十の魔王②
薄い桃色の髪は、ピンク色のリボンで二本に括られている。前髪は、短く切り揃えられていた。瞳の部分は、糸で縫い付けた後がはっきりと残っている。服は髪の色と同様、薄い桃色でとても愛らしい人形に見える。すると、その可愛らしい人形が、突如喋り出した。
「……私は魔王軍第七席、名はパンドラじゃ。この双子は、コッチの黒服が姉のクレアで、コッチの白服が妹のシオンじゃ。よろしくの」
手短に挨拶を終えると、双子の少女達がお辞儀をした。
人形が、しゃべ………うん……。
ていうか、双子は全然似てないなぁ
俺は頭の中の混乱を顔に出さない様に、何とか自身の脳内でやり過ごした。気持ちを切り替えて次にいこうとしたが、次に待ち構えている人物が、先程からずっと俺にウインクをしてきているのを知っていた。それにどう反応していいのか分からず、何事も無いかのように改めてその人物に目を向ける。
美しい孔雀翠色の髪に、鋭く尖った耳、瞳は金色に赤という二つの色。そして、その瞳の右目の下には、泣きぼくろがあった。服装は、今までの誰よりも露出が多い気がする。上半身しか見えていないので、正確な事は言えないが、ジークのような清々しい感じではなく、色気の漂う美人なお姉さん、という感じだ。その後ろに控えているのは、メイド服を来た短髪の女の子で、左右に渦状になった角が生えていて、その間を埋めるかのようにヘッドドレスを着けている。顔は主人と同様に整っていた。目が異様な色に輝いているのは、彼女が魔族か亜人種である証だろう。
「もぅ、アヴァニールちゃんったら~。私のLOVE光線に靡かないなんてぇ。でも、そんなストイックなところもステキ」
「あーっと……悪いが自己紹介から頼む」
あら、そうだったわ。と言った彼女は、今まで何を聞いていたのかと思うが、とりあえず話す気はあるようなので、耳を傾ける。
「魔王軍第八席。マーラ・ウルフズベイン。コッチの子は私の側近の、セバスチャン♡よろしくね 」
最後にまたウインクを一つ俺に送ってきたマーラは、俺の隣に立っていたサミエルにも話しかける。
「サミエルちゃんも、よろしくねぇ♡」
マーラがサミエルに手を振ると、その隣に座っていたウィズダムが直ぐに反応した。
「貴方なに私の可愛い弟に手なんか振ってるんです?その自慢の顔、見るに耐えない姿にして差し上げますよ?」
「あらぁ、別によろしくって言っただけよぉ?貴方こそ、そろそろしつこい粘着系変態兄上様は卒業したらぁ?嫌われるわよぉ?あ、もう嫌われてるのかしらぁ?」
「その口削ぎ落としてあげましょうか?それとも、口の周りの皮膚を溶かして、接合した方がいいのでしょうかね?だいたい、余計なお世話なんですよ。男の貴方に、そんな事は言われたくないですね。というか、サミエル以外にそんな事言われても嬉しくありません。……あ、でも、ヴァルフレイ陛下は例外ですね」
そう言って、羨望の眼差しなのか別の意味を込めた眼差しなのか分からない(というか分かりたくない)ウィズダムの視線に、目を逸らすが、先程の発言が気になった。
「……マーラは、男……なのか?」
「えぇ、そうよぉ♡私があんまりにも美しいから、女神が嫉妬して私を男にしちゃったのよぉ♡でも、安心して?私は美しいものなら、男の子でも女の子でも大丈夫だ・か・ら♡」
マーラは、因みにセバスチャンも男……いえ、男の娘よ♡と言って微笑みを見せる。その姿には女性らしさしか感じないが、ウィズダムが言っていた通りなら、彼女ではなく、彼になる。そして、時間差で身を襲った寒気に、俺は苦笑いをした。
「次は……」
マーラから視線を外し、次の人物を見る。だが次に座る人物は、今までに見た事ないものだった。
黒く大きな身体は、鎧の様に黒く輝き、その身長は此処に居る誰よりも高く大きい。二本の角にギョロ……と動く緑色の瞳は、見たもの全てに恐怖を与えるようだ。そしてその黒く光る身体の中心には、鈍い色を放つ球体が浮かんでいる。それより下は黒い煙が出ていて、足はない。座っているのではなく、宙に浮いている状態に見える。
その黒い大きな何かは、口と思わしき所を開け白い息をハァー……と吐いた。
煙……なのか?見た感じは、第五席の側近に似てるな……
「ヴァルフレイ陛下。お久しいデスネ。私は、第九席、ヴォーパル・グランド・ゼロと、申しマス。よろしく、デスヨ」
そのたどたどしい挨拶の後、その後ろからにゃはっ!!にゃっははっははははー!!!と、何か分からない笑い声が響いた。
「ひっ、ひにゃっ、にゃっはは……はぁー。ヴォーパル様、笑わせないで下さいにゃあ」
「む、そんなに変、ダッタカ?」
「そりゃそうですよぉ。何ですか、よろしくデスヨって」
ムム……と唸るヴォーパルの横から顔を出したのは、顔面を包帯で覆い、その包帯に表情を描いている男だった。包帯は顔だけではなく、所々に巻いている。解けかかった包帯の部分を見ると、その男の後ろの壁が見えた。
コイツは、また違ったタイプのヤツだな……透明、なのか?
包帯の他に身に着けているのは、頭にフード、首に布を一枚と腰に一枚だけという、この中で一番の軽装だ。その男の顔は包帯で見えないが、包帯に描かれた表情が笑って見えるせいなのか、本体もニヤニヤと笑っている姿が目に浮かぶ。
「ヴォーパル様には笑顔が足りないのですよ~」
「…………こう、カ?ドウダ?」
「にゃっははははははは!!!!にゃはーーー!!!」
高らかと笑う男は、ヴォーパルにすみませんにゃー……と謝りつつ、笑いをこらえた。
「ム、そういえば、お前をまだ紹介して、いない……コイツは、ノーティと言ウ、よろしく、デス」
「どうもどうも、ご挨拶遅れました。私、情報屋も兼任しておりますので、何か知りたい時などに何なりとお声かけ下さいにゃあ♪」
するとノーティは、ではでは続けまして、第十席の魔王様、どうぞですにゃ~。と勝手に取り仕切った。
「え、あ……」
突然話を振られたせいか、第十席に座る男は不安げな顔で左右に首を動かした。首を左右に振ると、両方の角の先端に付いている鈴が透き通った音色を出す。そして、何故かその男の肩には龍の人形のような物がちょこんと肩に乗っていた。
あの角のタイプは初めて見るな………
「……あのっ、わ、わたひ……いえ、わたしは……」
緊張しているのか、目線が定まらず言葉も噛み噛みだ。すると、肩に乗っていた人形のような龍が動き出し、そのまま飛んでその男の頬に蹴りを入れた。男は座っていた椅子ごと横に倒れ、俺の視界から消える。倒れる瞬間に蹴りを入れた龍と同じ尻尾がその男にもあった。
龍………人?
「なにビビってやがる!!シャキッとしろ!!主様よぉ!!」
あ、喋った。成る程、あれだけ揺れてて落ちなかったのは、生き物だったからか。……それにしても、主に蹴りを入れていいのか……?
小さな龍がパタパタと小さな羽を羽ばたかせ浮いている姿を見つめつつ、ぶっ倒れた男が立ち上がるのを待つ。暫くして、テーブルに左手が出てきて、それを支えに男が起き上がる。
「痛たた……あ、ありがと。お陰で少し緊張が解れたよ……」
いや、緊張解すなら他に方法あるだろ……。
「改めまして。魔王軍第十席、オルクス・ヴァール・ヴァッヘです。此方は、私の側近で名をディオと言います。私はまだ魔王になってから日が浅く、ヴァルフレイ陛下とこうしてお会いするのも、今回が初めての事で……若輩者ですが、何卒よろしくお願い致します。ヴァルフレイ陛下」
オルクスと名乗った最後の魔王は、薄い笑みを此方に向けた。なんというか、馬鹿にした笑いではなく、幸薄い感じの微笑みだ。そして、何故だか俺はオルクスを応援してやりたいなと思っていた。
「よろしくな、オルクス……ところで、お前は龍……なのか?」
「は、はい、陛下!えっと、純血の龍種の一人なので、一応龍ですね……」
「龍は人型になれるんだな」
「えぇ……。龍はそれなりの年月を生きれば人型にもなれますし、他の姿になることも可能なのですよ。……本当はこんなに長く生きる予定ではなかったのですけどね……」
「……?」
最後、オルクスが小さな声で言った事を疑問に感じた時、俺がオルクスにこれ以上何か聞かないようになのか、グラドが急に立ち上がった。
「よし!!!全員の挨拶も終わったな!!さて……サリヴァン!!!例のものを用意しろ!!」
グラドが後ろに控えていたサリヴァンに声を掛けると、畏まりました。と答え、先程俺達が入ってきた扉へと歩いていく。そのサリヴァンの後ろからは、他の魔王達の配下が次々と続いて行った。だが、全員が行くのではないようで、何人かは魔王の側に待機している。
側近たちは扉を出ると、静かに扉を閉めた。
なんだ、この状況……何があるんだ?
側近の居なくなった魔王達は、その事に特に気にする様子もなく、椅子に座っている。すると、入り口の両扉が大きく開いた。
中に入って来たのは、先程出て行ったサリヴァン達だが、何やらカートを押して戻ってきた。その他に続いていた者達も、同じようにカートを押して来ている。するとサリヴァンが、カートの一番上に置かれた、白い布がかかった物をテーブルに黙々と配置していくと、他の者達も手際よく置いていく。
最後に全員が被さっていた布を取ると、目の前に料理がズラリと並んだ。
今回も旨そうだな!!とグラドが言うと、反対側に座るルクシアがはしたないなと口にする。その言葉を聞いたグラドは、わざとらしく咳払いをすると、料理と共に運ばれてきたグラスを手に取った。同じように魔王達もグラスを持ち始めたので、俺も直ぐにグラスを持つ。
「では、これより!!魔王会合を挙行する!!」
グラドが手に持っていたグラスを高々と上げ、魔王会合の開催を宣言すると、乾杯!!と声を上げた。
ようやく魔王全員の紹介文完了しました……
地味に大変な作業でした…




