憧れの御姉様
「ただいま戻ったっス~!!」
「ただいま……」
セバスチャンが裏口の扉を開けながら声を上げる姿に、ミリアも小さな声であいさつをしてから入る。ずっと被っていたフードを取り、纏っていたローブを脱ぐ。ローブを畳んでいると、セバスチャンが声をかけてきた。
「じゃあ俺、食材を流し場に置いてくるっスから、ミリアさんは先に店内に戻ってて下さいっス!!」
買ってきた袋を抱えると、セバスチャンは流し場に行ってしまった。ミリアはその後ろ姿を見送った後、仕方なく店内に戻ると、先程の様にサミエルが居た。
それは良いのだが、何やら隣にデカい男を引っ付けている。その様子を伺いながら近づいてみると、どうやら話をしているようだった。
「ねぇねぇ貴方、イケメンねぇ♡どうして此処で働いてるのぉ?」
「此処の主人が私のお仕えする主人と仲が良いので、私はそのお手伝いをしております」
「あぁん♡働くストイックな男っていいわぁ~♡」
近くで見ると、サミエルの横に立っていた男の全貌が見えてくる。その男はかなり体格が良く、筋肉がもりもりとついた男だった。
しかもただの男ではないのが喋り方と着ている服で分かる。男が着ていたのは、下着。そうとしか言いようがない。
しかもそれは、フリルの沢山ついたピンク色のもので、布の面積が少ない。下もフリル付きのピンクのパンツに、ガーターベルトをしている。脚にはそのガーターベルトを取り付けた網目の大きいストッキングを穿いている。
髪は濃いピンク色で、髪形は肩まで降ろしているものと、上の方で団子結びが二つあるという独特な髪形をしている。顔は意外にも整っていて、目がぱっちりとしているし、唇もふっくらとしている。だが、男だからなのかこだわりなのか、眉が太く、もみあげもある。
「……………」
今まで見た事のない異様な男に、ミリアは声を出すことなく固まっていた。すると、後ろからどうかしたんスか~?とセバスチャンが顔を出した。
「……あ……あれ」
ミリアが絞り出した声で指を指すと、セバスチャンが男を見て声を上げた。
「あぁ!!ゴリ姉さん!!!帰ってたんスか!?」
「あらセバスチャン、久し振りね♡」
嬉しそうにそのゴリ姉さんと呼んだ男の傍に駆け寄り、飛び跳ねるセバスチャンに、ミリアの思考はついていけなかった。
「あんた、まさか……」
「あ!!紹介するっス!!此方が、マーラ様のもう一人の側近、俺の憧れの、ゴリランヌ・アフロディーテさんっス!!」
その瞬間、ミリアが思い描いていた人物像が儚く砕け散った。
「こんにちは。今紹介に預かった、ゴリランヌ・アフロディーテよ。マーラ様に引き抜かれて側近になったわ♡因みに、私は人間よ♡私のことは、ゴリランヌさんでも、ゴリ姉様でも構わないわ♡」
両手を握り、顎の下に持っていくとゴリランヌはウインクをした。放心状態だったミリアは、その時(略して)ゴリ姉の言葉に口を挟んだ。
「え、貴方人間なの?」
「んもぅ、貴方じゃイヤ~ン♡ゴリ姉様って呼んで?ダークエルフちゃん?」
「……ゴリ姉さん、は、人間ですか?因みに私はミリアという名前がありますので」
ミリアが不機嫌に言うと、ゴリ姉より先に答えたのはその隣に立っていたセバスチャンだった。
「ゴリ姉さんは、元々人間の軍隊に入ってたらしいっス。でも色々あって辞めた後、マーラ様に見込まれて部下になったっス!!」
「なんであんたがそこまで知ってるの?」
「ん?それは俺の方が一応マーラ様に仕えてる歴は長いっスから」
「では何故、彼……いえ、彼女を呼ぶ時はさん付けなのですか?」
突然話に入ってきたサミエルの言葉に、セバスチャンもゴリ姉も顎に手をあて考える。そしてお互いの顔を見て答えた。
「そうねぇ、強いて言うなら……そっちの方がしっくりくるからかしら。ねぇ?」
「そうっスね。ゴリ姉さんは、ゴリ姉さんっスから」
笑顔で言うセバスチャンに、ミリアとサミエルがそれで良いのか。と思っていたことは、誰一人知る由もない。




