接触
「いやー、ミリアさんとお買い物すると何だか効率がいい気がするっス!!!」
「気がするんじゃなくて、効率良く回ってるの」
ミリアはセバスチャンに手渡された色々な店の地図を見ながら歩く。精肉店に野菜市場、他にも酒などなど……昼ご飯用とは思えない品物が地図に書かれていた。既に大きな紙袋を持つセバスチャンは、待って下さいっス~!!!と言いながらなんとか隣を歩いていた。
「て言うかミリアさん。何スかその服」
セバスチャンは首を傾げながら、ミリアを見つめた。
ミリアは、黒いローブで頭から身体までをすっぽりと覆い隠していた。日が高い訳でもないが、見ていて熱い。それと、普通に怪しく見えてしまう。先程立ち寄った店でも、店主が訝し気な顔でミリアを見ていたほどだ。
「何って、店から出たから幻術魔法の効果範囲外で、人間にダークエルフって知られたらどう思われるか……って言うか、なんであんたは何もしてないのよ。せめて何か術でもかけたら?」
「ん?あぁ!!いやぁ、お恥ずかしい話、俺魔法は大の苦手で!!でも、この格好で歩いてても、この服のおかげかこの角もあんまり目立たないんスよね~」
流石マーラ様っスよね!!と尊敬と敬愛の目をするセバスチャンに、絶対その服は彼の趣味だ。という事を告げることができなかった。
「……そういえば、買い出しってあんたと誰かで行ってるんでしょ?誰と行ってるの?」
「えぇ!?な、な、何で分かったっスか!!!」
こいつは本当に阿呆なのかとミリアは思いながら、説明をする。
「あんた、一人じゃ店までの道分からなくて買い出しに行けないって、自分で言ってたじゃない。だから、そこから推測して言ったの」
こんな事、子どもにだって分かると思うけどね。と言ってミリアがセバスチャンを見ると、キラキラと輝かせた瞳で(と言っても、常にだが)凄いっス!!!と興奮しながら言った。
「ミリアさんは凄いっスね!!!流石はアヴァニール様の部下様っス!!!」
「ちょっ!!!そんな大きな声で言わないで!!周りに聞かれたらどうするのよ!!」
ミリアが小声で怒ると、セバスチャンは申し訳ないっス……と若干声を落とした。
「それで?一緒に行ってくれてる人は、どんな人なの?」
「あぁ!!その方は俺の憧れで、心から尊敬できて、マーラ様の隣に立つとこの二人以上に美しいものがあるのかってくらい、美を体現した人っス!!でも、綺麗なだけじゃなくて、とっても強いし、頭も良いんス!!あと、優しい人っスね!!」
「へぇ、そんなアヴァニール様みたいに才色兼備を兼ね備えた人が居るのね……」
「??さい、??何スか??」
「今の話聞いてたら、その人に会いたくなっちゃったな」
「んー、今はちょっとマーラ様の所用で遠征してるっスから、まだ帰って来ないかもしれないっス」
セバスチャンが眉間に皺を寄せながら、確か……明日?明後日?と呟いている姿を見て、ミリアはつい笑ってしまう。今まで自分より年下で、同じ立場の人と会話などは滅多にする機会がなかった。意外にも楽しいものなのだなと思うと、何となく笑ってしまったのだ。それを見たセバスチャンが、あ!!今笑ったっスね!?と尋ねてくる。
「え?いや、別に?」
「えー!!今絶対笑ったっス!!」
馬鹿にされたと勘違いしたのか、セバスチャンは頬を膨らませながら怒って見せると、そっぽを向いてしまった。
「ごめんね、別に馬鹿にしたとかじゃないから。ね?」
「……本当っスか?」
「うん。ごめんごめん」
「……んー、じゃあいいっス!!」
直ぐにミリアに向き直ったセバスチャンは、既に笑顔だった。見た目は少女なのに、笑顔を見せる時だけ、そこに少年らしさを感じるからとても複雑な気持ちになるが、同時に男の子なんだよなぁ。と再認識する。だが、ミリアは特に恋愛対象として見ているわけではないので、あまり気にしていないのが率直な感想だった。
セバスチャンの笑顔は、見ているととても和やかな気持ちになる。それを不思議に感じるが、ミリアもその笑顔に釣られて笑いかけた時、突然セバスチャンがすれ違った少女の肩を掴んだ。
「………」
突然の事に状況が把握できず、セバスチャンと肩を掴まれた少女を見つめる。その少女は、踊り子のような格好で、薄いピンクの長髪を下の方で二つ結びにしている。セバスチャンが更に手に力を入れ、少女に無理矢理顔を此方に向けさせた。
その時、ミリアは一瞬息を吞んだ。
少女の顔には、感情がなかった。突然肩を掴まれた事に対しての恐怖や、怒り、何一つとして感じなかった。普通の人間ならば、肩を掴まれた時点で何かしらの行動をとってもおかしくはない。理解できない事に怯える、それが人間という生き物なのだ。
だが、目の前の少女はただ虚ろな瞳で、辛うじてミリアとセバスチャンを見ている、という感じだ。
(この子……)
「………」
無言のまま数秒経つと、セバスチャンが今までに聞いた事のない口調で少女に話しかけ始めた。
「……お前、その恰好は真似か?俺の真似してんのか?」
あからさま過ぎる怒りと隠す気のないドス黒いオーラを出し、目の前にいる少女に話を続ける。
「これは俺だけが、あの方に許されてる姿だ。他人が真似していいもんじゃねぇんだよ……」
敵意むき出しのセバスチャンが、そのまま掴んでいた少女の肩に力を籠めようとしたのを見たミリアが、慌てて横からセバスチャンの頭を勢いよく叩いた。
「痛いっ!!痛いっスよ!!ミリアさん!!」
叩かれたセバスチャンは正気に戻ったのか、叩かれた部分を撫でている。そんなセバスチャンの耳を引っ掴み、少女に背を向けてから耳元で囁いた。
「馬鹿っ!!こんな所で問題起こす気!?そんな事したら、私もあんたも!!お叱りを受ける事になるし、下手したら私たち二人とも、もう二度とあの方達の傍に居られなくなるわよ!!!?」
「す、すいませんっス!!!だから、耳を放して欲しいっス~~!!!」
半べそを掻くセバスチャンの耳を最後に一度だけ強く引っ張ると、放してやった。そして直ぐに少女に向き直り、頭を下げた。
「ごめんなさいっ!!別に悪気があったわけじゃないの!!この子、こういう突飛なことしちゃう子だから、許してあげて!!」
本当にごめんなさい!!とミリアがまた頭を下げると、少女はミリアに頭を上げるよう言うと、か細い声で喋る。
「……別に、気にしてない。……連れが、呼んでるから。……さよなら」
少女はそう言うと、微笑んでから人の波の中に消えていった。ミリアは安堵からため息をこぼした。その後、またセバスチャンに向き直ると、馬鹿!!と声を荒げた。
「何してんのよ!!急に!!」
「だ、だって……あいつ、俺と同じだったんス……」
「……何が?」
「女装っスよ!!あれは俺だけがマーラ様に許されてるものなのに、他人がしてるなんて……腹も立っちゃうじゃないスか!!」
悔しそうに喚くセバスチャンの言葉に、ミリアは驚いた。先程の少女を、すれ違っただけで女装だと分かるセバスチャンもだが、あの少女(少年?)も完璧にソレを演じていた事に。
「……あの子、間違いなく暗殺者ね」
「??なんでわかるっスか??」
「昔、あんな感じの暗殺者を見たことがあるのよ。まぁ、さっきの子ほど女装は似合ってはなかったけど……暗殺者は相手を油断させるために姿を変えるのよ。老人だったり、女だったり、ときには家族の姿をしたりね。それにあの表情……相当訓練を積んでる筈……」
顔をあげさせ微笑んだあの自然な表情の作り方は、暗殺者特有のものだ。まぁ、変だと思ったのよね。と呟いたミリアは、またセバスチャンを見て言う。
「……全く、あんたも変なのに絡んじゃって……またああいうのが起きたら、マーラ様に全部言っちゃうから」
「えぇ!?それだけは止めて欲しいっス~~!!!」
先を歩き出したミリアの後を、セバスチャンが必死に追いかけた。
セバスチャンのキャラクターは割りとお気に入り……




