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精霊と女神

「……へぇー、人間はそんな事になってるんですかぁ」

「……興味ないなら聞かないで欲しいの」



ルクシアの部下、精霊のティアは自室で魔具を使い、ある人物に報告を行う。


その者達は、あらゆる生と死を司る、俗に女神と呼ばれる者達だ。そして、精霊は本来、現世に降りる事の出来ない女神たちの為に存在している。その主な仕事は、女神が生き返らせた転生者と呼ばれる者達と人間の監視及び、その報告となっている。


だが、ティアの管轄をしている女神はかなりいい加減で、ほとんど連絡を取り次がないので今日は3か月分の報告をしている最中だ。



「ふんふん、それでー?他には何かありましたー?」

「……アヴァニール。アレがティアのご主人のところに来たの」

「ほう!!彼は記憶を取り戻したんですか!?」

「まだ全然、思い出した様子はないの。自分を殺した国くらいは思い出したみたいなの」

「ふぅーむ、それはそれは。やけに記憶の構成速度が遅いですねぇ……まぁ、その辺りは私が何とかしましょう」



多分、記憶の混線が原因かなぁ……と言いながら、何がガサガサと漁り出した女神に、ティアはずっと言いたかった事を口にした。



「……ティア、こんな事もう辞めたいの」



すると、先程までガサガサと何かを漁る音が聞こえていたのが途端に静かになると、女神の低い声が聞こえてきた。



「………はい?何言っちゃってんですか?」

「ティアは……ティアはただ」

「あのですね、ティアさん。ティアさんがこの仕事を放棄するという事は、貴方はもう用済みという事になって、消滅してしまうんですよ?いいんですか?」



まぁ私はどちらでも構わないですけど。と言いながらまた何かを漁り始めた女神の言葉に、ティアは返す言葉が見つからなかった。


精霊は、実は天使から創られた存在である。天使は女神から創られていて主に寿命を迎えた者たちを終焉の地に送り届けるという使命を女神に与えられている。その天使に創られた精霊は、女神には絶対主従なのである。


その女神が精霊を不要だと考えるならばその精霊は跡形もなく消滅する。そして、新しい精霊が生まれる仕組みとなっているのだ。



「もしもぉし、聞こえてますかぁー?ティアさーん?」

「き、聞こえてるの」

「……ま、ティアさんは暫く魔王の監視を続けて下さい。あぁ、さっきのは聞かなかった事にしておいてあげますからー」



ではでは~。と軽い口調で通信を切った女神を、ティアは苦虫を噛み潰したような想いでいた。



「ティアは、ティアの好きな人と一緒に居られれば……いいの」










「まあったく……」



女神は、通信を切った後周りに散らばった資料を取り、ザッと目を通した。その資料には、現魔王達の名前と顔が載っている。女神は三枚目の資料に目を止め、くすくすと笑いだす。



「精霊が魔王に恋ですかぁ。良いですねぇ。夢があって私はとても楽しいです♪」



独り言はまるで誰かに語り掛けるかのように話すのが、女神の癖だ。



「ですが、熱を上げ過ぎて職務放棄でもされたら困るんですよね~。それにしてもアッチの方は全然記憶がないって、一体どうなっているのか……」



そう言いながら女神は立ち上がり、左側にある扉を開けた。そこには床も壁も埋め尽くすほどのコードが張り巡らされている。


この部屋は、女神が転生させた者達の記憶が大量に保管されている場所だ。膨大な数の転生者全員分の記憶が、この部屋の此処だけに収められているのだ。そして此処から少しずつ、ケーブルに繋がれた記憶が、各々の転生者たちへと帰っていく仕組みになっているのだ。


勿論、ケーブルは転生者にも見えず、周囲にも全く見えないようになっている。女神はその中を宙を浮きながら彷徨った。



「ん~……あ、あったあった。あーやっぱり、記憶の回線がごちゃごちゃになってる」



女神は一本のケーブルを持ち上げると、絡みついていた他の記憶たちを丁寧に解いた。



「…………これでよし!!あ、でもこのままあっさり思い出されても困っちゃいますね~……ちょっとだけ、細工しておきますかね~」



女神は一本のケーブルを持つと、小さく手を動かし十字架の描くと、ケーブルに十字架の印が刻まれた。



「これでよし……とさぁさぁ、これからが本番ですよ~」




女神はケーブルを綺麗に束ねてから、部屋を出て行った。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「……取り敢えず、一人だけ俺と一緒に来てもらう。いいな?」

『はい』


俺は目の前に座るサミエル、ミリア、ラオル、ロウの四人を見て言った。俺たちは今、グラドの来客用の部屋を貸してもらっている。そして、明後日に開かれる(予定の)会合に、誰を連れて行くのかの話し合いをしているところだ。



「本来なら、第一側近のラオルに来てほしいが、……お前にはグラドが派遣してくれる者達と一緒に、俺の城を完成させてほしい。勿論、各小隊長全員とその部下達にも手伝わせて完成させろ」



あ、あとロウも一緒にな。と補足で付け足した。ロウはグラドとあった時もルクシアとあった時も、ビビッて涙目になっていたのでこれは俺なりの配慮だった。



今回は魔王全員集まるんだし……ロウは確実に連れて行けないな



「…………」



ラオルは俺の言葉に、静かに頭を下げた。



「さて、ミリア。お前はいけそうか?」

「勿論です。……と、言いたいのですが、魔法研究の方が少し気になるので、私は一度ラオルと共に城に戻ります。申し訳ありません」

「いや、いい。ミリアは仕事を優先してくれ。………サミエルは」

わたくしはアヴァニール様のご命令に従うまでです」



笑顔で言うサミエルに、俺は一瞬迷ったが、こいつも外では大人しいので一言、分かった。と告げた。



「では、今回はサミエルを同行させよう。サミエル、準備を整えておけ。ラオル達は至急、行動に移せ」



『はっ!!!』



全員が返事をしたのを聞いてから、俺は割り振られた部屋へと戻った。部屋の中は、城の内部と同じく落ち着いた雰囲気があり綺麗に家具などが配置されている。その家具は城に配置されていた物とは違う、華やかさがあった。



「このセンスはグラドなのか、それともサリヴァンなのか気になるな」



一人がけのソファに腰を掛けると、ふわりとした柔らかさで身を包まれた。程よい弾力とその柔らかさに思わず目を閉じてしまいそうになる。



「……っと、そうだ」



目を閉じかけた俺は直ぐに身体を起こし、先程ルクシアとの会談を終えて帰って来たグラドから渡された書面を机に広げた。どうやらその書面はルクシアが俺の為にとグラドに渡した物らしく、グラドはとても不満そうな顔をしていた。



確か、魔王の名簿だったか



書面には、第一席から第十席までが載っているとの事だったので俺は書面をザッと見る。だがそこで、ある問題に気が付いた。



「…………全く読めない」



書面の文字を見ていても、一切何が書いてあるのか分からない。



普通こういうのって、前の名残か何かがあって読めるとか、元々読める身体とかじゃないのか??違うのなら、俺は一から文字を覚えないとならないな……


「…………まぁ、明後日会うかもしれないんだし。名前はその時に覚えればいいか」



俺は一人納得し、書面の文字を解読することを早々に諦め、ソファから立ち上がり寝室へと移動した。来客用とは思えない大きさのベッドに飛び込むと、先程までなかった睡魔が突然にやってきて俺をじわじわと蝕んでいく。



今日は寝て、明日はサミエルに……文字の、解……読、を…………



ぼんやりと働かせていた思考は、いつの間にか深い眠りの中に落ちていった。


次の話はキャラクター紹介④が入っているため、イラストが掲載されています。

ご注意ください。

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