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作戦


大分、体力を消耗したのか、少年の肩は上下していた。此方は全く疲れていないというか、消耗したのかどうかよく分からない。




いや、本当。ハイスペックな身体だな


(あの子……自分の親を殺したのね)

(喋ったと思ったら…かなり深刻な話だな。どうして分かった?)

(あの子の嫉妬が、教えてくれたの。貴方の頭の中にイメージでも送りましょうか?)




嫉妬の提案に、それは俺にとって必要なのかを考えたが、答えとして出たのは気になる……だった。


そして、嫉妬の提案に即応で答えると、直ぐに頭の中にイメージが流れ込んできた。少し触れた(というか、剣同士が触れた)だけでよく此処まで情報が集まるものだなと感心していると、少年の記憶の他に感情が流れ込んできた。



嫉み、憎しみ、怒り

だが、その奥に隠れている悲しみと虚しさが、痛みとして残っていた。



【痛い……痛いよ………お父さん、お母さん……】




【誰か、だれか……】









【……助けて】




「…………」




突然、テープが切れた様に我に返った俺は、少年を見つめた。誰にも受け入れられない、誰も愛してくれない。


愛情を与えてくれる両親にさえ見放された少年の記憶。




「少年、お前は……」




話しかけようとしたが、全く聞く耳を持たない少年の攻撃をかわしていると、突然サミエルが視界に入った。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦



サミエルは、目の前の敵に静かに見つめる。


短剣を使う女は、サミエルの武器である鞭が威力を発揮できない接近戦で詰めてくる。だが、サミエルにとってはそれは人間の浅知恵に過ぎない。


此方が本気を出せば、この手一つで女を捉えることが出来るし、殺すことも出来る。だがそれをしないのには、理由がある。




(あぁ、一刻も早くアヴァニール様の元へと向かいたい……だが、あくまで私は足止め役……与えられた責務は、全うしなくては……)



先程アヴァニールから言われた言葉の意味を、サミエルは誰よりも深く、そしてその真意を捉えていた。


我々でこの者達を捉え、そして彼方で闘っている主人が此方と合流する前に、そこで寝こけている伯爵令嬢を屋敷付近に戻す事が自分たちに与えられた任務である。と確証している。


ならば、この女も先程の男も部下達も邪魔になる。そう思いながら、目の前にいる女を見ると女が話しかけてきた。




「貴様、何故闘わない?」

「………」

「喋れないタイプか?それとも、喋りたくないタイプか?」

「………」



忌々しい。人間という生き物は、本当に低劣なものだ。サミエルがそう思いながら女の話を流し聞きしていると、絶対に聞き逃す事の出来ない言葉が出た。




「……お前の主様は、何でお前みたいなのを部下にしてるんだ?まぁでも、あれか。これでお前の主様の程度が分かるか」

「貴様、殺すぞ」




完全に挑発していることは分かっていたが、自分だけならまだしも主を侮辱する言葉は絶対に許す事が出来なかった。


一瞬にして殺気が溢れ出すと、女は一度距離を取るために離れていくが、完全に離れる前に女の首を右手で掴むとそのまま持ち上げ、締め上げる。




「がっあ!!!」

「……下等生物の分際で、我が主を愚弄するとは、いい度胸だ。安心しろ、塵すら残さずに殺してやる」

「うっ!!!ぉわ……わた、しを………ころし、たらっ……あるじ、のっ……めい、れいに、そっむく……」

「……」



このまま少し手に力を入れれば、女の首はへし折れるだろう。だが、確かにそれをすれば主であるアヴァニールの命に背くことになる。


サミエルは数秒考え、女の首から手を離した。女はそのまま地面に落ちると、何度も噎せ返る。




「はっ!!!!ごほッ!!ゲホッ!!!」

「……」

「……おまっ……え、いがい、と、あるじっ、おもい……だなっ」

「……気安く話しかけないでくれますか?低劣な人間風情が」

「……は、そりゃ悪かった。だが、こうでもしないとっ……話してくれそうになかったからな」




人間という生き物は、本当に理解が出来ない。そんな下らない事に、命をかけるというのか。サミエルは、これからも一生相容れないであろう種族に冷たい視線をおくる。


女は、ゆっくりとサミエル見上げるとまた話し出した。




「一つ、聞かせてくれ。……お前達には、闘う意思がないのか?」

「……その前に、まず先程の無礼な発言を撤回しなさい。できないなら、私がお手伝い致しましょうか……」




笑顔で女の頭を踏みつけようとしたが、女はあっさりと頭を下げた。




「私が悪かった。これでいいか?」

「……貴方には、恥も外聞もないのですか?」

「別に?コッチの方が弱いってのは分かってるし、何より挑発したのは私だからな」

「……やはり、人間という生き物はよく分かりませんね。ただ単に浅ましく、汚ならしい家畜同然の者もいれば、貴方のように身の程をある程度弁えている者もいる」




まぁ、私からしたら話の通じる塵には変わりありませんが。と、嘲笑するが、女がその表情を怒りに変えることはなかった。寧ろ、そうだな。と賛同してきた。




「まぁ、あんたらには分かんないだろうね。人間ってのは、色んな感情があって、時にそれが目を曇らせちまう。ま、それは私も変わんないけどな……それで?あんたらは闘う気があるのか?」

「……そもそも、その域にすら達していないのですが。あぁ、確か人間という種族はあまり聡明には出来ていないのでしたか?それも、個体差があるようで」

「あぁ、そうだな」

「私は主の命により、貴方をあちらには行かせません。話は以上です」

「そうか……」




そう言って女は鼻で笑うと、唐突に地面に座り胡坐をかいた。よくも敵の目の前でこんなにくつろげる者だ。



「……味方の手助けには行かないのですか?」

「別に。私が行っても行かなくても変わらないだろ。それに、私の部下はあんたのとこのお仲間に捕まったみたいだしね」




胡坐をかき笑う女は、顎をしゃくる。


その姿に苛立ちを覚えるが、サミエルは女の示した背後を向く。後ろから顔を出したのは、ミリアとラオル、そしてその後ろに縄で縛られた奴らがゾロゾロと続いていた。




「あれ、キモエル。何で縛ってないの?」

「まぁ、色々……というか、その変な名で呼ぶのは止めろと言っているだろう、小娘」

「はぁ?キモエルだからキモエルって呼んでるだけでしょ?」




ミリアと睨み合っていると、横からラオルが割って入ってきた。ラオルは横に首を振りながら、サミエルとミリアを交互に見つめる。


どうやら喧嘩になると思ったのか、止めに入ってきたらしい。サミエルは、それが腹立たしかった。




「…………」

「貴様、その目はなんだ?言いたい事があるのなら、ハッキリしたらどうだ?……異端者が」

「…………」




先程まで心配していたラオルの雰囲気が一気に変わる。


不穏な空気になった場を取り繕う様に喋り出したのは、ミリアだった。




「と、とにかく!!喧嘩は後で!!それよりも、アヴァニール様がどうしているのか、確認しないと」

「……それもそうだ。だが、先にそこで眠っている令嬢を、屋敷近くに連れて行く必要がある。そうだな……その栄誉ある仕事は二人に任せるとしよう。安全が確認でき次第、此方に戻るように」

「なんであんたに命令されなきゃいけないのよ」

「私は防衛の要だからな。いざとなればアヴァニール様の盾になる必要がある」

「なっ」




ミリアが拒否しようとした時、ミリアの隣に立っていたラオルがミリアの服をくいくい、と引っ張った。




「な………うん……うん。分かった。ラオル、貴方に従うわ」




精神感応テレパシーで会話を終えた二人は、直ぐに行動に移る。ラオルは令嬢を担ぎ上げ、ミリアが自身とラオルに跳躍魔法ジャンプ質量変動魔法スペリオールを唱えた。


ミリアが木の枝に向かって跳ぶ。その跳躍の威力で、ミリアが跳んだ場所の地面が抉れていた。ミリアの着地した木の枝は、細いが先程かけていた質量変動魔法によって折れる事がない。




「おい、強く蹴り過ぎると、枝を何本も折っていく事になるぞ」

「うっ煩い!!これ結構難しいのよ!!調整とか!!」

「………」




サミエルは、ふーん。と興味のない返事をすると、ミリアの隣にいつの間にか移動していたラオルを見つめる。


音も立てず、ひっそりと闇に溶け込むラオルの跳んだ場所は、足跡すら残っていなかった。


そして、再びミリアを見ると、言っとくけど!ラオルが上手すぎるだけだから!これ基準で見ないで!!と特に何も言っていないというのに、反論が返ってきた。




「はいはい。分かりました。さっさと行って下さい」

「アヴァニール様のこと、ちゃんと守ってよね」

「………」




そう言って、ミリアが踏み出すと枝がパキッと小さな音を立てて折れた。小ぶりの枝は、他の枝に引っ掛かりながらも地面に落ちる。


そして、その後を続くようにしてラオルも枝に跳び移っていく。そうして二人は、そのまま森の中に姿を消した。



すると、後ろから少年とアヴァニールの姿が現れた。



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