救いの手
「アヴァニール様!!」
「え、おぉサミエル。そっちは終わったのか?」
「はい。アヴァニール様の思惑通りに」
「ん?そうか?仕事が速くて助かるぞ……」
一体サミエルが何の話をしているのかはさっぱりだが、取り敢えず労っておくのはいいだろう。
部下が優秀なのは喜ばしい事だ。サミエルの姿を横目で確認し、また少年へと視線を移した時、ミリアとラオルがいない様に見えたが、二人が令嬢を送り届けているのだろうか。
二人は後で労ってやらないとなー
「うおおぉぉぉお!!!!」
二人の事の他にも、レウとロウにも何かご褒美的な物があってもいいかもしれない。と考えながら、相手をしている少年は、目の前でめちゃくちゃな動きをしていた。
さて、どうしたもんか………
(私の任意発動能力を使って、あの子のとーっても美味しいモノ、頂戴?)
久々に口を開いた嫉妬は、早く食べたいわぁ。と言いながら、何かシューッ、と空気を抜く時の様な音がしてきた。
能力?そういえば、お前の能力はなんだ?
(忘れたの!?私の能力は『魂喰乃煉獄』!!!過去に嫉妬した記憶を食べ、その食べた分だけのダメージを与える能力よ)
そ、そうだったな……ん、食べるってことは嫉妬した記憶がなくなるって事か?それって過去を無くすって事で、相手には良いことなんじゃないか?
(それは誤解ね。私、嫉妬は食べるけど、一生消えない過去の記憶、痛みや苦しみなんかは食べないから、より苦痛となるのよ。前に、私を作った御方がそう言ってたわ……)
懐かしむ様な嫉妬の声に、俺は制作者が居る事を初めて認識した。
まぁ武器なのだから、それは制作者が居るのは当たり前だろうが、作った奴は絶対にろくでもないことを考えている人物か、ただの鬼畜か。人間ですらない可能性も考えられた。
何はともあれ、さっさと決着をつけようか
一度少年から離れると、少年と対峙する直線の形で立つ。そして、少年の頭めがけ力強く一歩を踏み出す。
人間の動体視力では見ることの出来ない速さで近づき、頭を短剣で刺す前に任意発動能力を唱えた。
「任意発動能力、『魂喰乃煉獄』」
すると、短剣が赤い焔にも似た光を放つと、少年の頭に刺さったと思ったが、短剣の刃の部分が粒子のようになり、少年の頭に吸収されていっている様だった。すると、少年に変化が起きた。
「うあああああああああああぁあぁぁあ!!!!!」
少年の絶叫は、数分続くと今度は小刻みに身体を振るわせ始めた。
おい!!嫉妬!!この子は今どうなってる!!!
(あら、見たい?良いわよ。貴方にも見せてあげる!!)
♦♦♦♦
『……お父さん』
『……』
『……お母さん』
『……』
あの日、両親を殺した。
『……』
自分の兄弟かもしれない、子供を殺した。
『………』
憎んだ両親と、家族はもういない。
その変わりに手に入れたのは、血にまみれた両手と焦燥感だけだった。
『……違う、違う。望んだのは……欲しかったのは』
血にまみれた両手で目を覆った。
血で滑る手を何度も何度も上にあげていると、誰かに手を捕まれた。目を向けると、そこには母が口から血を流しながら立っていた。
『貴方を』
『……や、やめ』
腕を振りほどこうと必死に引っ張ってみたり、もう一方の手で引き剥がそうとしたが、手の震えと血で滑って上手くいかない。
『あな、たを』
『ぁ……ぁ』
『あい、して……いる、わ』
恐怖から声も出なくなり目も瞑っていたが、その一言に驚き目を開くと、そこには優しく微笑む母が居た。
母は、手を離すとそのまま頭をなで始めた。
その母の姿は、昔幼き日に見た母そのものだった。
『お母さん……』
『……ドルマ。ごめんなさい。全部私がいけないの』
『な……で、……違う。俺は……』
『私達は、貴方と離れる事が貴方の幸せだと、そう思い込んでいたの』
『……そ、れは、どういう』
『ドルマ、ごめんなさい。貴方にいっぱい辛い思いをさせてしまって……』
『ドルマ』
『お、とうさ……』
『お兄ちゃん!!』
『あ……』
『貴方の弟のカルマよ。……ドルマ、残念だけど……もういかなきゃいけないの』
『待って!!行かないで!!お母さん!!』
『……ドルマ、これだけは覚えていて。私もお父さんも、カルマも、貴方が大好きよ。……愛してるわ、ドルマ』
『やだ!!いかないで!!もう俺を!!』
置いていかないで。
母の消えていく手にすがり付く様に手を伸ばした瞬間、目の前が光に包まれた。そのあまりの眩さに腕で顔を覆い光が収まるのを待った。
そして、光がなくなり目を開けると、風に揺れる草が目に入る。暫く草を見つめていると、前方からよぉ。と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
視線を草から少し上方に向けると、そこにはゼノンが胡座をかいていた。
「よく寝れたか」
「………ゼノ?」
何故、目の前にゼノンが居るのか分からない。
だが、それよりも自分が地面にうつ伏せになっている事に訳が分からず、戸惑った。自分は、魔族に頭を短剣で刺され死んだ。気がしたのだが、よく覚えていない。
ただハッキリと思い出せるのは、母と、家族と話した記憶だけだった。
「……!!おかあッ---!!」
身体を起こそうと腕を動かした瞬間全身に痛みを感じ、そのまま、また地面にうつ伏せになる。
一体自分の身体はどうなってしまったのか。頭の中で無数の疑問が湧く。
「おい、あまり無茶するな。全身傷だらけだし、骨も何本か折れてるぞ」
そう言って目の前にしゃがむのは、先程まで一戦交えていた筈の魔族だった。
その姿に後退しようとするが、身体がいうことを利かず、ズリリ……と横に数センチ、ズレただけだった。
「ちょっと待ってろ。今ある程度なら治してやるから。動くな……って言っても動けないよな」
魔族が手を伸ばし、自身の背に触れると魔力が流れ込んでくるのを感じた。本能的に殺されると思ったが、身体の内側が治されていく感覚に、本当に自分を治療している事を知り驚いた。
「……よし。ま、全回復にはしてやれないが、こんなもんだろ」
また闘うの面倒だし。疲れたし。と呟いた魔族は、手を離すと大きく伸びをした。
そして、立ち上がり碧銀の髪色の男の元へと行く。ドルマが身体を起こすと、後ろを向いていた魔族が、そこで仲間と一緒に待ってろ、いいな?と口にし、何やら碧銀の髪色の男と話始めた。
「……ゼノ……あの」
「お前は、さっきまであの魔族と闘ってたよ。だが、何をどうしたのか……私にもさっぱり分からなかった」
少しの沈黙のあとゼノンは言葉を続けた。
「ただ……あいつの持ってたあの短剣は、並大抵の奴じゃ使えないって事ぐらいだな……あぁ、そういえば、ドルマさっきまですんごい事になってたんだぞ?目から血は流すわ。奇声はあげるわ。おまけに身体の一部が変化するわで、凄いグロかったぞ」
そうゼノンは笑いを含ませながら言葉を漏らした。
「……そう」
「でもな。見てた限りだと、あいつがお前のことを助けたかったんじゃないかと思うよ。私は」
「……魔族が?」
「まぁ、そう見えただけで違うかもしれないがな……とにかく、お前が助かって良かった」
「……うん」




