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最果ての森のハーフコボルト  作者: よよまる
侍女のメリッサ
20/79

3-幕間.出かける前の一幕

短いので前倒しで月曜日に投稿しました。

ちゃんと今週の土曜日にも投稿します。

 メリッサはスラムに生を受けた。

 家族の顔はもう思い出せない。

 母と弟の3人で幼少期を過ごす。

 戦争が終結し、疲弊した国。戦争中盤から戦後数年はスラムの人口は爆発的に増えた。

 戦時中は物資の不足、戦後はそれに加えて失業者の増加、などなど国が抱える問題の多くがスラムに影響を与えた。

 激動の中でメリッサは家族を失った。火事により密集していたスラム民は煙と炎に瞬く間に包まれ多くの死者が出ることになる。

 メリッサは一人難を逃れ、母と弟は木炭のような姿で見つかった。

 幼い少女が家族を失い生きるすべも同時に無くすことになった。彼女が取れる選択肢は野垂れ死ぬか、物乞いになるか、奴隷になるかしかない。

 しかし、女性とは言えまだ幼かった彼女は当時のスラムでは価値がなかった。

 労働力としては期待できない。スラムで彼女ほどの年齢が身を売るのは珍しいことでもないが、むしろ違法な店が飽和しているほどだったために価値が低かった。

 絶望し、途方に暮れていると一人の身なりの良い老人が現れた。


「一人か?」

「…………」


 彼女は頷いた。

 高貴な人間がスラム街の住人を見受けすることはままあった。しかし、それは贔屓にしている娼館や飛びぬけて容姿の恵まれている人間に限った話だ。

 不衛生な環境で育った子供を引き取っても病気や素行の悪さを考えるとさほどメリットはない。それならば奴隷を購入した方が安全で安価であるのだ。


「食事を与えよう。住居も提供する。衣服の面倒も見る。その代り、私の研究に付き合ってもらう。どうだ、来るかね?」


 老人の提案は幼いメリッサに選択の余地はなかった。

 立ち上がり老人の方へ顔を向ける。


「いく」

「ならばこっちだ」


 杖を突きながら老人はスラムを横切り、メリッサは後を追いかけた。

 同じような身寄りのない少年少女が集まる老人の屋敷で彼女はメイドとなり、研究にも協力した。

 メリッサには才能があった。他の少年少女よりも魔術に秀でていた。皮肉にもそれは彼女からすべてを奪った炎を司る力、火の魔術だった。

 老人の研究により彼女の才能は飛躍的に向上した。普段なら何年もの修練と研究を必要とする段階へ若年で到達することができた。そして、同時に彼女は感情を失った。

 淡々とした言動、変わらぬ表情、忠実な行動。人形の様に成り果てたメイドは老人に忠実に従う。

 メリッサと同じように感情の壊れたメイドがいた。彼女は嗜虐的な感情が増幅し、人の苦痛を何よりも好む趣向になった。

 正反対の2人は数少ない実験での生き残り同士、日々の仕事をともにしていた。


「魔力、魔力だ。いくら使おうと枯渇しない膨大な魔力!」


 メリッサがメイドとして屋敷を任されるころ、老いに迫られた老人は焦燥感に苛まれていた。

 病的なまでに研究に没頭し、わずかにあった人間味は消滅した。ねずみ、鳥、犬、魔物、人間、何度も何度も生命を弄び、消費していった。


「そうだ、森だ。国の端にある森。あそこにいる魔物なら他の生物にはない強力な魔力を持った個体がいるに違いない」


 しかし、いくら実験しようも彼の目標へは届かず、リアリストだった彼は現実味のない、夢のようなものを欲しがるようになった。


「メリッサ、メイプル、お前たちは森へ行き実験対象を探せ」

「はい」

「仰せのままに」


 老人の言葉に彼女たちは従う。それ以外の選択肢がないからだ。


「うれしいわ、メリッサ。あなたと二人でお出かけなんて初めてじゃないかしら?」


 同僚のメイド、メイプルが嬉しそうに口角を上げた。


「町へ買い出しに二人で行ったことはあるけれど、あれはちょっと趣が違うものねえ」


 同室で寝泊まりをしている二人は出発の準備をしている。

 口数の少ないメリッサとおしゃべりが大好きなメイプル。メイプルは黙々と作業しているメリッサへ一方的に話しかけるのがいつもの光景だった。


「どんな楽しいことが待っているのかしら、うふふふ」


 そして彼女らは森に向かい、小さな獣人の少年と人間の少女に出会う。

 彼らとの出会いは果たして二人のメイドにとって幸せなのか、不幸せなのか、この時点ではわからない。

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