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対峙



まぁ、掴みはこんなもんで……いいのか?



目の前で驚いている少女と顔を覆う男の様子を伺いながら、臨戦態勢をとる。それにしても、さっきのはやり過ぎたか?と思う。


先程サミエルに敵になめられないようにと言われたので、サミエルに教えられた通りやったのだが良かったのだろうか?と不安になり、サミエルを横目で見ると小刻みに震えていた。




こいつ、もしかして見たかったからやらせたのか……まぁいいか。それより、戦うのは苦手なんだよなぁ……勢い余って殺しちゃうかもしれないし……


あ、別に今回も殺しても問題ない……でも、色々聞きたいな、どうしよう




完全に身構えている少女と男を見て悩んでいると、ミリアが小さな声で話しかけてきた。




「あの子、この間街で見かけました」

「成る程、此方の様子をずっと伺っていたわけか」

「それとアヴァニール様。あの子、セバスチャンが言っていたんですが、男の子らしいです」

「なる……え?」




ミリアの言葉に、この緊迫した状況に似つかわしくない間抜けな声が出た時、突然木の上から何かが降ってきた。


反射的に防御をするが、横から伸びた鞭に絡めとられたので空振りに終わった。サミエルに視線を向けると、鞭から零れ落ちたのは短剣だった。


上から降ってきた事を考えると、誰かが上から投げてきたのかと思い上を見上げるが、木々の枝しか見えない。だが、確実に誰かが居るのは探知で分かっていた。




「へぇ、随分と優秀な部下を持ってるんだね」

「……お前か、これは」

「あぁ、私だよ。本当はしゃしゃり出るつもりはなかったんだけどね。魔族相手は流石に分が悪いだろう?」




木の上から話しかけてきたのは、髪の長い女だった。


そして少女の横に降り立つと、少女の頭を二、三度撫でた。だから私も混ぜてもらおうかと思ってな?と言うと、少女の頭から手を離し代わりに小振りのナイフを両手に構えた。


すると、突然目の前にいた少女が消え、自身との数センチという距離まで迫っていた。




「おぉ、人間でこれだけのスピードは、初めて見たぞ」



と言っても、前に相手にしたのは格下っぽかったが……




賞賛の声をかけるが、少女はそのまま斬りかかる。


それを難なく避けると、少女は足を高く振り上げた。足の先には鋭い刃がついていて、首元を的確に狙ってきていた。それも綺麗に避けると、いつの間にかサミエル達から距離があいていることに気が付いた。


どうやら、誘導されたらしい。




「サミエル!ミリア!お前達は各々で何とかしてくれ!!あっ!!殺さないようにな!!」

『はい!!』

『ラオル!!お前もこっちについたらサミエル達に加勢してやってくれ!!』

『はい。畏まりました』




「さて、と……じゃあ、俺も頑張りますか」




久々の戦闘に逸る気持ちを抑える。だが、自身では気付く事ができなかった。

無意識にも獰猛な笑みで少女を見つめていることに。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦




ドルマは既にその力の差に気づき始めていた。


いや、本当は最初から気が付いていたのかもしれない。自分ではこの魔族に勝てないことに。だが、身体だけはその事実を認識していないかのように動く。



ただひたすらに、動くのだ。



「…………」




アヴァニールは無言で少女、もとい少年の動きを見て躱す。前に戦った時には観察する前に殺してしまったが、人間がどの程度の身体能力を持っているのかはこの先知っておいて損はない。


今回は全員が一対一の戦闘でよかったと思う。そうでなければ、サミエル達が全滅させていた事だろう。




人間の能力的にはこんなものか……でも、人間の規準が暗殺者っていうのも微妙か。じゃあ、大体この子より下ぐらいが普通の人間くらいか?




両手に握られている短剣は時折急所に振るわれるが、全て避け観察をしていると、ふと彼の隠された左目に目が留まる。


お互い距離を取った所でそろそろ武器を出すかと考え、次元を開けながら少年に話を振る。




「少年、お前のその左目、何か隠しているのか?」

「……貴様に、関係、ない」




短剣を胸の前に構え、鋭い目つきで此方を見ている。これ以上此方の話を聞く気はないという意思表示だろう。




話はできそうにないな……っと、武器は、コレでいいか




手を出すと、そこには少年の持っているのと同じ様な短剣ダガーだった。


柄の部分には装飾なのか、銀の紐が括り付けられている。鞘に覆われていた刃の部分は、普通の短剣より若干太い気がした。すると、あの時と同じように何かが直接頭に話しかけてきた。




(この世の全てに、羨望せよ)




台詞こそ違うが、間違いなく大罪の中の一つだろう。



(嫉み、羨慕せよ……その心の思うままに……)



何だ?嫉妬か?




アヴァニールが頭の中で語り掛けると、短剣が黙る。唐突に静かになった大罪に、どうした?と話しかける前に少年が此方に踏み込んできた。




「うぉ!!」




突っ込んできた少年は構えていた短剣を振りかざすが、どれも当たる事はない。だがそれは分かり切っている事だと言わんばかりに、彼の足技が炸裂する。


身を縮めると、胸に思い切り蹴りを入れてきた。鎧のお陰でダメージはないが、舞い上がった砂埃にむせる。




「けほっ……あぁ、鎧に泥がついた」




後でサミエルにでも拭かせるかと頭の片隅で考えてから、自分の手にしている短剣に語りかけた。




(おい、しっかりしてくれ。お前は嫉妬でいいのか?)

(……えぇ、私は生きるもの全ての感情の終わりと始まりを司る嫉妬)





随分と流暢な喋りに、前に呼び出した強欲を思い出す。あいつは何だか片言で、話すのがあまり得意ではなさそうな感じがした。




(お前、喋りがすごく滑らかだな)

(え!!そ、そうかしら……)

(あぁ、前によんだグリーキィ、強欲とは違(他の奴の話なんてしないで!!!!)




先程は嬉しそうにしていたのに、今度は突然怒鳴る嫉妬に驚いたが、そんな事をしている間にも少年に狙われ続けているので、一度嫉妬との会話が切れる。


一度彼の視線から逃れるために、森の木々に身を隠した。




と、とりあえず……大丈夫?か




ふっと息をはいた後、先程会話が途切れてしまった嫉妬にもう一度話しかける。




(どうした?突然。ヤキモチか?)

(そうよ!!私は嫉妬よ!?その嫉妬の化身である私に、よくあんな事が言えるわね!!)




完全に怒っている嫉妬は、また静かになった。


このまま機嫌を損ねたままでは、きっと嫉妬は力を貸してくれない。何とか機嫌を直して貰えないかと、話しを続けた。




(俺が悪かったから、怒らないでくれ。それに、今はお前の力が必要なんだ。機嫌を直してくれないか?)

(……私が、必要?)

(あぁ、じゃなきゃよんだりしないさ)

(……なら、その証を示して)




このやり取りは強欲の時にもやったなと思ったが、口にするとまた嫉妬の機嫌を損ねる事になりそうだったので口にはしなかった。




(例えば、どんなものだ?)

(そうね……私に極上の嫉妬を頂戴。そうしたら、また貴方のものになってあげる)

(……分かった、約束しよう。お前に必ず極上の嫉妬をやる)




そう言い終わると、直ぐに嫉妬の力が身体に流れ込んでくるのが分かった。熱など感じる筈もない身体が、燃える様に熱い。


どろどろの鉄が体内を巡るような不思議な感覚が全身に広がる。




(本当。身を焦がす程の熱に耐えられるのは、貴方くらいよ)

(あ、これ本当に熱を流してるのか?)

(当然よ。人間は論外だけど、程度の低い魔族なら消し炭になるわ。上位の魔族であっても、身が焼けるの)




まぁ、私はそんなに安い女じゃないってこと。と得意げに言う嫉妬の話に適当に相槌を打つ。


探知能力で少年の位置を掴み、すぐさま少年の足元へと踏み込むが、木々から伸びた枝に何本か引っかかり音を立てた。その音に反応した少年は、まだ此方を認識する前に飛び退いた。


その時、短剣が少年の胸元を触れてもいないのにも関わらず焼け、服の燃えカスが宙に舞った。




(え、掠ったか?)

(いいえ。今のは剣の纏っている熱で燃えたの)




そう言われてみれば、手に持っている短剣の周りが温かい気がした。自分には温かいと思う程度だが、周りからしたら相当の熱なのかもしれない。


そんな事を考えていると、少年が背後に回り、短剣を構えて首元を一直線に狙ってくる。それを弾くつもりで手に持っていた短剣で払うが、少年の持っていた二本の短剣が刃に触れる前に溶けた。


少年は咄嗟に俺の太腿に足をかけ、後ろに飛んだ。そして、根元まで溶けてしまった短剣を一瞥し茂みに放り投げると、脹脛ふくらはぎ辺りからまた新しい短剣を取り出した。




(何本持ってんだ……と言うか、前が……まぁ、男、なんだよな……)




何となく思考があらぬ方向にいくのを感じ、頭を少し振る。




(あぁ、あの子最高だわ!!極上な嫉妬の匂いがする!!)




興奮して騒ぐ嫉妬に、落ち着け。と小声で声をかけた時、短剣を持つ腕に何かが絡みついた感覚がした。腕を見るが特に何かがあるわけでもない。


だが、それは見えずとも動いている感覚があった。短剣からズルズルと腕に這い上がってくる感覚は得体の知れない恐怖があった。




(おい嫉妬。お前、俺の身体に何かしてるか?)

(えっ!?い、嫌だわ!!何もしてないわよ)




嫉妬がそう言うと、先程まで何かが這っていた感触がなくなった。あの腕を這っていた感覚は、蛇か何かだろうかと考えていると、また少年が此方に向かってきた。


今度は刃の部分に意識を集中させ、相手の刃が溶けないように注意する。鈍い金属音の後、押しきろうとする少年に話しかけた。




「お前、見たところ15、6くらいに見えるが、何故暗殺者をやっているんだ?」

「…………」

「親はどうした?」

「煩い!!!!」




短剣を力任せに振り上げた少年は、先程とは比べ物にならない殺気を向けていた。



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