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第3話 事件発生

 どたどたどた、ダァン!!!


 藤森錬太郎ことレンタが店から大急ぎで出てきて、俺の目の前のテーブルに両の手を叩きつけた。


 「おい、なんなんだあの女の子はっ!!」


 さっきの黒髪の少女のことを言っているのだろう。レンタは普段ただのエロ男だが、彼女の異様さに店の中からでも気づいたらしい。勘はなかなかのものらしい。


 「すごい子だったな。」

 「すごい?まぁ、でもそんなかんじだったかもな?」

 「あぁまったく」


 レンタは次の言葉を発するために【ため】を作って吐き出す。


 「完ぺキなる黒髪美少女じゃないか。」

 「は、はあ?」

 「だーかーらぁー、あの子はおれっちが採点したかんじだと100点満点中100点の滅多にお目にかかれない逸材なんだって!!」


 ーあ~、やはりいつものエロ森錬太郎だったらしい。


 「またそんなこと言って、オマエさっき、美晴にノックアウトされたばかりだろうが!!」

 「そりゃ~お前さん、それはそれ、これはこれだろうが!!」


 なんていう見上げた根性だ。この男は女の子のこととなると何度でも立ち上がれるらしい。


 「レンタは昔から変わらねえな。確か中学の時、好きな子に告ってフラれて落ち込んでいたのに、小一時間後にはとなりのクラスの女子のパンチラ見えたって大喜びしてたもんな。」

 「当たり前だろ。おれっちはエロのために生き、エロのために死ぬ。」


 親指を立て、レンタは高らかに宣言する。

 

 ーやれやれ、なんてヤツだ。呆れてものもいえない。


 そうこうしているうちに夕闇が迫ってきていた。あたりの街灯にはやわらかな明かりが灯り、静かに一日の終わりを告げようとしている。


  ーおっ?、そろそろ時間だな。


 「いつものやつ頼む。」

 「おう、了解。」


 仕事終わりにはいつも決まって頼むものがある。

 レンタは豆を挽き、挽立ての粉をエスプレッソマシンに投入し、タンピングした後、20~30秒かけ抽出し、エキプレッソを作った。


 ーう~ん。リラックスさせてくれるいい香りだ。だがまだこっからだ。


 レンタは同時平行で作っておいたフォームドミルクを先にカップにいれておいたエキプレッソの底にくぐらせるように高い位置から手早く注ぐ。そしてそこからミルクの落下点をギザギザと左右に蛇行させ、リーフと呼ばれる模様を描いた。そこは流石というほかない。

 

 「ほらよ、お待ちかねのヤツだぜ。」

 「ありがとうよ。」

 俺はそれを受け取り、砂糖をドバドバといれ、あまーくしてから飲む。はあーうまい。

 俺の様をみてレンタは眉をひそめる。

 「不粋なヤツだな。まったく。」

 「そういうな。レンタの淹れたコーヒー牛乳が一番旨いと思っているんだからよ。」

 「コーヒー牛乳じゃなくカフェラテと言え。」

 「ところで、カプチーノとカフェラテとカフェオレってどうちがうんだ?」

 「意味はどちらもコーヒー牛乳だ。カプチーノとカフェラテはイタリア発祥のエキプレッソコーヒーで違いは簡単にいうとミルクの泡がフワッとしたほうがカプチーノだ。そして、カフェオレがフランス発祥のドリップコーヒーだ。」

 「じゃあ、やっぱりコーヒー牛乳でいいんじゃねえか。」

 「そうゆう問題じゃねんだって。コーヒーのたった一杯にも歴史とか文化があるんだって。」

 「以外だな。見直したぞ。」


 藤森珈琲店のマスターとしての藤森錬太郎はいつもより賢く大人びて見えた。もう余計なことを喋らず、コーヒー屋のマスターに徹していればモテるのではないかとアドバイスしようかと思ったが、すぐに無理だなと感じ、いわないことにした。


 ーあっ、そういえば‥‥。


 ふっと急に妹のことを思い出してしまい、どうしたものかと、頭を悩ませることとなった。



        ー高倉惣之助宅にてー


 「ただいまー。」


 返事はない。恐らくまだ怒っているのだろう。だが、なにも無策なわけではない。俺には帰宅途中のケーキ屋ミウラで購入した、特製ミニシューマカロンスペシャルセットがある。

 これは6種類のクリーム【生クリーム、カスタード、チョコ、イチゴ、抹茶、ブルーベリー】をマカロンに見立てた直径約5~6㎝ほどのシュー生地でサンドしたものである。それをそれぞれ2個づつ計12個を可愛らしいリボンなどで装飾された箱に詰めたというお菓子であるとともに、女子のちょっとづつ色々なものを食べたいという願望を叶えた夢のスイーツだ。

 

 ーこれで我が妹もイチコロのはずだ。


 リビングにはいり、台所を覗くと晩御飯を調理する美晴がいた。お仕置きで「ご飯抜きよ♪」という事態にならなかったことに少なからず安堵したが、依然として後ろ姿からでも判るくらい刺々しいオーラが滲み出ていため、気を緩めることはできない。

 話しかけるのが躊躇われるが、勇気を振り絞る。


 「美晴様。今日はすいませんでした。こんなもので許されると思いませんが、ミウラでミニシューマカロンスペシャルセットを買ってきました。あとでいいので一緒に食べませんかねぇ?」

 「えっ!!」

 

 美晴は一瞬嬉しそうな声をあげ、こちらに顔を向けたものの、すぐに背を向ける。


 「兄ちゃん、ワタシを物で釣ろうなんて、考えが浅はかナンだよ。‥‥まぁ、せっかくだから貰うけど‥‥。」


 口ではそう言いつつもだいぶ雰囲気が柔らかくなったのがわかる。単純なヤツだ。


 「それよりもお兄ちゃん。」


 空気がピリッと一気に張りつめた。

「エロ森と一緒になって昼間の街中であんな猥談するなんて‥‥、兄ちゃんは違うと思っていたけど、結局のところ類友(るいとも)だったんだね。」


 あれ?全然柔らかくなっていなかった。しかもなにかとてつもない誤解をしている。


 「ちょっと待つんだ我が妹よ。お前はとてつもない誤解をしている。」

 「ゴカイ?そんなものしてないわ。とにかく制服大好きなにいちゃんが毎日制服姿のワタシをいやらしい目でみていたってことでしょ!!」

 「それ自体が誤解なんだって!!誰が実の妹をそんな目でみるかぁ!!」

 「だって、スカートから出ているムチムチの太ももが~とかブレザーが~とか言っていたじゃない!!」

 「それはレンタが、言ったんだ!!」

 「えっ~?でも黒髪制服女子のお客さんにデレデレしてたじゃん。」

 「そ、そんなもんしてない。」

 「じゃあ、長髪の黒髪フェチ?」

 「なぜそうなる。」

 「だって、その子がお辞儀して髪をなびかせた時、兄ちゃん鼻ヒクヒクさせてたよ。」


 ーうっ、それはなにも弁解できない。


 「そ、それはだな‥‥。」


 必死に弁明を考えているうちに気づいたことがある。


 「あれ?、そういえばなんで美晴が知っているんだ?確か、怒った後すぐに帰ったはずじゃあ?」

 「たまたま振り返ったらデレデレした兄ちゃんがいたから見ていただけだって。そんなことよりほら、さっさと着替えて。ご飯だよ。」

 「あー、そうかい。わかったよ。」


 ふう、やっと解放された。あんっのエロ森め!!お前のせいで大変な目にあったぞ!!覚えてろよ、まったく。


 その後、着替えて、ご飯を食べ、風呂に入り、布団に入るまでの間ずっと妹は兄に疑惑の目を向けていた。当然会話もぎこちないものとなった。

 惣之助は布団の中で兄妹の信頼関係の修復にはしばらく掛かりそうだなと思い悩みながら、眠りに落ちた。



      ー次の日の早朝、藤森珈琲店にてー

 

 「はっ、はっくしょぉーーんーー!!うえい。朝は冷えるなぁ~。」


 藤森錬太郎は珈琲店の黒いワックスのかかった床を丁寧にモップ掛けしていた。彼は朝早くから店の掃除をするのが日課となっている。これは父の藤森健三の教えで旨いコーヒーを淹れるにはまずはキレイなお店からというものである。


 ーよしっ、終わった。さて、あと外のテラスの準備とコーヒー豆の準備だな。

 

 準備を始めようとする錬太郎の前に何処から現れたのか少女が立っていた。


 「おはようございます。占い師さんはいないようですね。」


 突然の黒髪美少女の登場に錬太郎は朝から気分が最高潮となる。


 「いませんっ!、いませんっ!、全くいません!!」

 「朝早いから、お邪魔でしたか?」

 「そんなことございません。美人さんなら朝早くから晩まで大歓迎会ですよぉ~!!」

 「それはうれしい限りです。」


 鼻の下が伸びっぱなしの錬太郎は彼女が仕掛けた突然の攻撃に反応できなかった。 

 

 ドスッと強烈なみずおちへの一撃が錬太郎を襲う。

 

 ーぐっ、くそ、息ができない‥‥


 気絶した錬太郎を見下ろしながら、大宮氷雨は運び出す準備を手早く開始した。


         ー高倉惣之助視点ー

 朝起きたら妹の機嫌が良くなっているかもと、淡い期待を抱いたものの、結局悪いままだった。色々機嫌取りしてみたが最終的に「うざい」と一蹴されてしまった。

 はぁ、昨日のことが反抗期に突入させるきっかけとなってしまったのだろうかと深く落胆した。だがもとはといえばレンタのせいではないかという想いが沸々と沸いてきて、文句のひとつでも言ってやろうと、珈琲店の木の扉を勢いよく開ける。


 「おい、お前のせいで俺は‥‥ん?」


 ーあれ?レンタがいない。店の奥にでも入っているのか?


 店の中も外も隈無く探した。店の奥、テラス席、二階の物置、トイレも確認した。だが、みつからなかった。


 ーしゃあない、ケータイに電話してみるか。


 プププッ、プププッ、プルプルプル、プルプルプル、ガチャ。


 「もしもし、どちら様でしょうか?」


 電話口から若い女の声が聴こえてきた。どこかで聴いたような声だったような気がするが、今はそれどころではない。


 「おまえこそ、どちら様だ。」

 「その声は占い師さんですね。昨日はありがとうございました。」


 ー昨日?‥‥っ!!思い出した!!黒髪美少女か!!!


 気づいたと同時になにか良からぬものを感じ、強めの尋問口調で少女を問いただす。


 「たしか、氷雨とかいったな。なんで、錬太郎のケータイにアンタがでるんだ?」

 「昨日とはまるで性格が別人ですね。」

 「昨日、氷雨サンは客だったからな。だが今日は違うし、それに俺が思うにアンタは錬太郎になにかしただろう。何をした。」

 「この方錬太郎さんというんですね。この私が錬太郎さんを誘拐させて頂きました。」

 「このということは今、一緒に居るんだな?何処にいる?なんのために錬太郎を誘拐した?」

 「すいません。お答え出来ません。」

 「おい、どうy「その前にまずはご自分で探されてはいかがでしょうか?今度はこちらから連絡させて頂きますので。ではのちほど。」

 「おい、コラ!まて!!‥‥、チッ、きれちまったか。」


 無駄だとは思ったが念のためもう一度電話を掛けたが電源を切られているようだった。

 犯人はなんのため、レンタを誘拐したのだろうか?

 電話口で得た情報は、黒髪美少女の大宮氷雨が深く関わっていること、レンタをよく知らないのに誘拐したということ、近くにレンタが居る可能性があること、今度は向こうから連絡が来るということそれぐらいか。

 俺は数少ない情報から友人救出という難問に取り掛かることにした。

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