表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/65

浮城



「…………」

「…………」

「……なぁサミエル。会議室から溶けかけの氷の刃が落ちてきた気がするんだが、俺の気のせいか?」

「……いえ、間違いなく降ってきました。おそらく、お二人に何かあったのでは……」




サミエルが申し訳なさそうに言うのを見て、俺は溜息をつく。確かに犬猿の仲だと聞いていたが、一体何が二人を喧嘩に発展させたのか。



それにしても、俺の上に振らせて来るなんて……と考えていたら、あの二人にふつふつと怒りが込み上げてきた。




「……あの二人、次会ったらただじゃすまさん」

「アヴァニール様、何と凛々しい……♡」




隣で乙女の様に両手を組むサミエルに、俺は行くぞと一言声をかけて歩き出す。現在俺たちが居るのは元城があった荒野と現本部のある森の間だ。本当ならサミエルの記憶を介して城が建っていた場所まで移動出来るのだが、サミエルの肩に触れようとすると何故か頑なに断られた。本人曰く、俺に(優しく)触れられるとその神々しさ?故に、失神してしまうらしい。



俺には、サミエルが何を言っているか分からないが、ただそれを聞いて分かったのはサミエルでは移動の時に役に立たないという事だ。




「はぁ、またこの荒野を歩く羽目になるとは……って、なんだアレ?」

「…………成る程、考えましたね」




驚く俺とは違い、サミエルはかなり冷静にそれを見ていた。まだソレには距離が遠いが、俺の目にははっきりと映る。白い外壁の建物は、単純だが美しい城だった。城の前には、大きな噴水の様な物が見える。それだけならば普通に美しい城だった。



そう、それだけならば。






その城は、あろうことか地を離れ、中空でピタリと止まっていたのだ。




「あれが、俺の城……」




俺が呟くと、向こうから何かが物凄い速さでやってくるのが見えた。




「ん?ミリア……と、ラオル?」




俺が二人の名前を口にした時には、俺の目の前にミリアとラオルは立っていた。




「アヴァニール様!!(ムー)お帰りなさいませ!!(ムー)」

「………」

「……そうだな、まずは……ミリアのその頭のムームー鳴いてるのはなんだ?」




俺がミリアの頭の上に乗っているものを指さすと、ミリアが嬉しそうにこれですか!!と返してくる。




「実は、前にアマン帝国に買い物に行った時、卵を貰いまして……こんなに可愛い魔物が孵化したんです!!」




ミリアの興奮した声に便乗したのは、頭に乗っていた魔物だった。すると、ミリアはその魔物をひょいと持ち上げ、俺の目の前で抱えて見せる。



赤と青の角、別々に生えている二本の角に豆粒の瞳、そしてぷよぷよした身体には小さな足が六つ、ついている。ぷらぷらと動く尻辺りには、赤と青の二色が混じったもふもふの尻尾がついていた。




「……それ、気持ちいいのか?」

「はい!!気持ちくて、可愛いですよ!!アヴァニール様も、どうぞ!!」




ミリアが俺の目の前にムームー鳴く魔物を突き出し、瞳を輝かせる。俺が恐る恐るその魔物を抱きかかえると、ぷよぷよとした程よい弾力が腕に伝わってくる。ムー、と一鳴きするとその魔物は嬉しそうに俺の腕の中に納まった。




「確かに、気持ちいいな。……名前はもう付けたのか?」

「はい!!ムーちゃんです!!」



意外と安直だ



「そうか、大事にしろよ」




俺がミリアにムーを返すと、ムーは直ぐにミリアの頭へと向かったのだが、途中落ちそうになっていたので、俺はもう一度ムーを掴みそのままミリアの頭の上に乗せてやった。




「さて、次はあの城が何故浮いてるのか聞こうか」

「あれはですね。前回攻め入られた時の反省を生かし、攻め込まれないよう城ごと宙に浮かせました!!勿論、私が作りました魔力式重力波装置を使っているので安全です!!」




褒めてと言わんばかりのミリアの勢いに、おぉぉ………す、すごいな。と声を絞り出した。




「じゃあ、城に行くか。そう言えば、まだグラドが貸し出してくれている大工達はいるのか?」

「えっ、は、はい……」

「?何だ?何かあるのか?」

「いえ!!で、では!!僭越ながら私が飛翔魔法(フライ)をおかけしますね!!」

「あぁ、頼む……」

「…………」

「小娘が小娘が小娘が小娘が小娘が小娘が小娘が小娘が小娘が小娘が」




俺たちは一斉に城へと向かった。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦



シーザ帝国には、王家とその部下にしか立ち入ることが許されていない場所が幾つか存在する。地下室、訓練場、資料室、と場所は様々である。その一角である小部屋からは、紙が床に落ちる音と男の声が廊下に響いていた。




「……くそ、くそっくそっ!!くそっ!!!!」

「……どうしたのぉ?テオくん。いつにも増してぇ」

「るっせぇ!!!おめぇはさっさと書類整理でもしてやがれ!!!」

「だったら、テオくんも手伝ってよ。二人の方が早く終わるのにぃ」




王家直轄の兵、テオ・ジンガとセルス・ドールは、小部屋にてここ数か月の調査内容を纏めていた。




「大体、物に当たっても意味ないと思うなぁ~」

「うるせぇって言ってんだろ!!」

「……まぁ、確かに?テオくんが怒りたくなるのも分かるよ~。まさか、私たちが調査して、ここまで情報が集まらないなんてねぇ」




セルスは持っていた書類を机に投げると、凝り固まっていた背を伸ばす。書類にはミレーア帝国の王子、アリシアと、王家直轄第三班のナハロを殺した魔族に関する情報が書かれていた。




「王子の方は、まだまだ調査しないとだね~。コッチの魔族の方は、完全に情報不足。現場に行っても痕跡がないなんて、あり得るの?」

「……実際そうなんだ。仕方ねぇだろーがよ」




独り言に近い台詞に言葉を返したテオは、頭が冷えたのか手近な椅子を引き、座る。何だかんだ言って、意外と律儀なテオを、セルスは割と気に入っている。その時、セルスはそう言えば、と思い出した事を口にする。




「そういえば、テオくん。アッチはどうなの?」

「??アッチってなんだ」

「知ってるのよぉ~?テオくんが勝手にぃ、メディク様の偵察機の件調べてるの」

「なっ!!!!!」




テオは、セルスに言われた言葉に動揺し一度座った椅子から立ち上がる。セルスはテオに、なにそんなに驚いてんの~?と軽口をたたいた。




「あんだけコソコソ調べてれば誰だって分かるよぉ」

「---ッ!!!……メディク様には、言うなよ」




若干前のめり気味に聞いてくるテオにセルスは、はいはい。と言いながら、テオにもう一度椅子に座るように促した。




「で?どうなの?」

「それがな。コッチも進展はねぇんだ」

「なんだ、そうなの」

「でもよぉ……おかしいと思わねぇか?」




いつもは怒るか黙るかしかしないテオが、珍しく何か疑問に感じている事に、セルスは一度だけ目を丸くした。テオはどちらかというと、ありとあらゆるものを力で捻じ伏せるタイプなので、こういった分析や書類整理が嫌い、と言うか、考えるのが面倒だからいつも思考停止しているのだ。



そのテオが本当に珍しく、或いは初めて、こうして考えている。その事に、セルスは少し興味を抱いた。




「何がおかしいの?」




テオの様子を伺いながら、セルスは少し真面目な声音で返す。目の前で少し髪をかきながら悩むテオは、唸り声を上げたが直ぐに答えた。




「いや、何がって訳じゃねーんだけどよ……」

「なぁんだ、感か」

「るっせえな!!……なんかよぉ……何かあんだよ」

「はいはい。分かった分かった」




セルスはテオを適当にあしらうと、机に置いていた書類をもう一度読み始めた。他にもテオが床に落とした資料などもあるが、まだそちらの方には手を付けられていない。



何せ、数百を軽く超える程の書類がこの小部屋にあるのだ。これでもかなり厳選して書類を見ているが、テオが全く手伝わないせいで中々進行していないのだ。




(はぁ……テオくんがもうちょっとだけ気がつかえて、もっと頭の回転が良ければ……なんて、考えるだけ無駄かぁ……でも、テオくんの言う通り、何かありそう……)




セルスが書類の端から端まで目を通していると、テオが床に散らばった紙を踏みそうになっているのが目の端に写り込む。




「ちょっとぉ。紙踏みそうになってるからテオくん。しかもテオくんがばら撒いたんだから、ちゃんと拾って置いてよねぇ~」

「ケッ、んな面倒な事誰がすっかよ」




文句ばかりのテオにそろそろちゃんと怒るべきか悩み、床に散らばった紙を見た時、一枚の資料に目が留まる。




「これは……魔王の資料?」




その資料は、現魔王達の名前が一人一人記載された紙だった。




「……そういえば、魔王って昔10人だったのよね?」

「あぁ、今はその一番上にいた奴が死んじまったから、平和なもんだけどな」




テオはその後も、一番強い魔王ってどんな奴だったんだろうな。と話を続けていたが、セルスの耳には既に入ってはいなかった。




(魔王かぁ……魔王なら、その場に居なくても高度な魔法か何かで殺せそう………)




その時、セルスの頭の中に嫌な推測が浮かんだ。誰もが考えなかった、もしくは考えようとしなかった事を。




「……ねぇ、テオくん。その死んだ魔王の資料とかってないのかな?」

「あ?んでそんなモン必要なんだ?」

「いや、その、魔王の特性?みたいなものがあるじゃない?それを知りたかったなぁー……なんて」




セルスは魔王達に関する資料を見つめながら言う。



その資料には、現魔王達の二つ名が書き記されている。二つ名とはその名の通り、魔王達の性質と悪行を示す名である。



例えて言えば、第二席の魔王「獄炎王」は、その昔栄えていた王国に一人乗り込むと、烈火のごとく国を焼き尽くし、そこに住む人々を皆殺しにした。それは、正に地獄のような光景だった。という、伝承の様なものからつけられている。




(もしその死んだ魔王が、何か特殊な力を持っていて、現魔王達に……いや、もしかしたら死んだと思わせているだけなのかも……)




セルスの思考は更に続く。




(魔王と、その配下の者達が、この一連の出来事に関わっているのなら、もしかしたら全て説明がつくかもしれない……魔王なら、痕跡を綺麗に消す事も出来る、かもしれない……)




「……ねぇ、テオくん。もし、もしもよ?魔王が死んでいなかった。或いは、生き返ったか何かしてたらどう?それか、現魔王達が何かしている、とか」

「どうって……んなもん、今頃世界は破滅してんだろ。現魔王達も、それだったらとっくの昔に人間全滅くらいすんじゃねーの?」

「……そう、よね。そうね。テオくんの言う通りだわ。ごめんなさい」




セルスはもう一度魔王の資料を見て、自分の行き過ぎた思考に笑う。




(そうよ。魔王が生きているだなんて、そんな事あり得ないわ。はぁ、こんな狭い部屋に何時間も居たから、疲れちゃったのね)




セルスはまた背筋を伸ばすと、テオに一度休息をとる提案をした。




活動報告にもあげましたが、Twitterを始めました。よろしかったら、Twitterも覗いてみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ