ゼノンの願(ことば)
ボウガンの矢は、ドルマが見ている前で放たれた。
身体を動かそうにも先程の紫色の目を見てから全く動くことのできないドルマは、ただボウガンの矢が此方に向かって飛んでくるのを見つめた。
今まで、数え切れない程の人を殺してきた。
まさか、最後は仲間に裏切られて死ぬなんて。
まるで出来の悪い物語に出てくる小悪党のような死に方だと、ドルマは思った。
ドシュッ!!!
と、肉に突き刺さる音がした。
だが、ボウガンの矢はドルマには届いていない。
矢を受け止めた人物は、今自分の目の前で地面に膝をつき、自分を庇うように手を広げていた。
そして、自分の後ろからはキメラの断末魔が聞こえた。
「……ゼ……ノ」
「全く……手のかかる、子だ」
目の前に膝をつくゼノンは、そのままドルマを拘束していた肉片を短剣で貫く。
ドルマは動かせるようになった身体で倒れそうになっていたゼノンを支えた。ドルマは直ぐにゼノンの背中に突き刺さったであろうボウガンを見るが、ボウガンの矢はどこにも無かった。
だが、背中にははっきりと刺さった後があり、その箇所から出血していた。ドルマは直ぐに傷口を押さえるが、段々と服に染み込んでいく血の量に背筋が凍る。
「ゼノ、ゼノッ!!今、今絶対」
「無理、だ……」
弱弱しい声で言ったゼノンは、何度も短い呼吸を繰り返す。ゼノンは木を指さすと一言、あっちに……と指示を出す。
その言葉に、ドルマはゼノンを引きずりながらも木の影へと移動した。
「ゼノ……」
「はは……本当は、もっと…かっこ良く、助ける、つもりだったんだがな……焦っちまった…………。
なんで、ドルマが……そんな顔、するんだよ?」
「俺の……せいで」
「……は、なーに、言ってんだ。これは、自業……自得ってぇ、やつだ」
「でも!!」
「でもは、なし」
「だって……」
「おい、言っただろ……?でもも、だっても……無しだっ、ッて」
その言葉は、いつもゼノンが言っていた言葉だった。
「私、は………自分のっ、仕事をッ………しただけだ……だ、からっ、お前は、そんな顔、するな……」
息も絶え絶えに、ゼノンはドルマの頭を撫でた。
いつもの様に、髪がくしゃくしゃになる程の力任せなものだったが、それも段々と力が弱まっていくのを感じた。
「ゼノ、ゼノッ!!待って!!まだ、まだいかないで!!俺、まだ一緒に居たいよ!!!」
ドルマが言うと、ゼノンは驚いた表情を見せた後、微笑んだ。
「おまえ、に……そんなこと、言われ……た、の。初めて、だ」
「ゼノ!!ゼノ、ゼノ!!!!」
ドルマはついに堪え切れなくなった涙を、ゼノンの頬に一滴落とす。
そこからは自分でも止めることが出来ず、どんどんと落ちていく涙に、ゼノンは嬉しいような困ったような顔をした。
「………なくな。……そう、だ。おまえに……言うことが、ある」
「やだ!!やだ、言わないで!!」
「……おまえに、暗殺の……道しか、教えられなくて……すまな、かった…………。
…もう、おまえは、自由だ……だか、ら……これ、からはっ、じゆうに、……っ生きろ」
「無理……無理だよ。今更、自由になんて……俺、何処にも行けないよ………」
「ちが、う………………おま、えは、じゆう、に、いき、て……いいんだ……」
段々と弱まる言葉と冷たくなる手のひらに、ドルマは必死に懇願する。
大切な人を助けてくれ、と
だが、段々と生気のなくなっていくゼノンの肌に、ドルマは如何する事も出来ずにただ手を強く握っていた。
ドルマが涙を零しながらその姿を見つめていると、ゼノンの口が微かに動いていたので耳を近づけた。
「……………」
「---!!!!」
ドルマが言葉を聞き終え顔を上げると、ゼノンは既に息絶えていた。
「…………ゼノ」
ドルマはゼノンを抱きしめ、嗚咽混じりに大声を上げた。
その悲痛な声は獣の咆哮にも似た音で、天に向かい轟いた。




