第8話 決死の決戦 part2
「『うおおおっーー!!!!』」
タイミングは完璧だ
氷雨は渾身の一撃を放った直後で体勢が崩れている
このまま刀をスイングすれば絶対当たるっ!
しかし、俺の見立てはあまかった。
氷雨の戦闘力は俺の予想を遥かに凌駕していたのだった
氷雨の懐に飛び込み、斬撃のモーションに入ったところで何か細長い異物が視界の片隅に映った
と、その瞬間、ありえない斬り上げが飛んできた
刀はさっきの一撃で体の外側に振り切っているはずだっただが‥‥
ーくっ、でも先に当てれば俺たちの勝ちだぁぁっーー!!
俺は無我夢中で刀を振り切った
だが、氷雨はこれをしなやかに上体を反らして紙一重でかわしつつ、さらに斬り上げの速度を加速させてきた
『くっっ!!‥‥間に合ってっ!!』
「うぐっっ!!!」
美晴の超回避でも間に合わなかった
カラダの右側から全身に痛みが広がり、それからズキン、ズキンと脈打つ痛みに変わった
『おっ‥‥、おにいちゃんっ!!』
ーいや、大丈夫だっ!ただの掠り傷だ。‥‥‥‥っっ!?
胸から肩にかけて軽く斬られてしまったかと、その瞬間は思ったのだが流れ出る血の多さがけっして傷が浅いわけではないことを物語っていた。
『本当に大丈夫?』
ーああ、大丈夫だ。心配するな!
まるで自分に言い聞かせるようにそう念じた。
なぜ、大振りで外側に振り切ったはずの刀が急な斬り上げに変化できたのか
答えは簡単だった
対峙する少女の両の手には刀が握られている
ありえない斬り上げの正体は"コレ"だったらしい
「ぐっ、‥‥くそっ、二刀流だったのかよ」
「いえ、悔しがることはありません。常人はこれを初見でかわすことはできませんから。」
少女は冷静になんでもないというように言った
ーちくしょう、やられた。もう一本忍ばせてやがった‥‥‥‥。
あの高速回転斬りはこちらを誘き出すための罠だったのだ
氷雨は分かっていたのだろう
こちらが大振りの隙を狙っているのを
だから氷雨はわざとあの一撃を放った
こちらが誘い込んでいたつもりが逆に誘い込まれていたらしい。
結局のところ少女の手のひらで踊らされているに過ぎなかったのだ
俺は歴戦の猛者の底知れない引き出しの多さに恐れを感じていた
勝てる気がまるでしない
敗北するビジョンしか浮かばない
『にいちゃんっ、ここは一旦引こうっ!!』
ああ、それが妥当な判断だろう
このままではやられるのは目に見えている
戦略的撤退だ
俺は妹お手製の秘密兵器である残り最後の煙幕を躊躇なく叩きつけた
今度こそ無事にというのはおかしいかもしれないが、上手く爆発した
視界を遮る大量の煙と火花が辺りを包み込む
ーよし、うまくいった。さっさと逃げるぞっ!!
すると突如どこからか突風が吹いた
『えっ、‥‥なに、これ‥‥』
突風によって流された煙が渦となり竜巻となった
視界がみるみる、クリアになっていく
一瞬、巨大な扇風機でも回したのかと思ったが、こんな短時間でそんな芸当がいくらなんでも出来るはずがない
だとしたらなんだ?
答えは簡単だ。ヤツしか居ないだろう。
あの齢15くらいの少女が自力でぶっ飛ばしただけだ
ーもうここまで化け物じみていると笑うしかないな
「ハッハッハツ~」
『笑っている場合じゃないよ、どうすんのよお!!』
笑いには脳を活性化する効果でもあるのか、
はたまた生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされたことによって、本能が呼び覚まされたのかどうかはわからないが、
この状況を打開するかもしれないアイデアが閃いた
「大丈夫だ。俺に考えがある」
「えっ、なに?」
「解析と読心術を融合させる」
『えっ?どうゆうこと』
「とりあえず、説明は後だっ!隠れるぞっ!!」
「もう、本当にそれ大丈夫なの?」
疲弊しきった身体に鞭を打って素早く物陰に隠れた
この時惣之助はつぎの攻防でなんとなく最後だろうなと悟った