十の魔王③
「さて、始まったばかりで申し訳ありませんが、私はこれで失礼致します」
開始してから10分も経たないうちにそう発言したのはサミエルの兄、ウィズダムだ。
「む、帰るのか」
口いっぱいに食べ物を頬張るグラドは、水で押し流しながら声に出す。
「はい、一応形式には従いましたから。あぁ、報告は特にありません。現在、一部の低級たちが騒いでいますが、既に手は打っております。人間の方には私、興味がありませんので情報と呼べるようなものはありません。では、失礼致します」
俺に再度、申し訳ございません。と軽く頭を下げ微笑みを向けたウィズダムは、俺の隣にいたサミエルに手を振った。だが、サミエルの何も見ていないかのような態度は最後まで変わらない様で、無視し続けている。
「おい、流石に会釈くらいは」
「いえ、私が何をしてもアレは喜ぶので大丈夫です」
サミエルのまるでゴミを見るような視線の先には、兄のウィズダムが息を荒げながら涎を垂らしていた。涎は床に落ちないように、側近であるベリタスが拭っている。
「サミエルーーー♡また会おうな~~~!!♡♡」
「二度とその汚い面を見せに来ないで下さい兄上。というか息の根止まれ」
最後にサミエルが笑顔で言うと、移動する瞬間にウィズダムが吐血した様に見えたのはきっと俺だけだろう。
血は争えない………しかし、兄弟揃って綺麗な顔してるのに、勿体ないにも程がある………
そう思いながら水を飲むと、次に声を上げたのはジークだった。
「俺もちょいと用があるから、先に帰らせてもらうぜ。セティ」
ジークが席を立つと、後ろに控えていた側近のセティが腰に下げていた刀を鞘に納めたまま取り出す。そして何もない場所で鞘で円を描いた。すると、円を描いた中の空間が歪みそのまま移動空間になった。ジークとセティはそのまま暗い空間に足を踏み入れた。
「あぁ、そうそう。報告は特に何もないぜ。じゃあな、今度は俺の城に来てくれや、アヴァニール」
ヒラヒラと手を振るジークを見た後、空間が一瞬にして閉じた。どうやら室内で使えない移動とは少し違ったものを使っているようだ。次に声を上げたのは、パンドラだった。
「さて、わしも帰るかの………クレア、シオン。帰ってこい」
「……はい、パンドラ様」
その少しの会話の後、一瞬にして双子とパンドラが消えた。
魔法!?いや、あんな一瞬で消える魔法なんて……
「サミエル、さっきのは魔法なのか?」
「はい。パンドラ様がお考えになったオリジナルのモノです。一見便利なように見えますが、肉体がある我々が使うと木端微塵になるそうです」
サミエルに悪気は全くないのだろうが、その笑顔でえげつない話はしないで欲しいと普通に思う。
「ん、という事は、あの双子は人間じゃあないのか」
「はい。パンドラ様がお作りになられた人形。人間には『死者媒体』と呼ばれているようですが、正式には『機械人形』と呼ばれるものです。パンドラ様の人形は精巧に作られる為、人形には命が宿るのですよ」
その言葉の裏に隠されている、だから人形って分からなくても全然おかしくないですよ?の意思を、俺は勝手に汲み取り悪態をついた
「俺には分からないよ。どうせな」
「滅相もございません!!アヴァニール様!!寧ろそのような些細な事に目を配るアヴァニール様は素晴らしいです!!」
「は、下手な言い訳だな」
俺がサミエルを鼻で笑うと、サミエルは両手を震わせ俯いてしまった
あ、やり過ぎか?
「あぁ………アヴァニール様に信じて頂けない……こんな、こんな悲しいことが、この世にあるなど……あぁ、この苦しみ、この痛み……流石はアヴァニール様です……♡」
「……とりあえず、15分は息止めてろ」
「はいっ!!♡♡♡♡」
俺とサミエルのやり取りの後、対面に座っていたオルクスが静かに手を挙げた
「あのー、私も、まだ色々とやる事がありますので、これで失礼致します。調査報告などは後日書面にして送らせて頂きますので、申し訳ございません、ヴァルフレイ陛下」
「いや、気にしなくていい。お前はまだ魔王になったばかりなのだから、忙しくて当たり前だろう。頑張れよ」
「は、はいっ!!」
「ム、それなら私も、帰ろうゾ。ヴァルフレイ陛下、申し訳ないデス」
我ながら魔王らしい対応が出来たのに感動していると、オルクスの隣に座っていたヴォーパルがふわりと立ち(というより浮き)上がる。そのままオルクスの側に行くと、ヴォーパルは口を大きくあけ、黒い煙を吐き出した。その煙は、段々とヴォーパル達を包み込むと、一瞬風が吹きそこに居たヴォーパル、ノーティ、オルクス、ディオが消えた。
「なんだ、皆帰ってしまうとは、薄情な奴等だな」
「ずっと食べているだけの貴様に言われるのは、皆不本意だと思うがな。私はこれくらいの人数の方が静かでいい」
アヴァニールの復活祭も兼ねているのに?とグラドが言うと、アヴィーの復活祭はもっと大々的にやるべきだ。とルクシアがグラスに入っていた赤い液体を飲み干す。グラドが確かに。と言って一人納得していると、突然机が強く叩かれた。
振動が伝わった皿たちが、その位置関係から時間差でガタガタと音を立てる。机を叩いたのは、着けていたくつわをはめ直しているクライアだった。
「………帰る」
クライアはそう一言呟くと、扉の前まで早歩きで歩いていく。唯一扉から出て行ったクライアとその側近であるスプライトは、ゆっくりと閉まる扉の向こうへ姿を消した。
話がなかなか進みませんね……




