十の魔王④
「クライアも帰ったか……あぁ!!飯が!!!!」
グラドが叫んだ後に机を見ると、会合時間内では到底食べきれないだろう料理の数々が、跡形もなく綺麗さっぱり無くなっていた。
「くっそー、またクライアに全部食われてしまったかぁ……」
「クライアはそんなに食べるのか?」
「あぁ、アイツには底無しの胃袋があるんだ。アイツ、見境無く色々食べるから、普段はあの口にはめてる、くつわで抑制してる、らしいな」
まだ自分の皿に残っていた料理を食べながら、グラドは説明する。正直、食べるか喋るかどっちかにしてほしい。
「……残ったのは、私とアホと……ウルフズベインは何故残っている?」
「あらぁ!!冷たいわぁ。私はちゃぁんと報告してあげようと思って、残ってたのにぃ」
そう言いながらルクシアにウインクして見せるが、ルクシアは全く興味がないようで、空になったワイングラスにワインを淹れるよう、ティアに指示していた。
「もぅ、ルクシアちゃんはもっと女性に気を使うべきだわぁ」
「いや、お前はおとっ」
大人しく座っていたグラドが、アホそうな顔でマーラに何かを言おうとした時、高速で銀食器のナイフが飛び、グラドの眉間に刺さる。
「……グラドちゃん、言っていい事と悪いことが、世の中にはねぇ……あるのよ?あぁ、それとも私にキツいお仕置きしてもらいたいのかしら?」
「すまん、失言だった」
グラドは珍しく速攻で謝ると、眉間に刺さるナイフを引き抜いた。
「……それで、マーラは何を報告したかったんだ?」
気を取り直し、俺がマーラに話しかけると、あぁそうだったわぁ!!とわざとらしい態度をとった。
「私、人間の街でお店を幾つか出してるじゃない?そこで、色々と話を聞くの」
「何をだ?」
「ウフフ、それがね。ミレーア帝国の王子さまに、シーザ帝国の王子さまが求婚してるとかって話よぉ♪しかも、ミレーア帝国の王子さま、ひょっとするとお姫さまなんじゃないかってもっぱらの噂なのよぉ」
俺達三人が、その話がなんだ?と言うような表情をしていると、マーラがつまらなさそうにため息をついた。
「もぅ、興味なさ過ぎじゃない?少しは話を合わせようとか思わないの?」
「それより、他にはないのか」
ルクシアのその言葉に、もぅ!!冷たいんだから!!と言いながらも話し出す。
「近頃、シーザ帝国がミレーア帝国なんかから物資を買い集めているみたいね。最近は貴族たちに取り入って、記録には残らない裏の流通ルートを作らせて、物資の横流しをさせてるらしいわ」
マーラの話に、俺もグラドも聞き入っていると、ルクシアがマーラの話をさらに広げる。
「その裏のルートでは、表に出回らないような品はあるのか?」
「勿論。今一番多いのは奴隷売買らしいわ。人間、亜人種、魔族、何でもアリよ」
「その情報、本当に店で聞き出したのか?」
「あら、アヴァニールちゃんは私が人間に何かしてると思ってるの?」
俺が聞くと、マーラは机に肘をつき、指を組むとその上に顎を軽く乗せる。
指を組む動作から、顎を軽く乗せる動作まで、その動き一つ一つがマーラの色香を漂わせる。今だって此方を見ているだけだというのに、その艶っぽい仕草は俺の喉を唸らせた。
「ま、まぁでも、あれだな。それだけの人間たちと関われるのは凄いな」
「ウフフ、そうでしょう?アヴァニールちゃんは、人間に興味があるのかしら」
「まぁ、そうだな。今はその機会を伺っている感じだ」
「あら、そうなの……そうだわ!!アヴァニールちゃん!!私の店で働いてみない?勿論、働いてくれた分はお金も出すわよ♪」
「え?いや……そんな急には……」
「大丈夫!!一旦お城に帰って、他の皆と話し合ってから決めてもらって構わないわ」
もしかしたら、アヴァニールちゃんの記憶の思い出しに役立つかも♪と付け足すマーラに俺は驚くが、ポーカーフェイスを貫いた。そんな俺の様子を伺っていたマーラが、働いてくれるなら他の側近ちゃんたちも、居てくれると助かるわ。とまた付け加え、笑顔を見せる。
うーん……でも、人間に接触するいい機会かもしれない……だが……他の皆が店で働けるのか?というか、普通の店前提で考えてるが、如何わしい感じの店だったらどうしよう……いや、寧ろ危険の伴う感じの仕事、とか……
色々とマーラの店を想像するが、どれもありそうな感じがして怖い。そんな事をしていると、マーラがどうする?と尋ねてくる。
「まぁ、普通の店だったら、働くが……」
「やだぁ!!普通のお店よぉ!!武器屋とかだけど♪それで、アヴァニールちゃんのお返事はOKってことでいいのかしら?」
「……概ねは」
マーラは嬉しいわぁ♪と言いながら席をたつと、側近のセバスチャンの手を繋ぎ魔法を唱え、最後にバイバーイ♪と言い残して消えてしまった。
「…………」
「マーラは相変わらず発想が突飛だなぁ」
「確かに、下等な生物と馴れ合う輩はウルフズベインくらいだな」
「マーラは、前からあんな感じなのか?」
俺が尋ねると、二人ともほぼ同時に頭を縦にふる。
「もっとも、昔は男と言えたな。アレは」
「まぁ、見た目も普通だったしな」
「マーラが?」
俺は今さっきまでいたマーラに、男らしさを重ね合わせようとするが、マーラと男らしさが対極過ぎるために全く想像ができなかった。
「兎に角、今回はもうやめておこう。既に我々しか居ないしな」
「そうだな!!俺は飯が食えたから、何でもいいぞ!!」
「貴様、やはり料理目当てか。アヴィーはどうする?」
「俺は……そうだな。一度俺の城がどうなったか見に戻る」
俺が立ち上がると、同様に二人も立ち上がり、同時に送ろうか?と尋ねてくる。
「あ、いや、大丈夫だワープで帰るから。気を使ってくれて、ありがとうな。サミエル、行くぞ」
俺はサミエルに声をかけ、そのまま会議室を後にした。廊下を歩き、玄関に出て、移動を唱える。その時、転移で視界が閉じる瞬間に、会議室の窓ガラスが盛大な音をたて割れると、上から溶けかけの氷の刃が降り注いできたのだった。




