裏切り
「…………」
ドルマは、夢中で残り僅かになってしまった短剣を振るう。
次々と現れるグロテスクな物体を、切って、斬って、切り刻む。キメラから飛び散る血は紫。そして、この世のものとは思えぬ奇声をあげながら息耐えていく姿は、余りにも非現実的だ。
だが、実際に目に写るモノは、確かに殺意を持って自分に襲い掛かって来ていた。
「はっ……はっ……」
先程、魔族に身体を治して貰ったとは言え、疲労まではなくならない。息が上がり、呼吸がしづらい。足も段々とではあるが、思うように動いてくれなくなってきていた。
だが、ここで倒れるわけにはいかない。ドルマは短剣を握りしめながら、直ぐ側で闘うゼノンを見つめる。
あの人の、足手まといだけにはなりたくない。
その想いだけが、ドルマの身体を突き動かしていた。
♦♦♦♦
「ッ--!!これじゃあキリがない!!」
進行してくる異形なものを見つめながら、ゼノンは肩を上下させる。大体、暗殺者にはこういった接近戦は不利である。
だが、距離をおくにも、全方位から来る敵にじわじわと追い詰められ出来ない。自由のきかないこの状況で逃げ出さないのは、後ろに感じるドルマの存在が大きい。
昔の自分なら、仲間を置いて逃げ帰っていただろう。
(全く、私はいつからこうなっちまったのか……)
「ったく、本当に!!お前と出かけると、何かしら面倒ごとに巻き込まれるな!!」
「ゼノ……元気なら、手、動かして……」
「ははっ……お前もな!!さっさと帰って、飯食うんだから!!死ぬんじゃねーぞ!!」
ゼノンは助走をつけ、キメラの大群に突っ込んでいくと、キメラ達の足や腹、首を的確に削っていく。紫色の血を身体に纏う前に、ゼノンはキメラの中を縦横無尽に暴れ回り殺していく。
だが、ゼノンが殺した筈のキメラの一部がまた動き出す。頭と足だけのモノや、胴体に手がくっついたのか、よたよたと引き摺りながらやってくる。
よく見ると、バラバラになった身体から目玉がボコ、ボコッと出ると辺りを見回していた。
ドルマはそのキョロキョロと動く目を見て、気持ち悪いという感情よりも疑問を抱いた。ボコ、と出てきたキメラの肉片から、また違う目が出てくるのだ。
青に黄色、茶色にピンク、その他の様々な色が肉片から出てくる。
「ゼノ……こいつら、まさか」
「あぁ……多分、奴隷か何かが実験台にされたんだ。でなきゃ、こんなに……違う種の目があるわけない」
そう、瞳の色が違うのは、種族の違いしかない。人間や亜人、龍神、魔族と様々な種の生物達の結合体であること以外、考えられない。
これらが奴隷であったかどうかは分からないが、もしそうだとしたら、自分もゼノンに拾われていなければ、こうなっていたかもしれないと心の底から恐怖した。
その恐怖を断ち切るかの様に、構えていた短剣を地面を這う肉片に突き立てようとした時だった。肉片の中の、紫色の瞳と目が合った瞬間、ドルマの身体は動かなくなった。
(うそ、……なんで)
短剣を振り上げたまま動かない身体の後ろから、キメラの気配を感じ、自身に避けるよう言い聞かせるが全く動かない。
そこで目の前にいる肉片の目を潰せば治るかもしれないと思い、力を振り絞り短剣を突き立てようとするも、宙で制止する腕が微かに震えるだけだった。
「く、……そ……」
すると、左側から何か光るのがドルマの視界に写った。光って見えたそれは、光ったり消えたりを繰り返している。
ドルマは直ぐに、それがボウガンなどの矢尻が、僅かに漏れる日の光りによって反射している事に気が付いた。自分にボウガンを向ける愚か者は一体誰なのか。
そう思い、ドルマはあえて右に倒れる。そして、ボウガンを持った一人の人物が目に写った。
「……どう、して……」
そこには、右手にボウガンを持つフューエルの姿があった。




