お嬢様と暗殺者②
「か、カナレア!!!」
「お父様!!!助けて!!」
涙目になりながらカナレアが叫ぶと、ディーレは衛兵に娘を助けるのじゃ!!と命令をする。だが、衛兵たちはその場を動かなかった。それどころか、衛兵たちはその場に倒れ込んでしまった。首から血を大量に流しながら。
「なっ!!」
「嫌あぁぁぁぁあ!!!」
目の前で倒れた衛兵たちの姿に驚きの声を上げる。ディーレは直ぐに違う衛兵を呼ぼうとしたが、突然後ろから何者かに頭から押さえつけられた。
「ぐぁっ!!!」
「………フューエル」
「ドルマ様。単独行動はあまりお勧めいたしません」
若い男の声にディーレは横目で顔を見る。ほとんどを布で覆い隠しているためにその表情は分からないが、ディーレにはおおよその見当がついた。
「お前たちは、暗殺部隊かっ!!!」
「その通り。ですが、返答次第では生かす予定ではあります」
「私はっ、もう何もしない!!!お前らの主人にそう伝えただろ!!!」
「ふぅ、そのご意思は変わらないようですね」
ディーレを押さえつけていた男は、ディーレを掴んで起き上がらせるとカナレアの方へと目を向けさせる。
「お父様」
「カナレア」
「………」
すると、カナレアの腹の上に跨っていた女の子が立ち上がり、今度は髪を引っ張ってカナレアを膝立ちにさせた。
「うっ、痛ッい……」
「………じゃあ、殺すね?」
女の子は何の躊躇もなく、手にしていたナイフでカナレアを刺そうとして振り上げた。その時、カナレアの頭の中には走馬燈が駆け巡ると同時に、思う事があった。
(あぁ……私は此処で死んでしまうのね……もっと幸せな死に方が良かったな……)
カナレアは迫りくるナイフを一度見た後、目を閉じた。
だが、そのナイフはカナレアに届く前に制止した。女の子を制止させたのは、ディーレの言葉だった。
「やめてくれ!!!」
「………」
「その子は……その子は私のたった一人の、大切な娘なんだ……」
「おや」
その声にカナレアは目を開いた。そして、父であるディーレを見つめた。
「お父様………」
「お願いだ、娘の命を奪うのなら、私を殺してくれ……娘だけは………」
力強く言い放つディーレに、カナレアは涙を流した。だがその涙は嬉しさから痛みの涙へと変わる。髪の毛をぐいと引っ張られ、痛みに顔を歪めたが、それよりも強い恐怖に支配された。自分の髪を引っ張る女の子を見上げると、恐ろしい形相で父のディーレを睨んでいた。
「…………本当か?」
絞り出した声を出す女の子は、ディーレを恨めしそうな目で見つめると更に力を籠める。
「………なら、三日、猶予をやる。お前の大切な、娘を………守って見せろ」
そう言って髪を握っていた手で、カナレアを放り投げた。すると、今までディーレを押さえつけていた男が拘束を解いた。拘束が解けた事でディーレはカナレアを受け止め、座り込んだ。
「カナレア!!!」
「お父様!!」
カナレアはその直後に後ろを振り向くが、女の子と男の姿は既になかった。ただ、また窓から流れてきた風がカナレアの頬を掠めていった。
「よろしいのですか?ドルマ様」
「…………何が」
ドルマは走りながらフューエルに目だけ向ける。先程ディーレ伯爵邸を出てきてから、ドルマは何か殺気立っていた。
「任務を中断して帰られるなど………それに、いつもの雰囲気と違ってらっしゃるので」
「………別に………ただ、腹が立ったから………あいつらは、俺が、殺す。何も、問題ない」
「………そうですか」
静かな夜、雲間から月明かりが覗いていた。




