衆合と再会と
俺は薄暗い中、目を開けた。
………
漠然とだが、これは夢だと直ぐに思った。何か確信があるわけではない、ただ直感的に思うのだ。
夢……俺も夢なんて見るのか
ただふわふわとした思考と、全く動き出さない身体だけが辛うじて認識できる。すると、突然目の前に誰かが現れた。
誰、だ?
声も出せず、音もない、不思議な空間でぼんやりと俺は考える。暫くして、目の前に居た人物が俺に語り掛けてきた。勿論相手も俺と同様、一切口を動かしていないのに、だ。
【……思い出せ】
………なにを
【思い出せ】
だから、なにをだ
【俺の、全てを……思い出せ】
お前は、………お………れ?
「………」
「……い、おい、アヴァニール!!起きろ!!」
「……ん、あ?」
目を開けると、ぼんやりとグラドの顔が目に映る。何か心配そうな表情をしていたようだが、俺の目が覚めた事に安堵しているようだった。
「……グラド、おはよう」
「ん、おはよう。それにしても、随分とうなされていたな。悪い夢でも見たか?」
グラドが机に置いてあったコップを掴むと、俺の目の前に差し出してきたので俺はそのままコップを受け取る。コップには並々と水が入っていて、その澄んだ水面に自分の顔が映り込んだ。汗一つ掻かない身体だが、今にも汗が噴き出してきそうな形相だった。その表情を掻き消すため、俺はその水を一気に口の中へと流し込む。
「……ぷぁっ…………何か、夢を見ていた……気がするんだが、何だったかもう忘れた」
「そうか。俺はもうお前が起きて来ないんじゃないかと心配したぞ。まぁ、そしたら俺が何がなんでも起こしてやるがな!!………で、そろそろ行けるか?」
グラドはいつも通り腕を組みながら俺に聞いてきた。
「あぁ、会合……だったか………そう言えば、会合って何時からなんだ?」
会合が始まる前には、その会議室?かどこか分からないが、会合が行われる場所には居たい。他の魔王達が勢揃いするのだから、やはりその辺の体裁は守りたいところだ。それに、第一席が遅刻だなんて示しもつかないだろうと思いながら、俺はベットから出て洗面台へと歩き出す。すると、グラドはそうだなぁ、と言ってから衝撃の一言を口にした。
「魔王の会合に明確な時間はないから、大体は日が沈んでからやるな」
「………ん?今は?」
「完全に日が暮れた後だな。もう集まってきてるんじゃないか?」
そう言ったグラドを俺は数秒無言で見た後、グラドの横を通り過ぎ窓の外を見た。グラドの言う通り、日は既に沈んでおり、辺りは暗闇が広がっていた。俺がもう一度グラドを見ると、グラドは何だ?と首を傾げた。
「おい!!なんで早く起こさない!!サミエル!!」
俺が名を呼ぶと柱の影からサミエルが現れ、俺の前に跪き笑顔で何でしょうか?と口にする。
「なんで起こさなかった!!」
「……え………それは……」
サミエルの表情は、笑顔から驚き、動揺へと変化する。何と言ったら良いのか分からない。とでも言いたげなサミエルは、グラドと俺を交互に見ていた。それを不思議そうに見ていたグラドは、俺に声をかけた。
「何を怒っているんだ?アヴァニールは」
「何って!!それは、会合に間に合ってない事にだよ!!」
俺がこんなにも焦っているのに、目の前に居るグラドとサミエルは首を傾げている。その事にさらに腹が立つが、またグラドが俺に話しかけた。
「アヴァニール、お前は昔からこんな感じだったぞ?お前が他の魔王達よりも先に行くことは、今までに一度だってなかった。俺はそう記憶しているが」
なぁ?とグラドがサミエルに話を振ると、サミエルもその通りと言わんばかりに首を縦に振っていた。
「……そうなのか?」
「そうだ」
「……本当に?」
「本当だ」
その言葉に段々と落ち着きを取り戻した俺は、一度ベットの上に腰かけた。なんだか無駄に体力を消費したような気がして、俺は深いため息をつく。
「………俺って、酷いヤツだったんだな」
「いや?そんな事はないぞ?寧ろお前はよくやっていたと思うが……あぁ、そうだ。アヴァニールは昔から寝起きは機嫌が悪いから、誰かが起こそうとすると本気で殺そうとするから、絶対に起こすな。と約束したんだ」
「……そうか」
………ん?今グラド俺の事起こしに来てたよな…………コイツ、忘れてたな
「……あぁ、そう言えば会合の場所ってどこなんだ?」
「ん?此処だ」
「……グラドの城?」
「そうだ。基本的には第一席の城でやることになっているが、アヴァニールの城は再建中だしな。今回は特別に俺の城でやることにした」
ちなみに、会合は会議室で執り行うぞ。と付け足した。
「……とりあえず、顔を洗ってきてもいいか?」
グラドとサミエルは、勿論。と快く了承した。
「…………」
身支度をして部屋を出た俺の足取りは重い。足に何か錘でも付いているのではと思うほどにだ。グラドの言っていた会議室に近づいているせいだ。出来るなら、今すぐにでも元来た道を爆走したい気持ちだ。まだ知らぬ魔王達の顔を想像しながら、一歩一歩確実に前に進んでいくが、ずっと廊下に写る自分の影を見つめていた。
「ついたぞ、アヴァニール」
「え?あぁ…………」
グラドの声に反応し、顔を前に上げると玉座の間と同じような大きさの扉が眼前にあった。扉の向こうに魔王達が居ると分かっているせいか、その扉の隙間からは冷たい空気が流れてくる。扉に手を掛けると、背筋に悪寒が走った。
「…………」
「どうした?入らないのか?」
「分かってる……んだが……気が進まなくてな」
「じゃあ俺が開けてやろう!!!なぁに!!可愛い弟の為だ!!兄貴に任せろ!!!」
「は?え、ちょっ!!」
勝手に解釈したグラドは、俺が手を掛けていた扉を横から勢いよく開け放つと、部屋中に響く大きな声で言う。
『待たせたな!!魔王第一席と、第二席の到着だ!!!』
グラドの声が響いた時、いやそれよりも前に、魔王達それぞれの覇気を肌で感じた。不穏な、或いは不吉な空気に触れ、身体が痺れる。きっと常人には耐えられないほどの威圧感と覇気に、俺の口角は勝手に上を向く。
なに、笑ってんだ俺は!!
顔を左右に振り、表情を無にしていると、グラドが部屋の中へと足を踏み入れた。その後ろ姿を頼もしいと思うのは、俺が完全にビビりモードに入っているせいだと思いたい。グラドが横にステップを踏むと、長いテーブルを取り囲む、魔王達の姿があった。




