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お嬢様と傭兵



「……で、私はいつまで部屋に閉じ込められてればいいわけ?」




カナレアは普段ならしないような顔と格好で、部屋の前に居るであろう門番たちに室内から話しかける。




『カナレア様。貴方様は今、お命を何者かに狙われておられる立場。どうぞ、ご理解頂きますよう』


 


何度話しかけても門番たちが同じ返答をする事が、カナレアを不快にさせていた。水を取りに行く事もトイレに行くのにも部屋の前にいる者達に許可を取らなければならない。


カナレアはベッドに横になると髪を弄る。


自分が襲われている原因は、父ディーレにあることをカナレアは薄々感じている。父は他国との商売で稼いでいるのだから、命を狙われるような仕事をしていたとしてもおかしくない。


だが、カナレアは父を責める気はない。父のおかげで自分はこうして不自由のない生活をしているのだから、父を恨んではいない。恨むのは筋違いだと思う。


だが、こうして部屋に閉じ込められるのは違う気がする。


大体、父も命を狙われているのだから、自分一人だけが此処に居ることが釈然としない。




「……つまらないわ。折角アリシア様も来て下さっているのに……あぁ、一目でいいから会いたい…………何か、部屋を抜け出す方法……」




カナレアは部屋のあちこちを見て、窓で視線を止める。そのまま窓に近寄り開けると、風がフワリと髪を靡かせた。




「……そうよ、この木よ」




カナレアの部屋の窓からは、小さな頃からある大木が葉を揺らしていた。その大木から伸びた木々は、カナレアの部屋の窓際まで伸びてきている。


あの女の子もきっと此処から侵入してきたのだろうと思うと、早めにこの木々を切ってもらった方が良いのだろうかと考える。


だが、この木には色々な思い出が詰まっている事を考えると切ってしまうのは何だか悲しくなる。




(……は!!そうよ。今は記憶に浸っている場合じゃないわ。早く此処から抜け出して、アリシア様に会わなくちゃ!!)




カナレアは直ぐに窓から木へと飛び移った。これでも昔、木登りはよくやっていた方だった。それを見つかる度に父や衛兵たち、母にもよく怒られたものだ。


カナレアは軽々と木から木へ乗り移り、降りていく……予定だった。カナレアが近くの幹に乗り移った瞬間、その幹が根元からバキッと音を立てて折れた。


長い年月を経た木が、仮にか弱い乙女だったとしても成長した人間の体重に耐えられる筈もなく、根元から折れたのだ。


勿論、その上に乗っていたカナレアも枝と一緒に落ちていく。




「きゃあぁあぁ!!!!」




バサバサと何度か枝に引っかかりながらも、カナレアは下に落ちていく。そして、その枝を通り抜けたカナレアは、既に地面が近い事を感じた。




(誰か!!!!)



カナレアが祈りながら目を瞑ったその時、両足と背中を誰かの手が支える感触が伝わってきた。暫くしてカナレアが目を開けると、目の前にはオレンジ色の美しい瞳をした美青年がいた。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「……何故、裏の警護。というか、何でミリア達が屋敷内警護なんだ?」




一人呟く俺は、屋敷の裏に生えた大木に寄りかかっていた。


サミエルとミリアは、何故か屋敷の中の警護なのに対し、俺だけがこうして外警護をさせられている。特に不満があるわけではないが、何だか待遇に差がある気がした。




「美人と可愛いは正義ってか」




はは、と乾いた笑い声を上げると、上から悲鳴が聞こえた。




「……なんだ?」




ガサガサと枝に引っかかるような音と落ちてくる無数の葉に目を向けていると、突然人間が頭上に現れた。




「うぉっ!!!」




先程から誰かの気配がするなぁ……とは思っていたが、まさか人間が降ってくるとは思ってもいなかった。


だが、驚いているとはいえ魔王である自身の反射神経速度は普通に速い。


落ちてくる人間を見なくても、抱きかかえることくらいは余裕でできる。俺は難なく人間を抱えると、降ってきた人間の顔を見た。




おんな……?




金髪の長い髪が二本に分けて括られていて、少し汚れてしまったドレスはきっと元は美しい物なのだろうと感じた。


顔立ちはかなり幼く感じる。気絶しているのか、中々目を開けない少女?をまじまじと見つめていると、暫くして目を開いた。少女は開かれた大きな瞳で俺を見る。俺も少女の瞳をジッと見つめた。




「………」

「………」




何も喋らない、ただ見つめ合うだけの数分間に痺れを切らした俺は抱えたままの少女に問いかけた。




「あの、大丈夫……か?」

「……え?あ!お、降ろして!!」




少女が突然暴れたので、ゆっくりと地面に足を下ろしてやる。急いで俺から離れた少女は、先程とは違い顔を赤らめたまま此方を睨んできた。



なんで睨まれるんだ……意味が分からん




「……木の上から降ってきたみたいだが、何があったんだ?」

「そ、それは……ちょっと、色々とね!!別に、貴方には関係ないわ!!」




そう言った少女はフンッと鼻を鳴らすと、そっぽを向いた。すると、頭上から男の声が聞こえてきた。




『カナレア様ー!!!ご無事ですかー!!』




頭上から投げ掛けられた言葉に、少女が両手を上に掲げ、大丈夫よ!!と声を張り上げた。




ん?カナレア……カナレア……どっかで聞いたな……



「……あっ!!伯爵のご令嬢!!!!」




俺が喉に痞えていた言葉を出すと、カナレアは此方に顔を向け、わなわなと唇を震わせていた。




「な、なな、なんで、私の名前……」

「いや、俺は今日お前とお前の父親を警護しに来た、雇われ兵だよ」




へら、と笑って見せるとカナレアは赤かった顔を更に赤くした。




「…………あ、貴方……名前は?」

「俺か?俺は、アヴィー・ヴィクトだ。気軽にアヴィーと呼んでくれ」

「……アヴィー。分かったわ。……ま、まぁ……一応、お礼を言っておくわ……ありがと」

「気を付けろよ。お嬢様」




そう言ってつい、頭を撫でるとカナレアは何故か悔し気な顔をして、気安く触らないで!!と俺の手を振り払った。


さっきから何に苛立っているのかさっぱり分からないが、これ以上関わる事もないかと考え、また先程と同じ位置に腰を下ろす。


が、歩き出そうとしたカナレアが、一歩を踏み出した瞬間こけた。




「お、おい!!大丈夫か!?」

「~~~ッ!!!!だ、大丈夫……」



駆け寄ると、カナレアは足首を抑えながらも立ち上がろうとしていた。だが、思うように力が入らないのか、ぺたりと地面に座っている。




「……お前、足首を痛めたのか?」

「……」

「うーん、まぁ立てないなら此処でさっきの奴らが来るまで待つしか……」

「嫌よ!!ドレスが汚れるじゃない!!」



いや、もう十分汚れてるだろ………



「……じゃあ、しょうがない。失礼しますよ、お嬢様」




一応断りをいれてから、カナレアを抱き起こすとそのまま悠然と屋敷に向かった。


俗に言う姫抱きで……



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