教えてください」

「はい。より強大な魔力を持つ人間を確保するのが目的でした。お二人は並外れた魔力を持っていましたので確保の対象になりました」

「なんで殺す必要があったのですか?」

「まだ死んで間もなければ魔力は体内に残留しますので」


 アネモネはその言葉にため息を漏らす。


「殺して死体を持って帰った方が協力して貰うより簡単ってことですか」

「そういうことになります」


 一連の話を一歩遅れて理解するロゥはアネモネより反応が鈍かった。頭の中で考えを巡らせていると一つ気になることが出た。


「最近、森で冒険者や傭兵が行方不明になってるのってメリッサお姉さんたちの仕業だったの?」

「はい」

「うわぁ、手広くやっていたんですね」


 肯定するメリッサを見て、アネモネは目をパチクリさせた。


「魔物を使い森に入ってきた腕の立ちそうな方々を襲わせていました」

「魔物っていうこと聞くんですか?」

「術式を魔物に組み込みことでその魔物が死亡した時に体内に残留した魔力を使い強制的に使役することが可能です」

「禄でもない魔術ですね」


 アネモネは頬に手を当て、呆れかえる。

 メリッサは俯きながらも言葉を進めていく。


「博士は魔術の汎用化を目指していました。どんな人でも魔術を気軽に使用できるようにする、そうすれば世の中を変えられる、と言ってました。

 私が魔術を使えたのも博士の研究の成果によるものです」

「それってすごいことじゃないの?」

「はい。おそらく今の魔術研究で実用化にこぎつけた人物は博士を置いてはいないでしょう。

 しかし、博士の研究は魔術の才能がある者しかうまく作用しなかったのです。何年も同じ問題を打破しようと研究しましたが進展がなく、徐々に博士はおかしくなっていきました」

「それで最終的に人攫いですか」


 メリッサは頷いた。言い逃れできない悪事を働いたことを肯定する。


「私にできる償いはなんでも致します。このまま騎士団へ引き渡して頂いても構いません」

「え、なんで?」


 ロゥが首を傾げた。


「この森は国のものじゃないでしょ?」


 その言葉にアネモネとメリッサは驚く。

 帝国が発行している地図上では森は大陸の南端に位置している。地図には線が引かれ国境、領地名、運河、山脈などを表記しているが、この森に関しては地図上では端に書かれている。

 そして地図には国有地として枠線の中に含まれていなかった。


「国の外で起きたことは騎士団じゃ介入できないってロザリアお姉さんが前に言ってたよ」

「……でしたら私はどのように償いをすればよいのでしょう」


 困惑するメリッサにロゥは腕を組んで眉間に皴を寄せ思考する。


「んーと、わかんない」


 目一杯考えた結果、彼にその答えを導き出すことはできなかった。


「わ、わからない……ですか」


 メリッサはロゥのペースに陥り、先ほどまでの冷静さがかけ始めた。


「メリッサお姉さんは自分にできる償いを考えればいいと思うよ」

「私にできる償い、ですか」

「うん、僕も手伝うからさ」


 手が差し出された。

 メリッサは小さな手を見つめ、そして握った。


「わかりました。私にできることはなんでもやります」


 アネモネは二人の横で再び面白くなさそうな顔をする。


「そういえば、あのお爺さんまた来るって言ってたよ」

「目下の問題はそれですね。しばらく先だとは思いますが」

「なんでそう言い切れるんですか?」

「今回で手駒がだいぶ減ってしまいましたから。

 魔物を使役する術式のストックはなくなり、使用人の中で戦闘向きの能力だった私も抜けましたので。

 もう一人のメイドが逃げ延びていれば厄介ですけど」

「ああ、お連れの方なら私が倒しました」

「……はい?」


 事もなさげにアネモネが手を挙げて報告し、メリッサは彼女の発言に言葉をなくす。


「ちょうど通りかかったので足元から魔法でボンっと」

「アネモネ、攻撃魔法もできるの?」


 ロゥは目を輝かせた。


「うん、少しね」

「私の体を治癒したので回復魔法が得意なのかと思っておりましたが」

「私の魔術は生き物に対して効果があるみたいなんです。回復もできますし、同時に肉体を傷つけることもできる能力です。石ころには効かなかったので物を壊したりはできないから大したものではないでしょうけど」


 アネモネの説明にメリッサは何度目になるかわからない驚きをする。


「(それはすごいことでは……)」


 回復魔術の習得者は少なく、その応用で人体へダメージを与えられる能力者は一体この世界で何人いるか、彼女には想像することもできなかった。加えて大人顔負けの魔力量を持っている。


「(……かなり稀有なレアスキル。博士が知ったらますます危険ですね)」


 話を戻し3人は今後について話合い、そこでアネモネは一つの提案をする。


「それで今後の対策なんですけど、騎士団に依頼するのはどうでしょう?」

「騎士団? ロザリアお姉さんたちってこと?」

「そうそう。だって今ここら辺の調査しているなら、危険な人がいるって情報提供すれば警備してくれると思うの。メリッサさんはそこから逃げ出してきたていにして」

「おお! アネモネずる賢い!」

「ずる、は余計かな……」


 かくして3人は騎士団に一部事情を話し、協力を仰ぐことにした。

 しかし、一つの問題が発覚する。それはメリッサの質問によって露わになった。


「騎士の皆さんはどこにいらっしゃるのですか?」

「……え?」


 メリッサの問いにロゥは間の抜けた声を出す。


「…………知らないんですね」

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