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第2話 事件の始まりと誤解

         堺港町


 海上運輸や蒸気鉄道が全盛の時代に名の知れた工業地帯であり、辺り一面工場や倉庫が広がっていた港町である。

 ところが、時代の流れと共に会社は倒産、もしくはより利便性の高い地域へ撤退していき、建造物だけが取り残された。

 当時の町の人々はこの建造物をなんとか活用できないかと考え、改修工事を行い、商業施設に作り変えた。

 すると、そのレンガ造りの建物や石畳の道路や橋がモダンでどこか西洋をおもわせるエキゾチックな雰囲気が観光客に人気となり、たちまち有名な観光地となった。


  「にいちゃんが朝イチでシャワーなんて珍しい、どうしたの?」


 テーブルに朝食を並べながら妹こと高倉美晴(たかくらみはる)が聞いてきた。


 「まあ、ちょっと昔の夢をみてなぁ‥‥。」

 「どんな夢?」

 

 少し躊躇ったが、話せば気が紛れるかもしれないと思い言った。


 「父さんと母さんの夢。」


 一瞬、美晴は思案した顔をみせたがすぐにイタズラを思いついた子供のような顔をして


 「今日からワタシが一緒に寝てあげようか?イヤな夢をみても手を握ったり、頭ナデナデして慰めてアゲルヨ?」

 「!?っ大丈夫だってそんなことしなくたって、ほらご飯がさめるだろ、いただきます。」

 

 椅子に座り、俺が朝食を促すと、美晴は意味ありげな微笑みを浮かべながらも「ハイ、ハイ、いただきます。」といいながら食べ始めた。

 ん?今気づいてしまった。この会話はこいつなりの気遣いだということに。少しでもこの兄の気を紛らわすために‥‥。

 はあ仕方ない、こっぱずかしいが、礼を言うことにした。


 「まあ、なんだ、その‥‥ありがとうな。」

 「なにが?」

 「いや、なんでもない。」


   ー恥ずかしい!!!!

 

 身近な人に感謝する行為ほどはずかしいものはない。少なくとも俺はそう思う。

 そんな兄の想いを知ってか知らずか、美晴は意地の悪い顔をしながら

 「どうしたの?オニイチャン?」

 「うるせぇー!!食べ終わったならさっさと支度しろ!!学校遅れるぞ!!!」 

 「へぇい、へぇい。」


 妹はこれ以上はまずいと判断したのかそそくさと退散した。

 我が家での後片付けと掃除担当の俺は食後の食器を手早く洗い、片付ける。妹の登校の見送りをし、仕事の支度を開始する。

 白のワイシャツにネクタイを締め、黒のジャケットを着て、ベージュのトレンチコートを羽織る。ポケットには大きな虫眼鏡とメモ帳を忍ばせる。最後に、黒の洒落たハンチング帽を被る。これがいつものスタイルだ。



 「さあて、いくとするか。」 


 黒の革靴を履いた後、爪先をトントンと玄関の地面で軽く叩いてから高倉惣之助(たかくらそうすけ)こと占い師 ソウスケはいつもの職場に向かった。

堺港町の駅近くの裏通りの一角に藤森珈琲店はある。

 この店は赤いレンガ造りにシダ植物を這わせた歴史を感じさせる建物だ。

 店にはテラス席があり、その場所で高倉惣之助(たかくらそうのすけ)こと占い師ソウスケはランチ終わりの常連マダム二人の占いもといい愚痴を聞いていた。


 「ねぇ、きいてソウちゃん。うちの旦那ったら最近歯軋りがひどくてね、眠れないのよぉ。」

 「あー、それは本当に大変ですね。」


 占い全く関係ないなと思いながらもお客様だと割りきり、応対する。


 「まぁ、金沢の奥様。うちもなんですよぉ、もう、毎日うるさくて、うるさくて、眠れやしない。だからって本人に言っても、寝ててわからないもんだからから、おれは歯軋りなんてしてない。知らんっていうんですよねぇ。」


 ーあれ?もうこれ、俺会話にいらなくない?そこらへんの喫茶店でよくない?‥‥あ、ここ喫茶店みたいなもんだった。


 「もう大変ですわよね。主人は朝会社行って帰ったら仕事終わりですけれども、主婦はそっから旦那の介護ですものねえ。」

 「まあ、介護ですって、お~ほほほ~♪」

 「もう、本当にお~ほほほ~♪」

 「お客様、お時間はまだよろしいですか?」

 堺港町の駅近くの裏通りの一角に藤森珈琲店はある。

 この店は赤いレンガ造りにシダ植物を這わせた歴史を感じさせる建物だ。

 店にはテラス席があり、その場所で高倉惣之助(たかくらそうのすけ)こと占い師ソウスケはランチ終わりの常連マダム二人の占いもといい愚痴を聞いていた。


 「ねぇ、きいてソウちゃん。うちの旦那ったら最近歯軋りがひどくてね、眠れないのよぉ。」

 「あー、それは本当に大変ですね。」


 占い全く関係ないなと思いながらもお客様だと割りきり、応対する。


 「まぁ、金沢の奥様。うちもなんですよぉ、もう、毎日うるさくて、うるさくて、眠れやしない。だからって本人に言っても、寝ててわからないもんだからから、おれは歯軋りなんてしてない。知らんっていうんですよねぇ。」


 ーあれ?もうこれ、俺会話にいらなくない?そこらへんの喫茶店でよくない?‥‥あ、ここ喫茶店みたいなもんだった。


 「もう大変ですわよね。主人は朝会社行って帰ったら仕事終わりですけれども、主婦はそっから旦那の介護ですものねえ。」

 「まあ、介護ですって、お~ほほほ~♪」

 「もう、本当にお~ほほほ~♪」

 「お客様、お時間はまだよろしいですか?」


 常連のマダムたちはいつも午後2時頃にこの店を出るため、惣之助は町のシンプルな黒の時計塔を指差し確認した。


 「あらやだ、もうこんな時間。どうもありがとうございました。」

 「ソウちゃんまたよろしくお願いね♪」

 「ありがとうございます。またお越しください。」


 マダムたちは占いの支払いを終え、それぞれが頼んだコーヒーなどの支払いのため、店の中へ入っていった。


 ーふぅ、終わった。マダムたちのパワーはんぱねぇ~!!


 マダムたちに圧倒された俺は次の客に備えるため、体を伸ばしてリラックスさせていた。すると目の前に短めの金髪に見た目チャラついたニイチャンという感じの男が白い椅子に腰掛けた。

 

 「よぉ、調子はどうよ。」

 「まあまあだな。」


 この男は藤森錬太郎(ふじもりれんたろう)。俺はレンタと呼んでいる。

 レンタはこのコーヒー店のマスター代理だ。本当のマスターはこいつの父の藤森健三(ふじもりけんぞう)なのだが、彼はすばらしいコーヒー豆を求め、海外に行っているらしい。

 なぜこの店の場所をかりて俺が占いをしているかというと、簡単にいうと場所がないからだ。

 そのため俺が健三さんに頼み込み場所を提供してもらった。その代わり占い客にここのコーヒーを勧めて売り上げに貢献する。まさに、WIN-WIN の関係だ。


 「いいよな~。手相なんて見なくたって触ったら分かっちまうんだから。」

 「まぁ、話しきくのは大変だけどもな。」

 

 レンタは俺の心の声が聞こえるという能力の数少ない理解者であり唯一の友人である。こいつがいなきゃ俺は今ごろどうなっていたかわからない。


 「いいよな~。女の子の手触り放題じゃん。」


 あ、忘れてた。こいつの頭の中はエロいことしか詰まっていないことを‥‥。


 「しかもJKの手にも合法的に触り放題じゃん。むしろ向こうから差し出してくるんだろ?」


 レンタは見えない女子高生の手をこねくり回すような仕草をしている。

 

 ーはぁ、さっき心の中でした盛大な感謝を返してもらいたい。


 「あ~あ。おれっちも占いの勉強すれば良かったなぁ~。」

 

 レンタはテーブルに頬杖をつき、大袈裟にため息をつく。


 「やめとけ。夕方の情報番組に顔写真公開されるぞ。」

 「おい。それはどういう意味じゃ~!!」


 その後も客が来ないため、‥‥いやゲスい話をしているため来ないのかもしれないが、話題は女子高生の制服についてになった。


 「ソウちゃんは制服についてどう思う?」

 「どうといわれてもなぁ。可愛いんじゃない?」

 「おいおい、ソウちゃんはなにも分かっていないようだな。」 


 レンタはスッと立ち上がり、高らかに宣言する。


 「女子高生の制服は良い。スカートというヒラヒラした危うい衣から出ているムチムチの太もも。さらにその良さを引き出してくれる二ーソ。そして、そして、忘れてはならない制服を制服としてたらしめているブレザー。こいつが女子の魅力を格段に引き上げる。もおー全部脱がさず‥‥」以後ゲス過ぎるため割愛。


 「おい、それ以上はやめとけ。色々アウトだ。」


 さすがにこれ以上は店の看板と俺自身にキズがつきかねないためたしなめた。


 「へぇー、そんな目でワタシをみていたんだ。」

 

 どうやら手遅れのようだった。

 妹は今まで見たことのないような冷めた眼差しで睨みつけてきた。名付けるなら、冷酷鉄仮面といったところか。


 「ど、どこから聞いていたいたの?」


 レンタが努めて明るく話しかける。


 「女子高生の制服は良いのあたりから。」

 「あ、あれー?学校は~?」

 「今日は学校が早く終わる日だったから。」


 なんとか話を逸らそうとするレンタを妹は目だけで制した。


 「この、変態!! 金輪際ワタシに近寄らないで!!」

 「あと、兄貴。後で覚悟しなさい。」

 

 妹は捨て台詞を吐いたあと、肩で風を切るように立ち去っていった。

 後に残された俺達はそれぞれの絶望に打ちひしがれていた。レンタは女の子に激しく拒絶されたことに。俺は帰宅後に待つ恐ろしいお説教に‥‥。


 「店の中へはいるわ」


 消え入りそうな声を発しながら、レンタは店の中へ消えていった。


 ー仕方ない、後で慰めてやるか。


 ふと何気なく視線を正面に戻すと目の前に制服を着た黒髪の少女が立っていた。


 「ぬおぉ~!! ビックリしたぁ。」

 

 気配もなにも感じることができなかった。突然その場にあらわれたという感じだ。


 「あっ、すいません。すこし占って欲しいのですが?」


 その少女はこくりと会釈した。するとサラッとした黒髪からフワッと良い香りが運ばれてきたため、思わず深く鼻から息を吸ってしまった。


 ーなにをやっているんだ俺は。レンタじゃあるまいし。


 少女がすこし【?】な表情を浮かべたため、慌てていつもどおりの接客を開始する。


 「お名前は?」

 「大宮(おおみや) 氷雨(ひさめ)です。」


 よく見ると、瞳はクリリとして愛らしく、目鼻立ちも整っており、黒いサラリとした艶やかな髪は肩まで伸びている。アイツに言わせれば、黒髪美少女といったところか?


 「今日はどのようなことを占いますか?」

 「仕事運を。」


 仕事運?普通の女子は恋愛運なのだが‥‥。


 「失礼ですが、なぜ?」

 「将来のことが気になりまして。」

 「はあ。」


 あまり言いたくないのだろうか?まぁ、手を触れれば分かる。


 「では、両手を出して下さい。左手は先天的なもの、右手は後天的なもの総合的に判断します。」


 少女はゆっくり両手を差し出した。スポーツでもしていたのか、少女の割には大きくしっかりとした厚みのある手をしていた。

 虫眼鏡で手を観察しながら触れた瞬間だった。


 ーな、なんなんだ、この子の手は!? まったく心が読めない!!

 心が読めないなんて初めてだった。まるで心の城塞。完全防御されている。

 動揺したもののこれではい、わかりませんでしたという俺ではない。しっかりと手相の勉強もしているため、それなりの答えを出すことは出来る。


 「うわ~、お若いのになかなか苦労されていますね。」

 「あ、はい。」

 「特にこの運命線。幼少期に事件かなにかあったと、出てますね。」

 「頭脳線は良いですね。どちらかというと現実主義という傾向があるみたいです。 感情線は少し細めですね。あまり愛情というものに興味がないという傾向があるかもしれないですね。 生命線はここに切れ目があるので、近い将来、病気かケガをするかもしれないので気をつけて下さい。 さらに運命線、太陽線その他諸々含め、総合的に判断すると‥‥。」

 

 頭の中でパズルのように組み合わせ、答えを出す。


 「残念ながら、近い将来のお仕事は失敗するかもしれませんね。」

 「それは生命線の病気かケガが原因ですが?」

 「いや、この場合は障害線と運命線上にある輪っかですね。近い将来、第三者に邪魔されますね。でも、それを過ぎると運気がよくなる兆しがありますね。転職なんかもいいそうです。」


 少女は表情が乏しいため、満足なのか、不満なのか、嬉しいのか、悲しいのか、全くわからなかったが、最後にお節介を妬くことにした。


 「あと、恋愛なんですが、もうすぐいいヒトが現れるそうですよ。もしかしたら、もう出会っているかも。」

 「あ、そうなんですか。ありがとうございます。」


 ー随分うっすーーーい反応だな~。


 占い料金を払ってもらい、少女が帰ろうとしたそのときに、なにかを思い出したらしく、振り返る。


 「ところで、今朝ここの駅前通りを通行した成人男性はどのくらいかわかりますか?」


 あまりに突飛な質問に答えを窮した。そんなこと気にしたこともないし、なぜそんなことを聞くのだろうか?


 ーまさか男漁り?この子が?あり得ない。


 「大体平日の通勤ラッシュで80~100人くらいじゃないかな?」

「ありがとうございます。」


 少女はペコリと頭を下げると立ち去っていった。その姿は立つ鳥後を濁さずという言葉が似合うと思った。それほどまでに彼女の動きは洗練されていた。


 ーそれにしても、不思議な女の子だったな。


 この少女が後の事件に深く関わっているとはその時はまったく思いもしなかった。

 

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