お嬢様と暗殺者①
「カナレア様!!今日もお美しい!!」
「カナレア様!!」
「カナレア様!!」
「ありがとう、では御機嫌よう」
ミレーア帝国、ディーレ伯爵邸には年頃の乙女が一人居た。名はカナレア・フルドレッド・ディーレという娘である。彼女はディーレ伯爵の愛しい娘であり、国一番の美少女。彼女は裕福な家で何不自由なく育てられ、親バカなディーレ伯爵に蝶よ花よと育てられた。
くっきりとした目鼻立ちに、潤む翡翠色の瞳、美しい金色の髪をツインテールにしている。そんな幼さを感じさせる顔つきとは反対に、コルセットで締め上げられた赤い服は彼女の豊満なボディラインをはっきりとさせている。
そんな彼女は
「…………あー!!!クソ豚共が!!!何なのよ!!!毎日毎日、毎日毎日毎日!!!もう、うんざり!!!」
性格が捻じ曲がってしまっているのだった。
「カナレア。誰かいい人は居たかい?」
「お父様……」
カナレアは父であるディーレに向かって笑顔で駆け寄り、ディーレの襟元を掴み上げる。
「お父様。もっとイケメンを連れて来てって言ったのに……あ・れ・は・な・に?」
笑顔のままディーレの襟元を掴み締め上げるカナレアは、一切その微笑みを崩さない。ディーレはぐっ!!えっ!!と嗚咽を漏らしていた。その父の様子を見て、カナレアは襟元から手を放した。
「……ま、いいわ。許してあげる、お父様」
「ごばぁっ!!!はっ……はっ!!か、かなれあ……そんな事、をっ、言ってもだねっ……」
カナレアから解放されたディーレは、息をつきながら話しかける。話しかけられている本人は、自分の髪を弄っていた。ディーレが諭すようにカナレア……と名を呼ぶと、それに反応したカナレアが強い口調で主張する。
「だって!!!私に似合うのは私と同じ、ううん、それ以上の美貌の持ち主じゃないと釣り合わないわ!!!お父様もそう思うでしょう!?」
床に座り込みながらむせているディーレは、その娘の意見に頭を悩ませる。この時ばかりは、蝶よ花よとカナレアを育てた事を少しばかり後悔してしまう。だが、それを強く言うことも出来ないのでディーレはカナレアの意見を聞くことで気持ちを昇華させていた。
「そ、そうかもしれないが……お前以上の美しさを兼ね備える者など、この世には存在しないのではないか?」
「…………確かに、そうかもしれない」
「な、なら」
「だけど私は諦めないわ!!そう、この帝国の王子様が私を迎えに来て下さるまでは!!」
カナレアは窓の外からミレーアの城を見つめた。その姿に、ディーレは頭の痛い思いであった。カナレアは昔から同い年のこの国の王子、アリシア様がいつか自分を此処から連れ出して、ゆくゆくはこの国の王女になることを夢見ている。そして、年頃になった娘は今、その夢を実現させようとしているのだ。
「カナレアよ……それは考え直し」
「嫌よ!!もうこの世界中何処を探しても、私に相応しい人なんて王子のアリシア様以外、考えられないわ!!」
カナレアはそう言い切ると、自室へと駆け込んでいった。
「あぁ、アリシア様はいつ私をお嫁に貰って下さるのかしら……」
カナレアは部屋の中で一人、王子への想いを募らせていた。
「そう、いつかきっと!!白馬に乗ったアリシア様が私を迎えに来るのだわ!!きゃあ~~~!!!」
両手を頬に添えながら首を左右に振った後、カナレアは小さくため息をついた。
「私が結婚すれば、世界中の男達が泣いてしまうわね……可哀想だけれど仕方が無い事だわ。……あぁ、子供はやっぱり男の子と女の子、二人欲しいわ。そして、家族四人でお城で幸せに暮らす……素晴らしい人生プランだわぁ♡」
我ながら素晴らしい!!と褒め称えていると風が頬を掠めた。風の来た方向を見ると窓が開きカーテンが風に揺らめいていた。
「いけない、窓を閉め忘れて部屋を出てたなんて」
カナレアは直ぐに窓の前に立つと、窓の戸を閉めた。その時には、薄っすらと月明かりが部屋に差し込んでいたが、今は薄い雲が月の光を遮ってしまっていた。
「……嫌な雲」
カナレアは顔をしかめながら窓から離れ、寝る準備をする為窓に背を向けた。すると、後ろからかたり……と何か音がし、それに驚いて振り返ると、また窓の戸が開いていた。
「……変ね」
カナレアはまた戸を閉めると、ふぅと溜息をついた。その時だった。
突然、目の前に可愛らしい女の子が現れたのだ。何の前触れも、予兆すらなく、唐突にその子は現れカナレアに尋ねてきた。
「……君が、カナレア?」
「…………そ、うだけど。………何で」
カナレアは、何故此処に居るのか、どうやって侵入したのか聞こうとしたが、カナレアはいつの間にか床に身体を預けていた。目の前に居た女の子は、カナレアの腹の上に跨っている。
(な、に??何が起きたの?どうしてこんな事になっているの?)
思考の速度が、自分の目の前で跨る女の子の動きに追い付かずにいた。すると、女の子は腰にかかっていた刃物を引き抜いた。暗い室内で煌めく刃先に、カナレアは絶叫した。
「嫌あぁぁああぁぁぁぁあああぁ!!!!誰かぁぁああああぁあああ!!!!」
カナレアが叫ぶと、刃を向けていた女の子は一瞬動きを止めた。その間に、カナレアの部屋の扉が勢いよく開く音がした。目を向けると、そこには逆さまに映り込む衛兵たちの姿と、父ディーレの姿があった。




