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ディーレ伯爵邸の裏は、森になっていた。


カナレアの部屋のある場所は、その森に近い場所にあった。先程カナレアを拐っていった奴はこの森に逃げたのだ。それを証拠に、此処を通って行ったであろう外番をしていた兵士達の足跡が森へと続いていた。


俺は、森の中を疾走しながらラオルに連絡をとった。




『ラオル。どうして敵が来ている事を俺に連絡しなかった』

『……申し訳御座いません』




ラオルの声に少し苛立った時、すぐ横に追づいしていたサミエルが、仕方のない事だと思われます。と口を挟む。




「どこが仕方がないんだ?説明しろ」

「はい。我々は魔物や魔族、人間と亜人と事細かく探知する事が可能ですが、その中で今回のような小さな脅威、我々の場合には脅威にも含まれませんが、その様な小さなモノばかりを気にかけていたら身が持ちません故、拾わない様にしているのです」

「……敵が弱すぎると、引っ掛からないという事か」




確かに、俺やサミエル、ミリアも一応探知をしていたというのに、襲撃者が来た時、誰も何も感じていなかった。


まさか探知能力にそんな欠点があったとは知らず、ラオルを責めるような事を言ってしまった俺は、唇を噛んだ。




『ラオル、すまない……』

『いえ。私が不甲斐ないばかりに御手を煩わせてしまった事は事実です……申し訳御座いません』

『いや、いいんだ。ラオルも直ぐに令嬢を連れ去った奴を追え。……ロウ、聞こえるか?』

『……はい!!きこ、えます!!』




若干ノイズ混じりの声だが、何とか聞き取れたロウにディーレ伯爵邸に行くように指示を出す。




『俺たちが戻るまで、そっちで見張ってくれ。ディーレ伯爵が狙われる可能性がある』

『わっ……かり、ました!!』




連絡を終えると、更にスピードを上げた。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦




「……………」



ドルマはカナレアを木に寄りかからせる様に降ろすと、その顔を見つめた。ドルマの頭の中には、既にどう殺してやろうかという思考しかなかった。


寝ている間にひとつきでもいいが、やはり起きてから死ぬと自覚した時の絶望した表情が見たい気持ちがあった。自分と同じ、絶望の色を見たいという気持ちが。




「…………」

「……殺さないのですか?ドルマ様」




後ろから聞こえた声に、ドルマは少しだけ目をやった。後ろにはゼノンの部下、フューエルが何人かの部下を引き連れていた。




「……仕事は?」

「こちらに」




部下に目配せをすると、何処からか持ち出したモノをゴロゴロと地面に投げ出した。それは追って来ていた兵士達の頭部だった。


どの顔も苦悶の表情をしているのを見ると、大分恐怖を与えてから殺したのだろう。だが、仕事差し支えるわけでもないので、ドルマは特に何も言わない。寧ろそれが、この隊の暗黙のルールと言っても過言ではない。




「それにしても、何故作戦を変更されたのてす?屋敷内で殺した方が、こうして追っ手も片付ける手間もなかった様に感じますが」

「屋敷に……強いやつ、居た」

「それは、」

「来た」




フューエルが何か言おうとしたが、ドルマは目の前の木々を見つめた。ザワザワと揺らめく木々の音だけが木霊する。



フューエルも同じく木々を見つめたが、特に変な事はない。



何もいない、感じない。



そう言おうとして、フューエルは口を開いた時、木々の隙間から縫うように無数の刃が飛んできた。


フューエルとドルマは難なく避けるが、部下の何名かはそれに気付くのが遅かった為に全身を貫かれ息絶えた。刃が飛んできた方向に目を向けると、そこには金髪の男と白銀に煌めく髪の長い男と、金髪の褐色肌の少女が居た。


その異様な組み合わせに、フューエルは顔をしかめるが、ドルマは既に臨戦体制へと移行していた。




「……強いよ。特に、あいつ」




うわ言のように囁いたドルマは、真ん中に立つ金髪の男を見つめていた。




「お前達が襲撃者ってところか?」




金髪の男が歩みを進めながら尋ねてくるが、地面に転がった兵士達の頭部の一つが足先にごつ、とあたると歩みを止めた。




「……これは、お前達が?」

「えぇ、そうです。我々が殺したのですよ」

「……そうか」




男の短い淡々とした声に、フューエルは違和感を感じた。仲間である筈の兵士達の首が転がっていれば、誰だって何かしら反応がある。


だが、目の前の男は下を向いて頭部を見つめているが、逆上もせず、かといって悲しんでいる様子もない。




(感情がないのか……?それとも、仲間ではない?)




フューエルが考えていると、男は此方に顔を向けた。そして、その違和感は確信へと変わった。


男は、笑っていた。


狂ったような笑みを見せる男は、瞳を妖しく輝かせ、ゆっくりと口を開いた。




「なら、もういいな。此処からは、本来の姿で殺ろうか」




そう言うと、金髪の男とその左右に居た男と少女が、薄い煙に包まれる。そして、煙の中から白い左手が伸びでると、一気に煙が振り払われた。




「………ま、ぞく」




金髪の男には、二本の黒い角と甲冑にマント、白銀の髪の男は額から角が一本伸びている。褐色の少女は、耳が長くなっていた。




「さぁ、殺ろうか」




金髪の男の瞳は、血に染まった様な紅い色をしていた。



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