表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/65

誘拐


「ちょ、ちょっと!!ぶ、無礼よ!!貴方!!」

「仕方ないだろ、歩けないんだから。あと、貴方じゃなくてアヴィーな」




アヴィーと名乗った男は、普通に言ってのけると人目も気にせず屋敷の中へと入っていく。


カナレアの心臓は、廊下を走ったわけでもないのに、ドクドクと早く脈打っていた。それに何だか、顔が熱い。今までにこんな事になったことなど、一度もなかった。




(アヴィー……なんって強引な男なのっ)



先程の失態に続き、こんな事を許してしまっている自身に羞恥を感じるが、そっと下から見た彼の姿は今まで出会ってきた誰より美しく、力強い。


その瞬間、なにかがカナレアの心の中にストンと落ちてきた感覚があった。改めて見る彼の顔に、カナレアは息を詰まらせる。




(…………これが、恋なの?)




生まれて初めての恋に、カナレアはまた顔が熱くなるのを感じた。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦




「カナレア嬢、貴方様の身に何かあったら、ディーレ伯爵がどうなるやら……」

「……申し訳ありません。王子にも心配をお掛けしてしまい、私どうお詫びしていいか……」

「まぁ、いいです。……君も、令嬢を姫抱きで連れてこないでくれ。変な噂がたったらどうするんだ」

「それはすまない。だが、他に方法が思い浮かばなくてな」




カナレアの部屋についてから、何度目かのため息をついたアリシアは、疲れているのか目元を抑え近くにあった椅子に座る。


カナレアはベッドに下ろされていて、少し腫れてしまった足首をメイドが持ってきた氷水の入った袋を当てて冷やしていた。




「取り敢えず、君は一度廊下に出ていてくれ。私はカナレア嬢に話すことがあるのでな」

「分かった」




失礼しました。と一言添えてから部屋を出ると、既に廊下に待機していたサミエルとミリアが問い詰めるかの様に迫ってきた。



「アヴァニール、じゃなかった。アヴィー様!!何があったのですか!?」

「あぁ、カナレア様が足を痛めたから、俺が連れてきたんだ」

「……下等生物の分際で」




小声だがはっきりと聞き取れた台詞に、思わずサミエルの口元を押さえる。誰にも聞かれていないかと、不安に冷や汗を流したが、どうやら聞いていた人物は誰もいなかったらしい。


だが、このまま話を続けると誰かに聞かれる可能性があるので、直ぐにミリアに場所をかえるぞ。と声をかけ、サミエルを引きずりながら誰もいない廊下の角でひっそりと話し出す。




「いいか?俺たちは今、人間なんだからサミエルみたいな発言は控えろ。ややこしい事になるし、人間との抗争なんてまっぴらだからな」

「はい。アヴァニール様……あの、差し出がましい様ですが、キモエルが凄い顔になってます」




ミリアにそう言われてずっと口元を塞いだままだったサミエルに目を向けると、既に死にそうな顔をしていた。押さえていたのは口だけでなく、鼻も塞いでしまっていたらしい。




「わ、悪いサミエル」

「はあっ!!い、いえ……私は大丈夫です……先程は、申し訳御座いませんでした♡」



赤く染まった頬に、潤む瞳と口の端からつぅと垂れた涎が妙に色っぽいサミエルは、苦しみというよりも、うっとりとした眼差しを向けてきた。


それの意味するところを考えるのが怖くなった俺は、おぉ……と微妙な返事を返した。




「ま、まぁ聞かれてなかったから良かったけどな。……取り敢えず、ラオルと連絡を」




とる。と言いかけた瞬間、ガラスの割れる音がした。


かなり近くで聞こえたので、急いで戻るとカナレアの部屋の扉が開いていた。廊下には、何故か数人兵士達が倒れていた。


その廊下に転がった兵士達を避け、部屋を見るとカナレアが髪の長い人物に抱えられていた。




「……まだ、居たの……」




か細いがよく通る声で言う人物は、カナレアを抱えながら此方を向く。ピンク色の可愛らしい服装に、左目に蝶の飾りをつけた少女が静かに此方を見据える。




「……お前、暗殺者、か?」




問いかけに応えるように、少女は一度だけ首を縦に振ると揺らめくカーテンの中に消える。




「なっ!!」




大きく風が吹くと、少女も抱えられていたカナレアの姿も無くなっていた。




「くそ!!逃げた!!」




直ぐに追いかけようと少女の消えた窓に駆け寄り、窓枠に足をかけると、待て!!と身体を止められた。横を向くと、少し傷を負った王子が放すまいと必死にしがみついていた。




「君は訓練を積んでいる訳でもないのに!!怪我でもしたらどうするんだ!!」

「え?あ……」




その瞬間、自分が今は人間の姿であることを思い出した。窓枠から足を下ろすと、身体を掴んでいた王子がその拘束を解いた。




「すまない。……頭に血が登り過ぎていた。これから、俺は仲間たちと共にあいつを追う」

「なら、私も」

「ダメだ。王子はその傷の手当てをしてくれ。あと、廊下に倒れてる奴らも」




そう言うと、王子の後ろに控えていたサミエルとミリアに声をかけ、廊下を走った。


アリシアは、走り去るアヴィーの後ろ姿に祈りを捧げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ